高橋一生:表情の演技「答えを一つに絞らない」 「ルーヴル美術館展」に触れて気づいたこと

「ルーヴル美術館展 肖像芸術――人は人をどう表現してきたか」のオフィシャルサポーターを務める高橋一生さん
1 / 12
「ルーヴル美術館展 肖像芸術――人は人をどう表現してきたか」のオフィシャルサポーターを務める高橋一生さん

 俳優の高橋一生さんがオフィシャルサポーターを務める「ルーヴル美術館展 肖像芸術――人は人をどう表現してきたか」が国立新美術館(東京都港区)で開催中だ。「僕に望んでくださっていること、プラス、それ以上のことをサポートできるように」という思いで、今回のオフィシャルサポーターという大役に臨んでいる高橋さん。3月には、仏パリにあるルーヴル美術館(以下ルーヴル)にも足を運んだ。このたび、日本で展示される作品群を改めて鑑賞した高橋さんに、両者から受ける印象の違いや、今回の展覧会の高橋さんなりの鑑賞法アドバイス、さらに、今回の肖像芸術に触れたことで、俳優として改めて気づかされたことなどを聞いた。

あなたにオススメ

 ◇「ディテールが際立つ」展示

 「確かに大役なんですけれど、だからといって縮こまってしまうと、『高橋一生に(オフィシャルサポーターを)やらせたい』と思ってくださった方のご期待に沿えなくなってしまう」という思いから、むしろ気負わず「割とフラット」な気持ちで、高橋さんは今回の役目を受け止めているという。

 今回展示されている作品のほとんどは、すでにパリのルーヴルで鑑賞済みだ。美術館自体が「美術品みたい」なルーヴルでは、「ある意味、空間すべてが『額』みたいなもの」で、展示品が、「よくも悪くも、感じ方としてはすっと入って」きたという。

 対して国立新美術館の「モダン」な建物の中では、作品の「雰囲気が変わり」、また、「絵画にしても、ナポレオンの彫像にしても、ディテールが際立つんです。そういうところにも目を向けることができるのではないかと思います」と今回の展覧会の醍醐味(だいごみ)を説明する。

 ◇「当時の美容法がすごく興味深い」

 中でも、ルーヴルで見たときとは感じ方がまるで違った作品が、「ヴェロネーゼ」こと本名、パオロ・カリアーリによる「女性の肖像」、通称「美しきナーニ」(以下「ナーニ」)と、フランチェスコ・アントンマルキによる「ナポレオン1世のデスマスク」だという。ルーヴルでは、「ナーニ」は、ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」の近くに展示され、しかも周囲にはたくさんの絵画が飾られていた。

 一方、今回の「ナーニ」は、ゆったりと飾られており、「さすがにああして1枚でどんと展示されていると、またちょっととらえ方が変わってきますね。自分と絵画の距離も広くとれると思うので、いろんな見方が個々人でできるのではないでしょうか」と提案する。

 その「ナーニ」について、「当時の美容のための方法は、すごく興味深いですね。あの金髪だってきっと、日光で焼いたのでしょうけれど、その割に肌が白い。当時の女性の美しさみたいなものを、全部あそこに詰め込んだのかなと思ったりもします」と印象を語る。

 ◇憧れの作品との対面

 ナポレオンのデスマスクについては、ルーヴルでは、普段は一般の目に触れないところで管理されているのに対し、今回は作品として展示されていることから、「あれが美術品になってしまうという、ちょっとまた不思議な感じ」という感慨を抱いたという。

 3年ほど前に、美術の本で、彫刻家フランツ・クサファー・メッサーシュミット(1736~83年)の作品と出合い、「当時にしては写実的な作風だなと思った」という高橋さん。以来、彼の作品にはずっと憧れていた。そのメッサーシュミットの自画像彫刻「性格表現の頭像」も、今回展示されている。ルーヴルでは、透明なアクリルケースの中に展示されており、前後左右から見ることができた。今回はそのような鑑賞スタイルはとれないが、高橋さんは、「できる限り、許される限り、(係の人に)止められない限り(笑い)、後ろに回って見てもらいたいです」とアドバイスする。

 ◇展示品から得た役作りのヒント

 ところで、最近は、何かと“分かりやすいもの”が重宝される。そんな中で普段から、「表情というものを、あえて自分で全面に出すことが、果たして表現として正しいことなのかと思っていた」という高橋さんは、今回の肖像芸術に触れ、その表情には何通りものとらえ方があることを実感し、「これまで通りでいいんだ」と励まされたという。そして改めて、表現者として、「自分が表出するときも、受け取るときも、どういう感覚だったのだろうと答えを一つに絞らない、想像の可動域を常に広くとっておきたいと思いました」と明かす。

 さらに今回、「顔にフォーカスを当てられていると逆説的なこともできる」ことにも気付いたといい、「ものすごく怒っている表現を顔でしていても、その内側では、実は喜んでいたりするという表現が、きっとどこかにあるだろうし、ものすごく説明的に見えて、実は何も説明していないとか、そういうものを、見てくださる方にもっと面白がってもらえるようなものを、自分で作り出したいと思いました。いい意味で、相手の期待を裏切っていくようなスタイルもきっとできるでしょうし、そう考えると、きっといろんな方法論があるのだろうなと思いました」と今後の役作りへの意欲をのぞかせた。

 ソフトで気品漂う声の持ち主でもある高橋さんは、今回、展覧会場で聞くことができる音声ガイドも務めた。ガイドの最後には、今回のオフィシャルサポーターを経験したことで感じたことが、ボーナストラックとして収録されている。「自分の感じたままのことを、お耳汚しにならない程度にしゃべっていると思いますので、(作品を)見終わったあとに聞いていただけたら」とアピールした。

 「ルーヴル美術館展 肖像芸術――人は人をどう表現してきたか」は、パリのルーヴル美術館のコレクション約110点を通して、肖像芸術の社会的な役割やその表現上の特質を浮き彫りにしていた展覧会。国立新美術館で9月3日まで開催。

 <プロフィル>

 たかはし・いっせい 1980年12月9日生まれ、東京都出身。数多くの映画、テレビドラマ、舞台で活躍。最近のテレビドラマ出演作に「民王」(2015年)、「おんな城主 直虎」(17年)、「カルテット」(同)、NHK連続テレビ小説「わろてんか」(17~18年)など。映画では「シン・ゴジラ」(16年)、「3月のライオン」(17年)、「嘘を愛する女」(18年)、「blank13」(同)。出演した「空飛ぶタイヤ」が15日から公開中。舞台には「元禄港歌-千年の恋の森-」(16年)、「レディエント・バーミン」(16年)がある。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

写真を見る全 12 枚

芸能 最新記事