黒川文雄のサブカル黙示録:日本の誇る「声優文化」の魅力

 日本が誇るソフトコンテンツの一つ。それは「声優」です。

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 インターネットのラジオ番組を手掛けるようになってから声優との交流関係が増えました。感心するのは声だけでアクションなどを表現してしまうその演技力です。自分もしゃべるのは得意ですが、声の演出という点では反省することしきりですね。アニメの吹き替え現場は、「絵」がないことも日常茶飯事で、絵よりも先に声を入れる「プレスコアリング(プレスコ)」を行い、場合によってはコンマ数秒単位でセリフを収録することもあるそうです。

 先日、声優が多く所属する事務所「81プロデュース」から手紙が来ました。創業30周年のお礼で、記念のバッジも同封されていました。この会社の歴史が、日本の声優の歴史と言えるのかもしれません。

 さて、かつて劇場公開の洋画を見るのは字幕でしたが、ここ数年は公開と同時に吹き替え版があります。昔からの映画ファンには複雑な心境かもしれませんが、一般層に幅広く見てもらう努力と考えれば、ありでしょう。

 しかし、これは劇場公開のためだけではありません。公開後にDVDを発売するタイミングが早まったことに起因しています。つまり、劇場公開が決まったときには、既にDVD用の「吹き替え版」を準備しているのです。全国規模で公開するロードショークラスの映画ならば、DVDの「日本語吹き替え版」は必須で、同時にマンダリン(中国語)版も含まれていることもあります。これは本国(ハリウッド)の指示で行われていると考えたほうがいいでしょう。

 吹き替え版といえば、アメリカのテレビドラマシリーズのヒットが、そのルーツの一つだと思います。例えば、NHKで放送された「ER救急救命室」や、ジャック・バウアーの「24」はその代表格。どちらも字幕のみで視聴するのは困難で、映像のテンポや、主人公たちの感情の機微を表現するためにも吹き替えは必然でした。「韓流ドラマ」も同じで、ぺ・ヨンジュンさんも韓国語の放送だったら、ここまでブレークしなかったでしょう。

 日本では、当たり前の声優ですが、海外では声優(ボイスアクター)という専門職はありません。厳密にはゼロではないのですが、俳優が声優を兼業するのが普通です。もちろん、日本のように熱烈な声優ファンもいません。

 しかし日本は違います。「あの俳優ならば、この声優」という暗黙のルールもあるほどで、声優の存在感はとてつもなく重要です。もちろんアジアを中心とした海外の日本オタクたちにも同様。そこまで来ると声優は、新しい「演者」といって差し支えありません。これこそ日本が誇る「声優文化」ではないでしょうか。

 ◇筆者プロフィル

くろかわ・ふみお=1960年、東京都生まれ。84年アポロン音楽工業(バンダイミュージック)入社。ギャガコミュニケーションズ、セガエンタープライゼス(現セガ)、デジキューブを経て、03年にデックスエンタテインメントを設立、社長に就任した。08年5月に退任。現在はブシロード副社長。音楽、映画、ゲーム業界などの表と裏を知りつくす。

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