超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、新型ゲーム機「プレイステーション(PS)5」でも話題となったゲームのビジネスモデルの変化について分析します。
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ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は6月12日、次世代ゲーム機「プレイステーション(PS)5」に関する映像イベントを開催した。イベントでは本体デザインと専用ゲームタイトルが発表され、発売日と価格は持ち越しとなった。定石通りのマーケティングだが、一点疑問に感じられることがあった。それはビジネスモデルだ。従来通りのパッケージビジネス(ゲームソフトを販売して収益を上げるモデル)はPS5でも続くのだろうか。
そこで鍵を握るのが、PS5のスタンダードモデルと共に発売される「デジタル・エディション」だ。スタンダードモデルに搭載されているUltra HD Blu-rayドライブが、デジタル・エディションでは省略される。前者では従来通り、ユーザーは販売店でゲームソフトを購入し、後者ではダウンロードで購入するというわけだ。もっとも、PS5の性能を十分に生かすためには、ディスクで購入しても、本体にインストールして遊ぶスタイルになるだろう。そのため、最初からデジタル・エディションを選ぶユーザーも少なくないと思われる。
もちろん、パッケージ購入のメリットは少なくない。最大のメリットはゲームソフトがユーザーの手に残ることで、アーカイブやコレクション用途を考えれば、これ以外の選択肢は難しいだろう。実際、オンラインゲームではゲームメーカーがサービスを停止すると、ユーザーはゲームにどれだけ愛着があっても、続けて遊ぶことはできない。今後5G回線の普及が見込まれるとはいえ、PS5でゲーム容量も増加する。ダウンロード時間を考えれば、買ってきてすぐに遊べるメリットは捨てがたい。
一方でダウンロード販売の市場は右肩上がりだ。ソニーは2019年度の業績説明会で、PS4のソフトウェアの販売本数におけるダウンロード比率を公開しており、それによると2018年度は37%だったものが、2019年度は51%に増加した。特に第4四半期(1~3月)は66%にのぼっている。背景にあるのがコロナ禍で欧米のユーザーが厳しい外出制限を受けたことだ。徐々に経済活動は戻りつつあるが、アフターコロナで生活様式が変化する中、ダウンロード購入の習慣は今後も続くと思われる。
ビジネスモデルについても多様化が進んでいる。ゲーム以外の分野では、映画配信サービスの「Netflix」や音楽配信サービスの「Spotify」をはじめ、インターネット配信とサブスクリプションモデル(定額課金)を組み合わせた市場が急成長中だ。ゲームにおいてもアップルがiPhone向けに開始した「アップルアーケード」や、グーグルのクラウドゲームサービス「Stadia」など、サブスクリプションモデルが増加傾向にある。
こうした波は家庭用ゲーム機のビジネスにも波及している。ライバル機のマイクロソフトはXbox OneとWindows PC向けに、「Xbox Game Pass」を展開中だ。SIE自身もクラウドゲームサービス「PlayStation Now」でサブスクリプションモデルを展開しており、既にPS4とPS3で400タイトル以上のゲームが遊べる状況にある。こうした中、PS5だけが従来と同じ売り切りモデルを続けるとは考えにくく、ビジネスモデルの多様化が進むことが予測される。
さらに近年では、最新PCゲームを無料配信する動きも出てきた。ゲームエンジンベンダーのエピックゲームズが自社サイト「エピックゲームズストア」で、週替わりで行っているものだ。配信されるゲームは同社のゲームエンジン「アンリアルエンジン(UE)4」採用タイトルだけでなく、大ヒットタイトル「グランド・セフト・オート5」なども含まれる。同社はPS5でも最新エンジン「UE5」の提供を予定しており、ゲームの無料配信を通して、ストアの販促につなげる狙いがあると見られる。
これらはいずれもデジタル流通の拡大によるもので、背景にあるのが絶え間ない技術革新だ。今後も現在では想像もつかないビジネスモデルが登場することが考えられる。面白いゲームを作ることは当然で、その上でいかに自社のビジネスモデルを創造的に破壊していけるかが、生き残りの鍵を握るのはあきらかだ。ユーザー視点でみれば“天国”、開発者視点でみれば“地獄”という状況が進む中、PS5がどのような新しい体験を提供するのか、少し視野を広げて注目していきたい。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。2008年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。2011~2016年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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