サマーゴースト:人気イラストレーターloundraw 劇場版アニメ初監督の挑戦 新しい表現を

「サマーゴースト」の一場面(C)サマーゴースト
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「サマーゴースト」の一場面(C)サマーゴースト

 住野よるさんの小説「君の膵臓(すいぞう)をたべたい」などのイラストを担当したイラストレーターのloundraw(ラウンドロー)さんが初めて監督を務める劇場版アニメ「サマーゴースト」が11月12日に公開される。劇場版アニメ初監督作品で、loundraw監督の繊細なタッチのイラストがそのまま動き出したかのような独創性にあふれた映像が魅力だ。loundraw監督に「挑戦になった」という同作の制作の裏側を聞いた。

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 ◇どうして生きているのか?という疑問

 loundraw監督はこれまでテレビアニメ「月がきれい」「Vivy -Fluorite Eye’s Song-」などのキャラクター原案を手がけたことでも知られ、2019年1月にはアニメーションスタジオ「FLAT STUDIO」を設立。イラストレーターだが、アニメ制作に携わり、アニメを自主制作したこともある。

 「自分がこれから何をしたいのか?と考え、一枚のイラストを描くこと以外のこともしてみたかったんです。イラストは前後の出来事を含めて一瞬に落とし込んでいます。前後の出来事を含めて表現するには、時間軸が必要です。必然的にアニメーションになると思っていました。アニメにはずっと触れてきましたし、やってみたい気持ちもすごくありました。大学を卒業する時に、アニメを自主制作し、そこから声を掛けていただけるようになり、今回は映画を作らせていただくことになりました」

 「サマーゴースト」は、loundraw監督が描いた一枚のイラストから生まれた。アニメが一枚のイラストから生まれるというのは、イラストレーターならではだろう。“乙一”名義で小説家として活躍する安達寛高さんが脚本を手がけ、物語をより強固なものにしていった。

 「原案を決める段階から乙一さんに参加していただき、さまざまな案が出る中で、幽霊の女の子に花火をしている時だけ会える……というストーリーが僕の中から出てきました。乙一さんにプロットを作っていただき、そこから進め、脚本と並行してビデオコンテを作っていきました。文章の面白さと映像の面白さは違いますし、映像としてベストをとっていきたかったんです。脚本の第1稿をいただいたら、ビデオコンテにして、映像的なテンポ感でせりふも変えるなど……。脚本家の方は嫌がるかもしれませんが、乙一さんはそれを面白がっていただけたようでして。乙一さんは、いいものを作ることに対して真っすぐで、僕がワガママを言う中で、時には引っ張り、時にはアシストしていただき、本当に助かりました。見習わないといけないですね」

 「サマーゴースト」は、ネットを通じて知り合った高校生の友也、あおい、涼が、若い女性の幽霊で花火をすると姿を現すという“サマーゴースト”に会おうとする……というストーリー。自身が望む人生に踏み出せない友也、居場所を見つけられないあおい、輝く未来が突然閉ざされた涼の思いが交錯することになる。

 「三者三様に事情があり、それぞれが生きていくことに疑問を持っています。正直、その疑問に対する答えはないのですが、生きていく中で、いろいろな人と関わり、いろいろなことが起きることに価値があると思っています。登場人物のように、どうして生きているのか? 人生を諦めちゃいけないのか? と疑問を持っている人に見ていただきたいです。一つの出来事をそれぞれが解釈して、次の一歩のきっかけになればと考えています。強烈なメッセージを込めるのは浅はかになるかもしれません。そこは気をつけたところです」

 ◇従来のアニメと同じものを作っても意味がない

 「サマーゴースト」を見て驚かされるのは、独創性にあふれた映像だ。loundraw監督のイラストが動き出したかのような、これまでにない表現が生まれた。

 「イラストレーターの経験が生きている部分もあり、構図や色など一カットごとにこだわっています。従来のアニメと同じアプローチで作っても、自分たちが作る意味がないですし、ほかのアニメーション作品とビジュアル的にも差別化したい気持ちもあり、どうやって自分の色を出せるのかを考えています。ただ、それにはアニメの価値観を理解していないとできません。アニメのフォーマット、僕の価値観がある中で、どこがベストなのかを探すのが難しいところです」

 特に色彩表現が美しい。loundraw監督の“色”が出たところでもある。

 「一番大きな部分は色かもしれません。夏を表現する際、日本のアニメは画面の色を白くしていくこともありますが、それだと光の表現の幅が狭くなります。夏の強い光を描こうとした時、影も強くしないといけない。これまでのアニメのフォーマットから外れてもいいので、しっかりと黒を使っていきたいという話をしています。もしかしたら新しい表現になっているかもしれません」

 アニメ制作は共同作業でもある。イラストレーターとはまた違う苦労もあったという。

 「大変なのはディレクションで、イラストレーターの仕事は基本的に自分の中で完結しますが、共同作業では、自分が大切にしていることを共有するのが難しいです。アニメは多くのカットを作るために絵作りが画一化していくところもあり、その部分はイラストとは相反するところで、苦労しています」

 共同作業の中で「人に伝えることで、自分の中にあるものを言語化できたこともあり、この半年で絵がうまくなりました」と発見もあったようだ。

 イラスト、アニメでは表現も違うが、共通していることもある。「イラスト、アニメのどちらも自分がやりたいこと、メッセージが少しでも多くの人に届けることが大事だと思っています」と語る。

 「サマーゴースト」の挑戦は多くの人の心を動かすはず。作品に込められたメッセージ、映像美を堪能してほしい。

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