「ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い」は男同士が一つの仕事を成し遂げる話である。主人公となってるのは、モーツァルトの方ではなく、歌劇「ドン・ジョバンニ」の台本を書いた劇作家ロレンツォ・ダ・ポンテだ。つまり、ダ・ポンテとモーツァルトの仕事ぶりを描いた映画だ。「カルメン」(83年)のカルロス・サウラ監督が手がけ、撮影は「カラヴァッジョ」で素晴らしい仕事ぶりを見せたヴィットリオ・ストラーロさんが担当した。コンビを組むことの多い2人の巨匠だ。
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ダ・ポンテは神父でありながら自由や芸術を愛し、放蕩三昧(ほうとうざんまい)。さらに秘密結社に属していたため、反逆罪で逮捕されてしまう。ベネチアから15年間の追放を言い渡され、ウィーンに流れ着いた。カサノバの助言通りにサリエリを訪ねた縁で、皇帝からモーツァルトのオペラの台本を書くように提案されたダ・ポンテは、ベネチア時代にひと目惚れした娘アンネッタと、ラッキーにも再会も果たした。さて仕事と恋の行方は……。
何度も舞台化されていた題材に乗り気ではなかったモーツァルトを、巧みな話術でプレゼンするダ・ポンテのイメージが視覚化され、劇中劇が繰り広げられていくのだが、その表現が非常に幻想的で面白い。芸術にいざなわれる者とはこうしてのめり込んでいくのだということが体感できる。史実と虚実を流れるように行き来し、一つの舞台を見ているようでもある。
もちろんサウラ監督のこと、音楽映画としても楽しめるのだが、一番気に入ったのは、書き割り(舞台で使用する背景画)の景色だ。18世紀のウィーンの町並みも書き割りだが、これが妙なリアリティーを生んでいるから不思議だ。オペラの上演シーンでは、なんだか円谷プロの特撮映画を見ているような気分になった。理由は独特なライティングにあるのかもしれないが、サウラ監督とストラーロさんのコンビの映画「タンゴ」でも用いられた方法を使っている。ダ・ポンテとモーツァルトの共同作業を描いたこの映画は、サウラ監督とストラーロさんの共同作業の物語でもあった。銀座テアトルシネマ(東京都中央区)、Bunkamuraル・シネマ(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
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