名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
アニメ「ゴブリンスレイヤーII」とアニメ「BASTARD!!-暗黒の破壊神-」には共通点がある。「ゴブリンスレイヤーII」の総監督を務める尾崎隆晴さんで、「BASTARD!!」の監督でもある。「ゴブリンスレイヤーII」のシリーズ構成・脚本の倉田英之さんは「BASTARD!!」の脚本を担当し、「BASTARD!!」のシリーズ構成・脚本の黒田洋介さんは「ゴブリンスレイヤー」の脚本を手掛けている。尾崎さん、倉田さん、黒田さんの3人に2作について聞いた。
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尾崎さん 最初に「ゴブリンスレイヤー」の監督を引き受けた時、シリーズ構成を倉田さんにお願いしたいと考えたのがそもそもの始まりですね。そこからの流れで、当時は倉田さんと同じ会社(スタジオオルフェ)に所属されていた黒田さんにも各話の脚本として入っていただくことになった。そうやって人間関係が広がって、「BASTARD!!」の監督の話がきた時、今度は黒田さんにシリーズ構成、倉田さんに各話の脚本をお願いしようと考えたんです。
尾崎さん 撮影の仕事をしていたころに、倉田さんが脚本を書かれた作品にいちスタッフとして関わらせていただいたことはありましたが、直接やりとりさせていただくのは「ゴブリンスレイヤー」が初めてでした。黒田さんもそうです。ただ、お会いしたことはなくても、お二人のお名前はもちろん、素晴らしい仕事ぶりも当然お聞きしていたので、この強力な二人にお願いできれば、大変な原作だけどどうにかなるだろう……と、最初から考えていました。
黒田さん いやいや、そんな。
尾崎さん あと、お二人にお願いしたかった理由は、実力もですが、自分との世代の近さも意識したからですね。「昭和」のニュアンスが分かる人がいいかなと感じたんです。「BASTARD!!」はまさに「昭和」の終わり頃から始まった作品ですし、「ゴブリンスレイヤー」が書かれたのは比較的最近ですけど、原作者の蝸牛くもさんのご家族は、サブカルチャーによく触れていたそうなんです。だから「昭和」の文化にやられた人が書いている感触があるんですね。それで実際に倉田さん、黒田さんと会って話してみたら、まさに狙い通りだったなと。打ち合わせの時、言葉が少なくて済むんですよね。「あの時代の、あの感覚の、あれで」と、簡単に説明したら、もうニュアンスが通じる(笑い)。
尾崎さん そうなんです。今の時代ならではのまったく新しいアプローチでアニメ化するよりも、どちらの作品もこの世代ならではのオタク話で攻めたらいいんじゃないか、と考えた結果のスタッフィングでした。
倉田さん 2作品ともオタクの好きなものが山盛りですからね。っていうか、「BASTARD!!」なんて、日本のアニメにおけるファンタジーというジャンルの、原点にかなり近い作品だと思うわけです。
黒田さん そうですね。僕、「ダーククリスタル」って映画が好きで。
尾崎さん ああ、はいはい。名作ですよね。
黒田さん あれで今でいうダーク・ファンタジーみたいなジャンルを意識したんだけど、「BASTARD!!」が始まったのって、あの作品がオタクのあいだではやったちょっと後でしょう?
