超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は最近増加しているスマホゲーム原作のアニメについて、ビジネス面とコンテンツ面の両方から語ります。
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コンテンツの宿命というべきか、あの手塚治虫ですら人気低迷で打ち切られた作品は多いように、どんな人気のマンガ家でも、新作は作品の質がシビアに判断される。スマホゲームも同様で、メーカーが鳴り物入りの新作を出しても、実績はほぼ考慮されない。「モンスターストライク」が大ヒットしたミクシィも、2015年にスタートしたゲーム「ブラックナイトストライカーズ」は配信をわずか1年で打ち切った。スマホゲームは、熱心なユーザーほど特定タイトルに課金するため、簡単に他のゲームに移れない理由があるのだが、スマホゲームの人気の固定化は、業界が抱える悩みの種の一つだ。開発費も上がる中で、新作の投入は、各社にとって大きな賭けとなっている。
こうした中、スマホゲームメーカーが生き残りをかけて取り組んでいるのがIP(知的財産権)戦略だ。ヒットしたスマホゲームを原作に、マンガやアニメ、ライブ、舞台公演などを展開し、マーチャンダイジングとメディアミックス戦略を進め、ゲームの世界観やキャラクターを基に、さまざまなビジネスを展開する。「ガンダム」や「ポケモン」をはじめ、コンテンツビジネスにおいてIP戦略は王道で、スマホゲームもそのレベルに達したといえる。
スマホゲーム原作のアニメは、ガラケー時代の「探検ドリランド」や「戦国コレクション」などをきっかけに、「あんさんぶるスターズ!」や「チェインクロニクル」など、スマホゲーム配信後のアニメ展開という流れが定着している。4月からもCygamesの「グランブルーファンタジー」と「神撃のバハムート」などが放送されており、今後もスマホゲーム原作のアニメが予定されている。
スマホゲームのアニメ化が増えた理由だが、ビジネス面から考えると、非常に合理的だ。ヒットして運営が長期化すれば、会員の継続的な増加と現役プレーヤーの離脱率を減らすことが大切で、さらに一度ゲームをやめたユーザーに復帰してもらうことも重要となる。そのため、多くの人の目に触れるアニメ化は極めて有効というわけだ。一方でアニメ側としても、人気ゲームであれば一定の人気は確保できることから売り上げの数字が計算しやすい。業界の豊富なキャッシュ(資金)も頼もしい。
ところが、コンテンツ面から見ると、スマホゲームとアニメは水と油だ。ネックはストーリー性にある。アニメはエンディングを見越してストーリーが練られる。だが、スマホゲームは利益が出る限り運営が続く特性上、エンディングという考えが極めて薄く、結果としてストーリー性に欠けるものが多い。そのため忠実にスマホゲームをアニメ化すると、ストーリーが物足りなく、熱心なファンほど違和感が残る結果になる。
企画当初から複数の会社から出資を募る委員会方式にして、アニメ化を前提にゲーム制作を展開する手もあるが、今は新規のスマホゲームをヒットさせるのは至難の業。スマホゲーム原作のヒットアニメを生み出すためには、特効薬はなく、今後も試行錯誤をするしかない。「ポケモン」や「妖怪ウォッチ」の成功例に習うならば、アニメとゲームの全権を握ってメディアミックス戦略をグランドデザインする統合プロデューサーの存在が必要だ。しかし、スマホゲームは、利用者の好みを素早く読み取って展開するのが得意だが、人気を度外視した長期視点の運営は苦手だ。
そもそもスマホゲームには「人気がなくなりサービスが終了すれば、二度と遊べなくなる」という弱点もある。これらの弱点を解消し、スマホゲームのヒットを一過性のものに終わらせず、「マリオ」や「ドラゴンクエスト」のように世代を超えて愛されるIPに育てられるか。大量のCM投下もあり、知名度は高いスマホゲームは少なくないだけに、その好機は十分にある。業界の知恵と努力が試されているといえるだろう。
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