名探偵コナン 黒鉄の魚影:「守りたいものができた」灰原哀の変化 “哀”から“愛”へ 立川譲監督に聞く制作の裏側

「名探偵コナン 黒鉄の魚影」の一場面(C)2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
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「名探偵コナン 黒鉄の魚影」の一場面(C)2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 青山剛昌さんの人気マンガが原作のアニメ「名探偵コナン」の劇場版最新作となる第26弾「名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)」が4月14日に公開され、3日間で興行収入が31億4000万円を突破するなどロケットスタートを切った。同作は人気キャラクターの灰原哀、黒ずくめの組織をメインとしたストーリーで、立川譲監督は「灰原の変化」を描こうとしたという。制作の裏側を聞いた。

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 ◇海洋施設、潜水艦で緊張感を表現

 「黒鉄の魚影」は東京・八丈島近海にある世界の防犯カメラをつなぐための海洋施設・パシフィック・ブイを舞台に、黒ずくめの組織による女性エンジニアの誘拐事件が起きる。彼女が持っていた、ある情報を記すUSBが組織の手に渡り、八丈島に宿泊していた灰原に黒い影が忍び寄る。

 立川監督が劇場版「名探偵コナン」シリーズを手がけるのは、2018年公開の「名探偵コナン ゼロの執行人」に続き2作目。「黒鉄の魚影」の舞台は、海洋施設・パシフィック・ブイ。黒ずくめの組織は潜水艦を拠点とし、同施設を狙おうとする。

 「プロット段階では、脚本の櫻井(武晴)さんからのたくさんのアイデアが羅列してあって、最初は戦闘機で戦っている絵とか、もう少しワールドワイドなイメージもありました。その中の一つに潜水艦が出てくるプロットがあって、黒ずくめの組織と“黒い鉄のクジラ”(潜水艦)が似合うんじゃないかと、スタッフ全員一致で『いいね』と。潜水艦となると海のお話になるという、必然な感じで舞台設定が決まっていきました」

 灰原、黒ずくめの組織を中心としたシリアスなストーリーが展開する。舞台設定では「緊張感」にこだわった。

 「最終的には、海洋施設・パシフィック・ブイが舞台となりましたが、プロット段階では、海の上に建てられた施設というよりは、埋め立て地にあるようなアイランド(島)のようなアイデアでした。ただ、これまでのシリーズでも埋め立て地を舞台とした作品がありますし、潜水艦との戦いで魚雷を発射するような映像を作る上で、陸地では緊張感を演出するのがかなり難しかった。海洋施設のほうが、カメラも自由に置くことができますし、ビジュアル面も新鮮さを見せられるかなということで、自分から提案しました。また、島となると、規模が大きくなってしまうので、閉じ込められている密室感、緊張感も出づらくなってしまっていたんじゃないかと思います」

 ◇灰原の変化のその先 林原めぐみの収録秘話

 最新作でメインとなる灰原哀は、コナンと同じく見た目は子供だが、元々は黒ずくめの組織の一員だったシェリー/宮野志保で、工藤新一が飲まされた薬(APTX4869)の開発者。姉を殺され組織を裏切ったが、脱出するために薬を飲み、小学生の姿になった。1997年から制作されている劇場版「名探偵コナン」シリーズで、大々的に灰原にスポットが当たる作品は久々だという。立川監督は「灰原の変化」を描こうとした。

 「既に原作でも、灰原の変化のようなものは描かれているので、そこから元に戻ってしまうような描写はしたくなかったですし、その先の物語にしたいという思いがあったので、感情のラインは、原作を踏襲した形で描いていけたらということは前提とありました。その上で、今回はコナンと灰原の印象的なシーンが多いので、これまで描かれてきたことの繰り返しにならないように、その一歩先へ行くような描写が入れられればいいなとは思っていましたね」

 灰原については、声優を務める林原めぐみさんがイベントで「『いつ死んでもいい』と思っていた彼女が、これだけの人に愛されて『生きる』と自分の中に決意を持っている」と語ったことがある。立川監督も「林原さんの言葉を借りると、『哀しみの愛がとれてきて』という話だと思うのですが、最初は『死んでもいい』と思っていた灰原が、今では周りの人にかなり愛されて、大事なものができていると思うんですよね。阿笠博士であったり、少年探偵団の子供たちであったりとか」と話す。林原さん演じる灰原のシーンのアフレコで印象的だったこともあったという。

 「コナンら一行と一緒に八丈島に来ていた灰原がホテルで危機にさらされるシーンです。元々は灰原が大きな声を出すシーンだったのですが、林原さんから『なるべく音を出したくない』という意見を頂戴したんです。というのも、大きな声を出して、灰原と同室で眠っている歩美ちゃんが起きてしまったら目撃してしまうし、歩美ちゃんにも危険が及んでしまうと。そんな命をかけてでも守りたい思うものができたということがすごく大きな変化だと思います。それと共に、一方では、コナン、阿笠博士、蘭姉ちゃんが必死になって灰原を助けようとしているのが、すごくいいなと。映画は全体としてサスペンスタッチで、悲しい雰囲気の話なんですけど、そこには愛情みたいなものも描けるといいかなと思っていましたね」

 コナンや灰原、警察、FBI、黒ずくめの組織がバトルを繰り広げる「黒鉄の魚影」。「守りたいものができた」灰原、彼女を必死に守ろうとするコナンたちの活躍に注目したい。

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