倉田さん そうそう。「ダークリ」が日本で盛り上がったのが1983、4年とかで、「BASTARD!!」の基になった読み切りの「WIZARD!!~爆炎の征服者~」が「週刊少年ジャンプ」に掲載されたのが1987年。
黒田さん やっぱそうだよね。そのあたりの体験って、記憶の中で一緒くたになって、「ファンタジーの原点」みたいに意識されている気がする。加えて倉田さんと僕は同じ1968年の生まれで、『BASTARD!!』はギリギリ10代の頃から読み始めた作品なんです。それもあって、ファンとして読んだときのパッションも覚えてる。それは多少、作品の中に入れられたんじゃないとか自負していますね。倉田さんも「BASTARD!!」は「書きやすい!」って(笑い)。作業中のその一言、すごく印象に残ってて。
倉田さん 書きやすかったですねえ~。なんたって、せりふをほとんど暗記してますからね。特に序盤から中盤にかけての、まだ登場人物が少ない頃のものは記憶が鮮明。でも、それくらいはっきり覚えている作品なのに、20代で読む「BASTARD!!」と50代で読む「BASTARD!!」は全然別物でしたね。
黒田さん たしかに、全然違った。
倉田さん 20代のころはどちからといえばビジュアルにひかれていたんですけど、50代になるとお話の組み立て方……例えば、ちゃんと出てくる敵が順を追ってレベルアップしていく感じとか、キャラクターのピンチの陥り方とかが、スタンダードなやり方なんだけど、しっかりと読者を盛り上げられるものになっていることに感心する。
尾崎さん 分かります。僕も若い頃は、ビジュアルのカッコよさに強くひかれていたんです。昔、「スターログ」って雑誌があったんですけど、それに載っていたファンタジー・アート……フランク・フラゼッタの絵とかが元々好きだったんですよね。マッチョな男と女性を描いた、ちょっとエロチックな雰囲気の絵で。でも、そういう絵の魅力を日本のアニメでダイレクトにやってくれる作品は、なかなかなかった。そこに「BASTARD!!」がポンと飛び込んできたんです。そのうれしさったらなかったですよね。でも、改めて今、歳を重ねた自分が読み直すと、物語の内容に「なるほど!」と唸らされる。倉田さんのおっしゃるとおり、しっかりと計算されているんですよね。
倉田さん これを週刊連載でやっていたのは、本当にスゴいです。……まあ、週刊ペースじゃなかった時もあるけれど(笑い)。
黒田さん まあまあ(笑い)。コミックスで最初の5巻分くらいは、ちゃんと週刊連載ですよ。
尾崎さん それに、週刊連載のペースはただでさえ大変なのに、あの作画の物量とディティールですよ。あれを描いていく大変さって、想像を絶します。時々コマの外に、萩原先生の「つらいよー」みたいなコメントが載ってたのも、納得というか。またそのつらさを原稿に載せてしまう、同人誌的な要素を「ジャンプ」でやっていたのも、独特の感覚なんですよね。
倉田さん プロのマンガ家さんって、ずっとストイックなイメージがあったんです。弱音を吐いたり、土下座したりもしない。あんなに作者の先生が弱音を吐いているのを見たのは、「BASTARD!!」が初めてでした。
黒田さん 分かります。自分の感覚だと、当時の週刊連載しているようなマンガ家さんって、手塚治虫先生みたいなイメージなんですよね。ベレー帽をかぶって、アシスタントさんを従えて、バリバリと描いていく、ある種の職人気質の人。でも萩原先生の人となりをマンガ越しに見ていると、自分らと感覚的には変わらない人だと思えて、ものすごく親近感が湧きました。
倉田さん そういう読者との距離の近さも含めて、大メジャーな「ジャンプ」に載っている作品なのに、すごくオタク向きの内容だったんですよね。とてつもないプロでありつつ、いい意味でのアマチュアリズムがあるというか。
黒田さん アニメや映画のパロディーも大量に入っていたしね。余談ですけど、「BASTARD!!」の最新刊で自分のやったアニメのパロディーが入っていたのを見たときは、すっごい感動しました。「ついにやった! 萩原先生にパロられてる!!」って、光栄でしたね。
倉田さん いやぁ~、分かる!
尾崎さん ホン読み(シナリオ打ち合わせ)でも今みたいに、当時の作品がおかれていた状況だとか、世の中全体の動き、流行を交えて話し合いができるから、原作を解釈していく作業がとてもスムーズなんですよね。
倉田さん それにしても、連載の始まったころは時代の先を行っていた「BASTARD!!」が、連載形態が変わりつつ長期展開されるに連れて、だんだん時代と同一化していった。今はクラシック(古典)の位置付けというか、マスターピース的な作品になっている。そして、原作の表現を可能な限り尊重しながら、アニメになった。これは現象として、非常に面白いですね。
黒田さん やっぱりシナリオよりも絵ですよね。作画、演出、美術のお力が非常に重要になってくるんじゃないかと思いますが、監督、どうですか?
