伊藤健太郎:繊細な表現に視聴者が強く感情移入 「スカーレット」武志役が大好評だったワケ

「スカーレット」の武志が大好評だった伊藤健太郎さん
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「スカーレット」の武志が大好評だった伊藤健太郎さん

 3月28日に最終回を迎えた戸田恵梨香さん主演のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「スカーレット」。同作で戸田さん扮(ふん)するヒロイン・川原喜美子の息子の武志を演じ、大好評だったのが伊藤健太郎さんだ。物語の終盤は、武志を中心に人々の思いが昇華していくという非常に重要な役柄を担っていたが、繊細な表現で視聴者に強く感情移入させる芝居を見せた。ドラマが終了した今、改めて、伊藤さんという俳優の魅力に迫ってみたい。

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 ◇役への理解度の深さが垣間見える芝居の連続だった「スカーレット」の武志

 元々、武志は、周囲の空気を読み、母親である喜美子にも気を使うような優しい少年だったが、“青年になってからの武志”を演じた伊藤さんは、その特徴をとてもうまく芝居に落とし込んでいたと思う。特に終盤、病気になり非常に過酷な運命を背負ってしまってからの、喜美子はもちろん、真奈(松田るかさん)や、周囲に対する武志の表面的ではない優しさのある言動は、物語を通して見ている人からすると、武志という人間の本質から一寸のズレもないと感じられるほどつじつまが合っていて、伊藤さんの役への理解度の深さが垣間見える芝居の連続だった。

 自分のこと以上に、周りの人への気遣いができる武志。そんな彼が「俺は大変な道を歩く」と、病気と戦うことと陶芸への強い思いの両方を成就させようとしてからの表情は何とも言えず、皿作りへの活路が見いだせたときの目の輝き、しかし、一方で瞳の奥には、自身の未来をどこかで悟っている影も見えて、この相反する感情が、目を通して自身の葛藤となって伝わってくるから、見ている者はたまらなく感情移入してしまったのだろう。

 人間物語を紡ぐうえで、視聴者に感情移入させるためには、破たんのないストーリーラインはもちろんだが、もっとも重要なのは登場人物に“嘘”がないことだ。この部分には、前述した役への理解度というものも起因してくるが、伊藤さんは“こういう人いるな”と思わせるリアリティーを出すバランス感覚に優れているように感じられた。

 ◇どんな作品・キャラクターでも、“普通”に“いそう”な人物を形作り…

 とは言いつつも、これまでの伊藤さんのフィルモグラフィーを見ていると、決して“こういう人いるな”と思えるようなキャラクターばかりを演じてきたわけではない。劇場版が今夏に公開予定の連続ドラマ「今日から俺は!!」(日本テレビ系、2018年)では、トゲトゲ頭のツッパリ高校生・伊藤真司に扮した。

 「今日から俺は!!」は、賀来賢人さん演じる三橋貴志をはじめ、みな飛び道具を持っているような現実離れしたキャラクターばかり。そんな濃いキャラたちが跋扈(ばっこ)することが持ち味のドラマだったが、そんな中でも、伊藤さんは“普通”にいい奴をしっかり演じ、現実と非現実のギリギリのラインで、ほかの登場人物とのいいコントラストになっていた。

 また、映画「ルームロンダリング」(2018年公開)でも、池田エライザさん演じる“こじらせ女子”の主人公・八雲御子の隣人・虹川亜樹人に扮したが、不器用で陰キャラ、ややキョドり気味な亜樹人のキャラクターは、演じ方によってはリアリティーから離れてしまいそうだが、ここでも絶妙なさじ加減で“いそう”な人物を形作っていた。

 伊藤さんと黒島結菜さんが共演し、人気を博したNHKの連続ドラマ「アシガール」(2017年)でもそう。原作ファンの間で非常に人気の高い容姿端麗・眉目秀麗の若君・羽木九八郎忠清に挑んだが、放送前にはファンタジックなキャラクター設定から、ファンの間では「実写で演じられる人がいないのでは」という声も上がっていたものの、ふたを開けてみれば、繊細な心の動きを視線や仕草で丁寧に表現し、圧倒的な“華”を見せつつ、生身の人間としてしっかり存在させ、多くの称賛を受けた。

 ほかにも、映画「チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」(2017年公開)では、チアリーダー部のキャプテン・玉置彩乃(中条あやみさん)にストーカーのように告白し続ける男子高校生、映画「惡の華」(2019年公開)では、クラスで憧れの女子の体操着を盗んでしまったことから、アイデンティティーが崩壊していく男子学生を演じていたが、どちらも思春期ならではのヌメっとした感じが、妙にリアルで感情をくすぐられた。

 ◇“普通”の感覚を持ち合わせているからこその「リアリティーと説得力」

 どんな極端な役柄でも、どこかに“いるいる”と思わせる面をしっかりとキャッチし、表現できることが伊藤さんの俳優としての魅力だと感じられる。“普通”を“平凡”と置き換えてしまうと、あまりいい印象に感じないかもしれないが“普通”をしっかり演じられるのは、高い演技力があるからこそだ。

 以前、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した際のインタビューで「感覚的には高校2年ぐらいで止まっているんです。一緒に遊ぶのも地元の友達ばかりだし、街を歩いていて、声をかけていただけることもあるのですが、あまり実感がない」と語っていた。2020年も情報解禁されているだけで、すでに4本の出演映画が待機しているなど、人気若手俳優としての地位を確立しているように思われるが、いい意味で“普通”の感覚を持ち合わせているからこそ、どんな役柄でも、人物にリアリティーと説得力をもたらすことができるのではないだろうか。(磯部正和/フリーライター)

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