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パナマ運河の世界の物流における重要性と気候変動がもたらす影響や今後の展望
2024年11月6日
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セミナーで使用されたスライドより(C)松田琢磨
公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(所在地:東京都港区、理事長:中山幹康、略称:日本GIF)は、2024年9月30日(月)午後2時から、Zoomを利用したオンライン形式にて、拓殖大学商学部国際ビジネス学科の松田琢磨教授を講師に、「パナマ運河の未来:気候変動とグローバル物流の行方」と題し、セミナーを開催しました。
開催趣旨
パナマ運河は、世界経済の交差点とも言えるほど重要なグローバルインフラであり、日本にとっても欠かせない存在です。北米や南米との貿易において、パナマ運河は主要なルートであり、アメリカと日本のエネルギー輸送や日本からの自動車輸出も、この運河を利用しています。
現在、パナマ運河は、気候変動による降雨パターンの変化などによる深刻な水不足の影響を受けており、運河の運営に大きな課題が生じています。最近の報告では、水位は回復傾向にあるものの、気候変動による長期的な影響は依然として不透明です。パナマ運河の気候変動リスクは、世界経済にどのような影響を与えるのでしょうか。また、数年前に話題になった「第2パナマ運河」建設計画や、パナマ運河の拡張計画は、現在どのような状況なのでしょうか。
今回のオンラインセミナーでは、海運経済学の専門家で、コンテナ輸送市場に詳しい松田琢磨教授をお招きし、パナマ運河について、わかりやすく解説していただきました。
講演要旨
1.パナマ運河の概要
・パナマ運河は太平洋と大西洋を結ぶ国際物流の拠点であり、中央部にガトゥン湖がある閘門(こうもん)式運河
・運河には道路や鉄道も並行して走り、鉄道ではコンテナも輸送
・世界の海をわたる貨物のうち約3%がパナマ運河を通航
・パナマ運河にはパナマックス(古い閘門)とネオパナマックス(新しい閘門)がある
・通航船舶数はパナマックス閘門のほうが多いが、ネオパナマックス閘門はコンテナ船やLPG船、ドライバルク、LNG船などの大型船舶が通航可能なため、重要度は高い
・パナマ運河を通る船の約4割が、アジアと北米東岸を結ぶ
・国別に見ると、米国、中国、日本、韓国、チリの順にパナマ運河を利用
・1999年にパナマ政府に管理が移管されるまで長年にわたりパナマ運河を管理していた米国の利用が最も多く、影響も強い
・パナマ運河通航貨物量ではコンテナや穀物、LNG・LPGが多いが、世界海上輸送量に占めるシェアでは自動車専用船の割合が多い
2.パナマ運河拡張工事とその影響
・コンテナ船通航の増加により2002年頃にはパナマ運河の混雑が激化
・パナマ運河は狭く、5,000TEUサイズを超える大型船が通れなかった
・2007年からパナマ運河庁が52億ドル以上の費用をかけ運河拡張工事開始。2016年6月に運用開始、年間最大通航可能容量は2倍に増大
・拡張工事により米国産LNG・LPGの輸送日数を約3週間短縮、運航コストの大幅削減を実現。米国産LNG・LPGの需要は高まり、その経路であるパナマ運河は重要な位置付け
3.パナマ運河の水不足
・パナマ運河は閘門を開閉する際に多くの水を消費、船舶の通航における運河流域の水利用量は全体の2/3を占める
・パナマでは、人口増加により年々飲料水や発電の需要が増加傾向にあること、森林伐採により保水できないことで水不足が慢性化
・2023年度はエルニーニョ現象による水不足リスクの上昇のためパナマ運河の通航制限を実施(現在は回復傾向)
・中長期的な通航制限は米国産LNG・LPGの輸送優位性を低下させ、パナマ運河への依存が高い日本をはじめとする各国のエネルギー調達・政策転換への影響が懸念される
4.パナマ運河の経済効果
・パナマ運河は、通航制限はあるが通航関連収入の大幅な減少は回避している
・パナマ運河の利益率とも言えるEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)マージンは65.5%(2023年)と非常に高く、収入の多くはパナマ政府の歳入となっている
・GDP貢献度は3.1%、乗数効果を含む貢献度はGDPの5.8%と、パナマ政府の重要産業
5.他経路との競争と「第2パナマ運河」の構想
・スエズ運河との競争
運ぶ側は、生産拠点、大型の船が通航可能か、寄港地、海賊多発地域(紅海、西アフリカ、マラッカ海峡)を通るリスク、運河の通航料や通航制限の有無、目的地、ストライキのリスクといった要因により、スエズ運河を使うかパナマ運河を使うかを選定
・「第2パナマ運河」構想
-ニカラグア運河建設計画: 2010年代に発表。中国主導、費用総額500億ドル、パナマ運河よりも深い水深で、2014年末の建設開始式典の開催後、建設は停滞中
-ホンジュラスドライカナル構想:アジアから欧米に向かうコンテナ貨物を、太平洋側に位置するアマパラ港でトレーラーに積み替えて陸路で北上させ、大西洋側のコルテス港で再びコンテナ船に積み込むという構想
◇
講演後の質疑応答では、パナマ運河をめぐる米国とパナマの関係、二酸化炭素の排出が少ない海運への期待、パナマ運河・スエズ運河・喜望峰ルートの選択等について、活発な質問が飛び交いました。
セミナー終了後のアンケートによると、「パナマ運河の水不足」や、「他経路との競争と「第2パナマ運河」の構想」のパートへの関心が高かったことがわかりました。この他にも参加者から多くの質問や意見が寄せられ、パナマ運河の今後の行方への高い関心が見て取れました。
セミナー概要
主 催: 公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(日本GIF)
日 時: 2024年9月30日(月)14:00~15:30
名 称: オンラインセミナー「パナマ運河の未来:気候変動とグローバル物流の行方」
開催形式: Zoomを利用したオンライン形式(ウェビナー)
講演者: 拓殖大学商学部国際ビジネス学科教授 松田琢磨
司会者: 中山 幹康 (日本GIF事務局長)
参 加 費: 無料
動 画: https://gif.or.jp/seminar_youtube/panama-2/
講師略歴
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411029294-O3-4Y4jvEFp】
拓殖大学商学部国際ビジネス学科教授、(公財)日本海事センター 企画研究部 客員研究員
筑波大学第三学群社会工学類卒業。東京工業大学大学院理工学研究科博士課程単位取得退学、博士(学術)(東京工業大学)。(公財)日本海事センター主任研究員を経て、2020年より現職。研究分野は海運経済学、国際物流など。‘Monopoly in Container Shipping Market: An Econometric Approach’(共著、2021年)、『新国際物流論 基礎からDXまで』(共著、2022年)、『日の丸コンテナ会社ONEはなぜ成功したのか?』(共著、2023年)、『コンテナから読む世界経済 経済の血液はこの「箱」が運んでいる!』(2023年)などの著書/論文がある。
所属学会は日本海運経済学会(常任理事、産官学連携委員長、編集副委員長)、日本物流学会(理事、編集委員)、公益事業学会(評議員)、国際海運経済学会(IAME)、日本経済学会、土木学会、日本交通学会、日本クルーズ&フェリー学会。2021年5月よりNewsPicksプロピッカーも務める。
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セミナーで使用されたスライドより(C)松田琢磨
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