尾崎さん たしかに、ファンタジーはビジュアル化するとなると設定がやたら多くなるというのは、ちょっと悩みどころではあります(苦笑)。予算と期間に直結しますからね。さらに、それなりの画力のあるアニメーターなり、美術さんなりを連れてこなくちゃいけないところもありますね。厄介なのは、単に絵がうまいだけじゃ駄目なんですよ。特にモンスターは、モンスターを好きなやつが描かないと、本当に心のこもった、恐ろしいものになってくれない。ほかのジャンル以上に、ファンタジーの場合はその辺に気を遣いますね。マニアックで、対象に愛情がある人をスタッフィングする。
尾崎さん ああ、そうですね。自分の監督をやる上でのスタイルでもあるんですが、スタッフィングである程度まで現場を押さえてしまえば、ある程度はどうにかなるんですよね。
倉田さん ……ただですね、ここまで「BASTARD!!」がファンタジーであるという前提で話してきたでしょう? ところが僕は最近、真実に目覚めてしまってですね。ファンタジーとダークファンタジーの見分け方なんですけど……主人公が小綺麗な格好をしているとファンタジーで、小汚い格好をしているとダークファンタジーなんですよ。
黒田さん は、ははははは……。
倉田さん どうですか? 真面目にこれ、真理に近いと思うんですが。
黒田さん ダーク・シュナイダーはさ、最初、裸で出てくるじゃない? これはどっちなの?
倉田さん それですよ。だから、実は「BASTARD!!」の本質はファンタジーでもダークファンタジーでもないところにある。この作品の重要なポイントはギャグなんじゃないか? と。いうなればファンタジーではなく、「ファンタジーごっこ」であるところに、作品のいちばんの根っこがある。
黒田さん 無茶言うなぁ(笑い)。でも、そう、当時の「ジャンプ」のノリ……いわゆる「友情・努力・勝利」の作風をファンタジーというジャンルの中に巧みに落とし込んでいる、すさまじい荒業を成し遂げられている作品だな、とは感じます。「友情・努力・勝利」って、要するにバトルなんですよね。あの頃の「ジャンプ」の人気作は、とにかく毎回バトルをやっている。そのノリをファンタジーの世界に落とし込んで、自分の趣味趣向もどんどん闇鍋のように詰め込んでいる。
倉田さん ああ、さらに分かった。だからこそ裸なのかもしれませんよ。裸だからある時はニュートラルなファンタジーにもいけるし、ある時はダークファンタジーにもいける。ひどいこともいっぱいやるけれど、明るい部分もある。ちょっとラブコメっぽいところもあったり。
黒田さん 闇鍋という言葉の響きが悪ければ、「全部のせ」みたいなものですよね。ファンタジーであり、バトルものであるというベースの上に、デコレーションできるものはすべてデコレーションするくらいの勢いで要素を詰め込んでいる。美少女からギャグまでね。一気に逆転するときの痛快さもすごい。ただ、掲載誌が厳密には少年誌じゃなくなった「地獄の鎮魂歌」編からは、ダークな印象が強くなった感じはしますけどね。
倉田さん 天使が出てきたあたりから、ひょっとして「デビルマン」に近づこうとしているのかな?みたいな感覚もありましたね。絵も筆っぽい表現が出てきたりして。
ーー「BASTARD!!」にしろ、ほぼ同時代、1990年代に絶大な人気を博した「スレイヤーズ」にしろ、「ごっこ」というとフレーズが強過ぎかも知れませんが、「指輪物語」のようないわゆる西洋のファンタジーとは違う、独特な雰囲気を持っています。こうした日本のファンタジーものならではの雰囲気を生んだ当時の時代の空気感、要因は?
