キャラとおたまじゃくし島:アニメで「共生」描く 寺田憲史、門秀彦に聞く新たな試み

テレビアニメ「キャラとおたまじゃくし島」の原作・脚本を担当する寺田憲史さん(左)と原作・キャラクターデザインを担当する門秀彦さん
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テレビアニメ「キャラとおたまじゃくし島」の原作・脚本を担当する寺田憲史さん(左)と原作・キャラクターデザインを担当する門秀彦さん

 NHK・Eテレで4月から放送中の子供向けテレビアニメ「キャラとおたまじゃくし島(キャラたま)」(毎週月曜午前10時15分)。人気ゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズやアニメ「きまぐれオレンジロード」などの脚本を手がけた寺田憲史(てらだ・けんじ)さんが原作、脚本を担当し、手話をテーマにした作品などを手がける絵描きの門秀彦(かど・ひでひこ)さんが原作、キャラクターデザインを担当している。個性豊かなキャラクターが登場する冒険ファンタジー。その根底には「共生」「心のバリアフリー」といった大きなテーマが秘められているという。「僕にとってはかなりチャレンジな作品」と語る寺田さんと、門さんに、作品へのこだわりなどを聞いた。

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 ◇大人目線で描いても子供は絶対逃げていく

 アニメは、かつて音楽の神がすむ島といわれ、平和な空気と調和が魔女に大きく乱されたおたまじゃくし島が舞台。少女戦士・キャラが、ガッキアニマルのカタカタと共に、聖なる音楽のエネルギーを取り戻すために冒険に出る……というストーリー。

 主人公のキャラとガッキアニマルのほかに、耳が聞こえず手話で会話するトッポとボビー、その2人を思いやる兄のサミーという3兄弟が登場。番組の公式サイトに手話を紹介するコーナーもあるものの、福祉的な要素を押し出そうとはしていない。単純に冒険ファンタジーとして楽しめる。そこが、番組プロデューサーの紀平延久さんの狙いだったという。

 寺田さんは、「(紀平さんと門さん、自分の)3人の中で、教育的なことを前面に打ち出すというよりも、ファンタジーのアニメーションとして楽しいものにしようと最初に話をしていた」と振り返る。

 主人公のキャラは、体の一部が楽器になったガッキアニマルたちと出会い、冒険を繰り広げていく。実は、繊細な性格のヒュンというガッキアニマルは自閉症をイメージしていたりと、ガッキアニマルたちは、それぞれ発達障害や聴覚障害などの個性をモチーフにして描かれているという。

 ガッキアニマルにさまざまな個性を反映させる際に寺田さんが意識したのは、「うまい具合に『いつの間にかいたな』と思わせる」ことだった。寺田さんは「個性を前面に押し出して、『こういう子もいるんだ。みんな共生してるじゃないか』というのは絶対やめたいなと。僕は、子供番組を長くやってきましたが、大人目線で作ると、絶対子供って逃げるんですよね。だから、例えば車椅子のキャラクターがいたら、アニメを見る中で『そういえば、この子は車椅子なんだ』と思わせるのが、今回の企画の目標だと思うんです」と、こだわりを明かす。

 門さんは両親が聴覚障害者で、幼い頃、絵を描き始めたきっかけも、両親とコミュニケーションを取るためだったという。今回、キャラクターを描く際は「ガッキアニマルの個性ばかりが最初に出るというよりは、内面を描いていきましょうと。キャラクターの性格を色で表現するようにしました」と話し、「動き方や身ぶりとかに人柄が出るんだろうなと思って、それをイメージしながら自分なりに色を付けました。あとは、子供が見て覚えて、自分でまねして描けるようにしたいということを意識しました」と語る。

 寺田さんは、門さんの絵を見て「非常に画力のある、壮大な世界観を持ってらっしゃる絵描きさん」と驚いたという。「キャラたま」は、共生というテーマの下、「僕と門さんが組むことによってどんな化学反応を示すかという。紀平さんも非常に挑戦的な試みとして企画された」ものだった。

 ◇子供たちに笑って、転がってほしい

 寺田さんは、「キャラたま」を「僕にとってチャレンジな作品」といい、「大きなテーマはあるんですけど、それは子供には関係なくて、やっぱりアニメを見て笑ったり、転がったりしてほしいんです」と語る。作品は1話5分と短い。その中で「小さい子に全部の物語を分かってもらうのは難しいと思うので、毎回毎回ギャグで遊ばせる、遊んでもらいたいと思うし、やっぱり子供に笑ってもらいたい」と話す。

 そうした子供向けアニメへのこだわりもある中で、寺田さんは、今のアニメなどのコンテンツについて「キャラクターを類型的に分けることに世の中のコンテンツが慣れている」と話す。「例えば、ゲームのキャラクター設定をする時に、悪い魔道士は黒魔道士、良い魔道士は白魔道士というふうにキャラが分けられる。それが今の時代まで40年ぐらい続いている。そういう類型的なキャラクター設定に慣れてしまっているクリエーターの若者たちが作るものは、使い回しでしかない」と分析する。

 寺田さんは「現実の社会が『ボーダーレス』になってきている中で、コンテンツとギャップができている気がする」と話す。社会で、「キャラたま」のテーマでもある「共生」が目指されている中で、多くのコンテンツは「パターンが同じ。そこに乖離(かいり)がすごくある」と寺田さんは語る。

 ガッキアニマルは、門さんが「謎めいている」と表現するように、最初は何を思って行動しているのか分かりづらい部分がある。そんなカテゴライズされていないキャラクターに主人公キャラが好奇心を持って向き合うことで、理解が深まっていく。寺田さんは、「キャラたま」を作る中で、「自閉症でも、手話でコミュニケーションを取っていても、それが愛されるキャラクターとして映ればいい」と考えたという。

 寺田さんは「カタログ化することに慣れてしまった頭で、共生とか癒やしを表で言う人が増えてきてしまっている気がする。えせ共生感というか……。そうした流れもある中で、このアニメがアンチテーゼになれば面白いかなと思います」と語る。寺田さんは、プロデューサーの紀平さんに「共生」というテーマを「エンターテインメントで包み込んでください」という依頼を受けたという。「キャラたま」には、そうした大きなテーマはもちろん、数々の作品に関わってきた寺田さんの現在のエンタメコンテンツへの思いも込められているのかもしれない。

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