水中雅章:アニメ「後宮の烏」 「声を変えず感情を表現」 高峻と寿雪の距離感を大切に

「後宮の烏」に出演する水中雅章さん
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「後宮の烏」に出演する水中雅章さん

 白川紺子さんのファンタジー小説が原作のテレビアニメ「後宮の烏」。原作は集英社オレンジ文庫から刊行されている“中華幻想譚(たん)”で、若き皇帝の夏高峻(か・こうしゅん)役の水中雅章さんら豪華声優が出演していることも話題になっている。「毎回自然と登場人物の人生を感じてホロリときてしまう。美しくも悲しくて、その登場人物の思いを感じられる」と作品の魅力を表現する水中さんに、役作りや、主人公・柳寿雪(りゅう・じゅせつ)と高峻の関係性について聞いた。

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 ◇演じる中で試行錯誤 楽しさ、やりがいも

 「後宮の烏」は、高峻がある依頼のため、後宮の奥深くで暮らし、烏妃(うひ)と呼ばれる寿雪を訪れるところから物語が始まる。寿雪は不思議な術を使い、幽鬼を呼び寄せることができる特別な妃(きさき)で、呪殺から失(う)せ物探しまで何でも引き受けると言われていた。2人が出会ったことにより、歴史をも覆す“秘密”が暴かれることになる。TOKYO MXほかで放送中。

 水中さんが演じる高峻は、即位して間もない若き皇帝。序盤では、母と友を皇太后に殺された過去を持ち、復讐(ふくしゅう)心を抱える一面も描かれたが、感情に任せた行動に出ることはなく、冷静で思慮深い。水中さんは「なかなか感情が表に出ないクールな印象で、少し厳しい一面がありつつ、優しさもちゃんと持っていると思いました」と印象を話す。

 「表立って優しさを振りまくわけではなく、陰ながらそっと支えてくれている。寿雪のために律令そのものを変えるようなこともする。高峻の行動力と思慮深さ、器の大きさ、相手のことを気遣えるところも含め、人との接し方に好感が持てて、格好いいと感じます。行動で示すのがいいですよね。高峻は、ちゃんと言うところは言うし、引くところは引く。寿雪を気に掛けるところも含め、立ち振る舞い方が大人。演じる上では、感情の持っていき方が難しくもありましたが、そこが楽しくもあり、やりがいにつながりました」

 水中さんは「ここまで声のことを意識したのは久しぶりだったかもしれない」といい、高峻の心の機微を丁寧に表現していった。

 「人は感情で声がころころ変わっていくものだと思いますが、高峻に関してはそんなに声を変えずに感情を出すことが挑戦だったかもしれません。それが高峻の一つの個性ですし、崩したくなかったので、強い物言いをするシーンでも“高峻にとっての最大限の怒鳴り声”にしなければいけない。そのあんばいが難しかったです。演じている自分を通して、高峻というキャラクターの立ち位置、人物像がどんどん分かっていき、深掘りしていくことができました。演じながら高峻を理解できていく過程が楽しかったです」

 ◇高峻と寿雪は「あくまで友」 「妃にならぬか」に共感も

 「後宮の烏」は、さまざまな出来事を通して絆を深めていく寿雪と高峻のやり取りも見どころの一つだ。水中さんは、2人の距離感について「寿雪との会話ではラブロマンスのような空気感はあまり出したくないという思いがあり、あくまで友という、微妙な関係性を意識していました」と説明する。

 「だんだんと高峻に心を開いていく寿雪の言葉を聞くと、僕自身も『もっと心を開こう』という気持ちになってしまいそうなシーンもあったのですが、そこをグッとこらえて演じていました。じれったくてもどかしい描写も結構あったので、恋人や愛のほうには傾かないように意識しました」

 ただ、第2話で高峻が悲願を達成した際、寿雪からかけられた「おぬしは、からっぽになったのだな」という言葉に、水中さんは「寿雪を好きになりそうになっちゃいました(笑い)」と明かす。

 「慰めではなくて理解というのがすごくいい。そこで高峻は寿雪に『妃にならぬか』と言うのですが、『その気持ち、分かるな』と(笑い)。高峻には、慰めてくれる人はいると思いますが、理解してくれる人となると、なかなか難しいですよね」

 絶妙な距離感を保つ寿雪と高峻。第7話では寿雪が初めて高峻の名前を呼ぶシーンが描かれた。

 「僕にとってもすごく重要な回でした。2人にとって、ちょっと違う関係性になったのかな?と感じて、心に残っています。また、寿雪が高峻を助けた時、寿雪の優しさを改めて感じました。寿雪としては複雑な思いがあったと思いますが、それでも高峻を気にかけてくれる。高峻からすると、寿雪が自分たちのせいでつらい境遇になっているのに『なぜ助けてくれるのだ?』と。心が近付いていく様子がある意味ロマンチックで、美しく見えて印象に残っています」

 ◇寿雪と高峻の会話に「全てが詰まっている」

 物語も終盤に差し掛かってきたが、改めてアニメの魅力を聞くと、「やっぱり寿雪」と水中さんは言い切る。

 「寿雪が幽鬼の関わる事件を解決していく中で人の温かさを知っていき、いろんな表情や心境をのぞかせる姿にグッときます。僕は寿雪と絡むシーンが多いので、どうしても寿雪に感情移入してしまう。水野(朔)さんが演じる寿雪が最高で、可愛い。高峻としては、もしかしたらこんなことを思っちゃいけないのでしょうけど(笑い)」

 第13話では、杉田智和さん演じる薛魚泳(せつ・ぎょえい)が寿雪のもとを訪れる重要なシーンが描かれる。「原作や台本を読んで知っていましたが、魚泳のバックボーンや麗娘との過去の話を聞くと悲しいというか、いろいろと考えてしまいます。小説と少し見せ方は違いますが、アニメならではの見せ方になっています」と見どころを語る。

 「周りのキャラクターもそうですけど、何より寿雪と高峻が積み上げてきたもの、それらを踏まえた2人の会話に注目してほしいです。その会話に作品の魅力が全て詰まっています。ぜひ最後までご覧いただき、存分に感情移入していただきたいなと思います」

 いよいよクライマックスを迎える「後宮の烏」。寿雪、高峻の行く末を見届けたい。(取材・文・撮影:遠藤政樹)

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