黒田さん それはまさに萩原先生の影響ですよ! 「BASTARD!!」の「これ以上やったら収拾がつかなくなるんじゃないか?」というくらいに、どこまでも世界を広げていくあの感覚。それがあとに続く作品たちにもたらした共通性だと思います。。
尾崎さん 「BASTARD!!」そのものも、最初からそうしようと思っていたわけではおそらくなくて、長く続けることで結果的にそうなった部分もあったと思うんです。最初、特に前半の方はもう本当に、古典的なファンタジーだった。登場するものの造形も、ドラマも、世界のルールもそう。それがだんだんと、1980年代後半から90年代の世の中の、エンターテインメント全般からの影響を取り入れて、独自の「日本のファンタジー」というジャンルになっていった。日本人は経済分野でも、海外のものを取り入れて、独自のものに変化させて新しいものを作る取り入れるのが得意とよく言われていたじゃないですか。
尾崎さん それは多分、マンガやアニメでもそうだったんです。海外もののファンタジーを始め、あれこれと自作に取り入れようとしているうちに、萩原先生は多分、影響を受けたものを独特な形に変化させたんじゃないか。そこに精緻なロジックがあったというよりは、何か日本という土壌にある体質が、にじみ出た結果なのかなと思います。
倉田さん ほぼ同時期に「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」のシリーズ第1作が出たのも大きかったでしょうね。「ジャンプ」という日本で一番大きい舞台で「BASTARD!!」をやっていて、ゲーム方面では海外のRPGを日本人向けに丁寧にチューニングした「ドラクエ」や「FF」が大ヒットをした。そこで日本人の間にあった、ファンタジーに対する高いハードルみたいなものが、一気に崩れた。そうそう、それまではファンタジーって、マニアのためのものだった気がします。
黒田さん 僕もそう思う。だからさ、「BASTARD!!」がなかったら、なろう系小説もなかったと思うんですよ。
尾崎さん ですよね。
黒田さん それくらいジャンルの始祖的な、元祖的な存在。
倉田さん ゲームだけがあったとして、多分「こんなに好き放題やっていいんだ!」とは思わなかったんじゃないですかね、みんな。なにせ、「BASTARD!!」ってしれっと大事なシーンで500円玉が出てくるじゃないですか。
尾崎さん たしかに(笑い)。
黒田さん そういえばアニメのホン読みでももめたねえ、あれ! 「500円玉、出していいんですか?」「出すとして硬貨の柄をどうします? 今のにします? それとも連載当時のにします?」とか……。
倉田さん あの場面で500円玉を出せる萩原先生のセンスって、とんでもなくスゴい。あんなに自分でちゃんと作ってきたファンタジーの世界に、いきなり異物を出せないですよ。
倉田さん しかし、そういう自分たちの普段から親しみがあるものとファンタジー世界が一周してつながるときの面白さなんて、今の人たちはもうあまり意識しませんよね。今のなろう系のファンタジーは、平然とスマホが使える異世界も多いし。今の子たちは最初から、そういう形でファンタジーというものを意識して、味わってるんだろうな、と。
黒田さん かもしれないですね。あと、ダーク・シュナイダーが持っている痛快さみたいなものが、チートって言葉に置き換わってるんじゃないかな?
