森山未來:言葉以上に伝わる動きの表現 映画「アンダードッグ」で圧倒的存在感

11月27日に公開された映画「アンダードッグ」で末永晃を演じる森山未來さん  (C)2020「アンダードッグ」製作委員会
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11月27日に公開された映画「アンダードッグ」で末永晃を演じる森山未來さん  (C)2020「アンダードッグ」製作委員会

 俳優で、ダンサーとして活躍中の森山未來さん。これまで取材やインタビューなどで、ユニークな役へのアプローチを語ることが多かったが、北村匠海さん、勝地涼さんと共演し、11月27日に公開された映画「アンダードッグ」(武正晴監督)では、元日本ライト級1位の実力を持ちながらも、現在は“かませ犬”として鬱屈した日々を送るボクサーという難役を、圧倒的な存在感で表現している。

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 ◇唯一の表現方法は「ただひたすら拳を打ち続けるだけ」の末永

 森山さん演じる末永晃は、一度は頂点に手をかけるまでの力を見せつけていたが、タイトル戦で敗れ、その後は目標もなく“かませ犬”として、ボクシングにしがみついている男だ。ある意味でどん底を這(は)うように生きる晃には、希望と呼べるものはなにもない。

 口数も少なく常にうつむき加減。唯一の表現方法は、ただひたすら拳を打ち続けるだけ。森山さん自身も台本を読んだとき「『……』が非常に多いな」と感じたことを話していた。さらに「極端に言うと、ボクシングというリングの上でしか感情を発露できない人間」と感じたという。

 実際、劇中で末永は自身の思いをせりふとして発することはほとんどない。ただひたすら、動作とたたずまいで、内にため込んでいる感情に説得力を持たせている。猫背でポケットに手を入れて歩くシーンが何度か登場するが、背中を見ているだけで、末永がどんな思いでいるのかを想起させられる。

 脚本家の足立紳さんも「本当にしゃべらない役。プロットを書いているときから森山さんに演じてもらいたいという気持ちがあった」と東京国際映画祭のオープニングセレモニーで語っていたが、確かによほどの俳優でなければ、この役はできないのでは、と思わせるような芝居だ。森山さん自身も撮影の1年前からボクシングのトレーナーと徹底的にトレーニングをし、憎くない相手を殴る気持ちや、ボクシングにとりつかれる気持ちに向き合ったとセレモニーの席で語っていた。

 ◇「さよなら、小津先生」の頃から語らずに心の闇を… 舞台出演も精力的に

 森山さんを最初に強く認識したのは、連続ドラマ初出演となった「さよなら、小津先生」(フジテレビ系、2001年)。森山さんは、大人を信用せず、将来への夢を持てない金髪のバスケ部員・井本を演じた。井本は田村正和さん演じるバスケ部の顧問・小津先生との出会いで、徐々に目に光を取り戻していくが、冷めた目で教室内から紙飛行機を飛ばす仕草や、すがるようにバスケをする姿など、10代にしてすでに、語らずに心の闇を非常にうまく表現していた。

 その後、山田孝之さんが主人公を務めた「WATER BOYS」(同、2003年)では一転、シンクロ同好会一のムードメーカー・立松憲男を演じ、強いインパクトを与えた。「さよなら、小津先生」のときのバスケもそうだが、この作品でも身体能力を生かしたダイナミックな動きで、明るい男をコミカルに表現していた。

 映画やドラマなど映像作品に出演し知名度を上げる一方、デビューのきっかけとなった舞台もライフワークとして精力的に行い、得意のダンスを駆使した体全体を使った表現でファンを楽しませる。印象に残る作品は枚挙にいとまがないが、ドラマ・映画「モテキ」でタッグを組んだ大根仁監督が演出を務めた舞台「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」(2012年)では、圧倒的な歌とダンスを披露し、「人間が動くということが、これほどまでに人に強い感情を与えるものなのか」と衝撃を受けた。

 翌2013年10月から、文化庁の海外派遣型「文化交流使」の指名を受け、イスラエルのダンスカンパニーに約1年間所属し、体を使った表現に磨きをかけた。

 帰国後も、映画「怒り」(2016年)では、静と動の芝居で人間の持つ狂気さを恐ろしいまでに見せつけると、「サムライマラソン」(2019年)では、褒美をもらうために、姑息(こそく)な手段を使い優勝を目指す侍・辻村平九郎を演じたが、森山さんの体の動きを見ているだけで、平九郎という侍がどんな人物であるのかが分かるほどだった。

 せりふや顔の表情などアップでとらえたときの表現力の高さは言うまでもないが、引きで撮ったときの体全体から匂わせるような人物造形は、森山さん独特のもののように感じられる。最新出演作「アンダードッグ」でも激しい動きのあるボクシングシーンはもちろん、車を運転する仕草や、歩く後ろ姿、リングでたばこを吸って寝転ぶシーンなど、とにかく森山さんの動きの芝居は、言葉以上のメッセージを感じる。

 ◇「脚本にある愚直さを大切に演じたかった」と語っていた

 前述したように、特に本作では、末永としてのせりふは少なく、より森山さんの体を使った芝居が堪能できる。

 「脚本にある愚直さを大切に演じたかった」と語っていた森山さん。この言葉通り、森山さん演じる末永、北村さん扮(ふん)する大村龍太、勝地さんの宮木瞬と、置かれている境遇はまったく違うが、恐ろしいほどに愚直な3人の魂のぶつかり合いは、前後編約4時間半という長さを感じさせない。

 蛇足だが、森山さんと勝地さんはこれまで何度か共演経験はあるが、初めて作品を共にしたのが、前述した森山さんにとって初の連続ドラマ出演作の「さよなら、小津先生」。そして末永の別居している妻・佳子役の水川あさみさんも、このドラマに出演していた。その他、永山瑛太さんのドラマ初出演作(出演時はEITA名義)であり、忍成修吾さんや、「ごくせん」のクマで知名度を上げた脇知弘さんなども生徒役で登場している名作。森山さんと勝地さんの戦うシーンを見て、また作品を見たくなった。(磯部正和/フリーライター)

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