小野憲史のゲーム時評:PS3、PSVITAタイトルの販売継続に見えるユーザーコミュニティーの発言力

プレイステーション3
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 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、今夏での終了が発表されていたプレイステーション(PS)ストアでのPS3、PSVITAタイトルのダウンロード販売が、一転して継続されることになったニュースについて語ってもらいます。

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 ゲーム機の価値は人それぞれだ。ゲーム機の販売台数、キラーソフトや対応ゲームの数、参入企業の株価など、さまざまな価値観がある。こうした中、あらたに「ゲームの思い出」が加わった。このことは今後のゲームビジネスで大きな意味を持つ可能性がある。それを実感したのが、ソニー・インタラクティブエンターテインメント(SIE)が4月20日に発表した、デジタル配信サイトのプレイステーション(PS)ストアにおける施策の変更だ。

 ことは同社がPSストアにおけるPS3、PSVITA、PSP向けのコンテンツ販売などを今夏に終了すると、本年3月に発表したことにはじまる。これにユーザーコミュニティーが反発し、撤回に追い込まれた。同社のジム・ライアン社長兼CEOは4月20日づけで公式ブログを更新し、旧ハード向けの販売サポートに課題があったことや、現行機に開発リソースを集中させるための決定だったが、「さらなる検討を重ね、この判断は誤っていたとの結論に至った」と述べた。

 これにより、PS3とPSVITAのコンテンツ販売は継続される。ただし、PSPむけのコンテンツ販売は、予定通り7月2日に終了されることになる。

 背景にあるのが、ライバル機であるXbox X/Sの存在だ。PS5はPS4との後方互換性はあるが、それ以前のゲーム機とは乏しい。これに対してXbox X/SではXbox One、Xbox 360との後方互換性を備えており、遊べるゲーム数は数千タイトルにおよぶ。過去機種で撮りためたスクリーンショットやプレー動画なども、インターネット経由で再生できる。クラウド上にアップロードされていれば、セーブデータも共有可能だ。他に初代Xboxとの後方互換性も限定的ながら備えている。

 こうした体験が可能なのも、Xboxシリーズではユーザーごとのプレーデータがクラウド上に保存され、専用アカウントで管理されているからだ。同社は巨大なクラウドサービス「アジュール」を持ち、ビジネスの根幹に据えている。Xbox X/Sもまた、アジュールと連携して使用するデバイスの一つという位置づけだ。ゲームを遊んだ体験がクラウド上に蓄積されて、いつでもゲームを再開したり、懐かしさに浸れたりするのは、Xbox X/Sならではだろう。

 一方でSIEも過去の名作ゲームがクラウドゲームで楽しめる定額制サービス「プレイステーションナウ」を提供中だ。もっとも、ゲーム数は約400タイトルにとどまり、最新ゲームも少ない。SIEの親会社であるソニーは家電メーカーのDNAをもち、PSもレコードやCDプレーヤーと同じく、コンテンツの再生器機として開発がスタートした。PCのOS開発で始まったマイクロソフトとは、出自が異なっているのだ。

 もっとも、クラウドの重要性はソニーも理解済みだ。2019年からマイクロソフトと提携し、ゲーム分野をはじめ、AI分野や半導体分野でアジュールの活用を推進している。ただし、具体的なサービスはまだ見えてこない。にもかかわらず、今回SIEは経済的合理性から、過去ハードのコンテンツ販売を終了させようとした。こうした施策がユーザーコミュニティーにとって、どこか一方的なものに感じられたとしても、おかしくはないだろう。

 今回の一件が示したものは、過去のゲーム資産だけでなく、ユーザーのプレー資産が、個々のコンテンツよりも大きな価値を持つ時代が到来しつつある、ということだ。単に旧作ゲームが楽しめるだけでなく、その時の思い出がセットになって体験できる点が重要だからだ。こうしたプレー資産は、いわゆるビッグデータであり、企業にとっても大きな価値を持つ。マーケティング活動だけでなく、新作ゲームの開発をはじめ、さまざまな施策に応用可能だろう。

 このことは、これまでゲーム機の世代ごとにリセットされてきたゲームビジネスのあり方すら、再考する必要が出てきたことを意味する。これはSIEだけでなく、任天堂においても同様だ。社会全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中、ゲーム機がどのような進化を遂げていくか、今後も注目していきたい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011年からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。

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