倉田さん “俺TUEEE系”の元祖みたいなものですもんね、ダーク・シュナイダー。
尾崎さん そうですね。
倉田さん 「ゴブリンスレイヤー」は絵も内容もかなりクラシックで。
黒田さん でもどちらかというと、「ゴブリンスレイヤー」は「ドラクエ」や「FF」とはまた違う、近年のゲームからの影響が強いと僕は捉えていましたけどね。「スカイリム」とか「ダークソウル」とか「デモンズソウル」とか「エルデンリング」みたいな、ああいうダークファンタジーをベースにして、蝸牛くも先生が自分なりの世界観を作られた。倉田さんの下でサブライターとして参加したとき、僕はそう理解しました。
倉田さん たしかに蝸牛くも先生がずっとこだわってらっしゃるのは、ゲームらしさなんですよね。でもどちらかというと、TRPGの方が強いかな。ただ、その要素をアニメで強調すると、視聴者は感情移入しづらくなってしまう。
尾崎さん やっぱりアニメでは視聴者がプレーヤーとして動くことはできないわけで、そこにあるものを見ることで楽しむという意味では、ちょっと感情を入れないと厳しい。
倉田さん 物語のキャラクターであると同時に、ゲームのキャラクターでもあって、そしてその世界を眺めながらその キャラクターの行動を左右するサイコロを振っているプレイヤーがどこかにいるような多重構造的な世界って、文章では書けるんです。でもアニメで描くと、表現にものすごく手間がかかって、さらにダサいものにもなりかねないので、そこはアニメ向けに調整しています。
黒田さん ダイスロールっぽい感じを描こうとすると、どうしてもキャラクターが何かの力に操られているような感が出てしまうんですよね。
尾崎さん ですね。倉田さんたちは感情移入の部分を上手に、アニメという形式にあわせてよくまとめてくれているなと思っています。
倉田さん でもそもそも原作から、主人公のゴブリンスレイヤーさん自体はものすごく感情移入させられるキャラなんですよ。そこのバランスどりが原作の魅力なので、アニメでも調整しつつ、あくまで原作の魅力を損なわないように気を使った感じです。しかしですね、それはそれとして、クラシックな雰囲気だと思っていた「ゴブリンスレイヤー」ですけど、何か気がついたら、ゴブスレさんのまわりは女の子だらけじゃないですか。僕は2期のシリーズ構成をやっているときに気がついたんです。妖精弓手(エルフ)さんの結婚式のあたりで……。
ーー女性キャラがそもそも多いし、2期になると水着回もあります。
黒田さん くも先生に言われたことがあるんですけど、ゴブスレさんは「装甲騎兵ボトムズ」のキリコのイメージがちょっとあるそうなんです。だからまあ、女の子がたくさんいても、あれはキリコのまわりに女の子がいっぱいいるようなもので、さしてゴブスレさんに影響は与えないのだなと(笑い)。
尾崎さん ははは。たしかに。そもそも水着になるシーンは、尺に原作のエピソードが収まらなそうだったら、真っ先にカットする候補でしたからね。
倉田さん でしたね。何か2期のシナリオを書いていて改めて思ったんですけれど、この作品に出てくるような可愛い女の子というのは、日本のファンタジーならではのものなのかなと。
黒田さん うん。そう思うよ。
倉田さん 「D&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)」にああいうキャラって出ないじゃないですか。
黒田さん 出ないね。それこそ「BASTARD!!」だったり、もう一つさかのぼるなら、いのまたむつみさんが「幻夢戦記レダ」でビキニアーマーの美少女を描いたところから、何かが始まったのかもしれない。
倉田さん 「レダ」いいですよねぇ~……。この間、ブルーレイディスクボックス、買っちゃいました。
黒田さん マジか!
倉田さん 今見てもいいですよ、「レダ」。ストーリーもちゃんとしてるし、絵もきれいだし。
黒田さん そうかぁ。ただ、「なぜあのデザインだったのか?」ってとこだけは、今でも俺、分からんわ。
倉田さん いやでも、あれね、異世界の登場人物がみんな、あんな格好なんですよ。だとしたらわかるじゃないですか!
黒田さん うーん、それで納得していいのか(笑い)。
倉田さん あの辺からやっぱり、日本のファンタジーのスタイルみたいなものができていった。
尾崎さん そうですよね。
倉田さん 海外もののファンタジー……「コナン・ザ・グレート」とかをそのまま日本でやっても受けないと、あの頃、うすうすみんな感づいてたんじゃないかなと。
黒田さん マッチョは受けない、みたいなね。「北斗の拳」は受けたしなあ、とは思いましたけどね。
倉田さん でもそれも、肩パットが大事だったんですよ。多分。
尾崎さん マッチョのムキムキのやつが突然日本のマンガやアニメに出てきて主役を張ったら、ひいてしまう人もいるかもしれない。でもダーク・シュナイダーは美形で、筋肉質でもどちらかというと耽美な部分を持っている。あそこで単純にアメコミ風のマッチョを持ってきていたら、歴史は違ったと思うんですよね。あの耽美(たんび)さもうなくファンタジーの要素を日本でアレンジした部分なのかな、と。
倉田さん 日本だとヘヴィメタルのバンドもそうですよね。海外だとメタルはマッチョがやるんですけど、日本だとひょろひょろした人がやる。この思想の違いはなんなんだろうと思うけれど、そういうのがマンガやアニメのデザインにも反映されている。
尾崎さん そうそう。
倉田さん マッチョに限らず、海外はとにかく、強い人は強そうに描く。日本のデザインって、弱そうな人が実は強い、みたいなのに目がないじゃないですか。
黒田さん 「柔よく剛を制す」みたいな精神が、どうしようもなく日本人にはあるんじゃないか(笑い)。
倉田さん ファンタジーも日本人の感性に一致して進化しているんでしょうね、きっと。水野良さんとかは真面目だったんですよ。「ロードス島戦記」はディードリットくらいじゃないですか。可愛い女の子の要素って。
黒田さん 基本はおっさんばっかりだもんね。
倉田さん それを女の子でやったら? みたいな発想の転換で「スレイヤーズ」が出てきて、どうせだったらやっぱり、キャラクターは女の子の方がいいよね!みたいな感じで、そのやり方が広まっていって、そして今の日本のファンタジーの形がある(笑い)。
黒田さん 「スレイヤーズ」もすごいよね。これもまた、始祖の一つですよ。
倉田さん やっぱりパイオニアは偉いんですよ。最初に道を切り開いた人たちは、本当に偉い。
黒田さん 「ドラクエ」「ファイナルファンタジー」「BASTARD!!」「スレイヤーズ」……もちろんほかにもね。そもそも「ドラクエ」にしたって、おそろしい魔王がいて、モンスターがばっこしている世界に、「ぱふぱふ」とか平気で言ってるジジイがいる(笑い)。ああいう、どんなに厳しい世界でも娯楽に執着している人がいる、そういう感覚を許してもらえる環境が僕ら日本人の中にはあったのかな? と。
倉田さん そういう息抜きが世界の中にないと、子供は絶対に作品を楽しめないですよね。特に中高生とかは、絶対にそういう部分がないと、真面目一辺倒ではその世界を最後まで遊べない。ストイックな人は「ウィザードリィ」や「ディアブロ」をやれるけど、それがここまでの広がりを得るには、さっきからタイトルを挙げているような作品だったり、ほかにも「イース」みたいな、美少女が出てきて、主人公は生き残ることが確定していて、安心して見ていられるようなところが必要なんでしょうね。
尾崎さん とはいえやはり、パッと触れた感じは、真逆な作品ではあると思いますよ(笑い)。ただ、僕が思う共通点はあります。それは主人公がどちらも「俺流」なところ。ベクトルは全く違うんだけども、ゴブスレさんにはゴブスレ流があって、ダーク・シュナイダーにもダーク・シュナイダー流がある。
黒田さん 別のジャンル、たとえば時代劇でいうと、「遠山の金さん」と「必殺仕置人」くらいの違いはある二作品なんですけど、でも根底には「ファンタジー」というジャンルへの意識がきちっとあって、ジャンルとして大事なことは守られている。そういう中で、どういう方向性に振るかが、主人公たちの姿に現れているってことなんじゃないですかね。
尾崎さん なるほど、そうですね。
黒田さん その方向性こそがいわゆる「作家性」で、言い換えればどちらの作品もたしかな作家性がある点が共通しているともいえるんじゃないかな。
倉田さん いや、もっとはっきりした共通点がありますよ。思いつきました。
黒田さん え、何?
尾崎さん 気になりますね。
倉田さん ……ゴブリンですよ! 「BASTARD!!」にも「ゴブリンスレイヤー」にも、両方ゴブリンが出てくるじゃないですか!! これだ!!
黒田さん・尾崎さん わはははははは!
黒田さん ファンタジーもののアニメなら大体出てくるだろうが、ゴブリンは(笑い)。
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