注目映画紹介:「借りぐらしのアリエッティ」 結末は現実的 原作者の心の声を表現 

「借りぐらしのアリエッティ」の一場面。(C)2010 GNDHDDTW
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「借りぐらしのアリエッティ」の一場面。(C)2010 GNDHDDTW

 宮崎駿監督率いるスタジオジブリの新作「借りぐらしのアリエッティ」が17日から全国で公開される。宮崎監督による脚本を、これが初監督作となる米林宏昌さんが映像化した。

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 療養のために母が暮らした田舎の古い屋敷にやって来た少年・翔。彼は葉陰からのぞく小さな少女を目にする。彼女の名はアリエッティ。翔が暮らす家の床下に、父と母と暮らしていた。「人間に見られてはいけない」……それが、彼ら小人たちのおきてだった。

 遠い昔の記憶をたぐり寄せたような、見覚えある風景に出合ったような懐かしさをおぼえる。それはおそらく、アリエッティのおてんばぶりに、宮崎アニメの原点ともいえる作品「未来少年コナン」のコナンの伸びやかさを、アリエッティが出会う小人の野生児スピラーに、コナンの親友ジムシィを、そして、翔の家に飼われているネコに“トトロ”や“ネコバス”の面影を見たからかもしれない。

 生命の営みの素晴らしさや自然との共存をうたったファンタジーという点では、従来のジブリ作品と変わらない。だが今作は、ここ最近のフワフワとした印象の作品から距離を置き、結末は現実的で、そこに共感をおぼえる。

 原作者メアリー・ノートンさんは、1929年の世界大恐慌で夫の会社が倒産し、以来4人の子供とともに欧米各地で流浪の生活を送った。第二次世界大戦後は英国各地を転々としながら子供のための物語を書き続けたという。「私たちはそう簡単に滅びたりしないわ」。アリエッティが叫ぶ言葉は、つらい目に遭いながらも生きようとする、ノートンさん自身の声なのかもしれない。

 「かりに行く」そんな言葉がたびたびアリエッティとその両親の口から聞こえる。「かり」=「狩り」と連想するが、当然ながらそこには、「借り」の意味もある。アリエッティたちは、せっけんやクッキー、砂糖、電気やガスなどを、床上で暮らす人間たちに気付かれないよう「借りて」生活している。糸巻き、切手、ボタン……アリエッティの家には、人間界ではゴミとして扱われるものが見事に再利用されている。彼らの知恵と工夫を凝らした生活をもっともっと見ていたいと思う人は、多いのではないだろうか。

 アリエッティの声を志田未来さんが、翔を神木隆之介さんが務めているほか、藤原竜也さん、大竹しのぶさん、三浦友和さんらが声の出演を果たしている。17日からTOHOシネマズスカラ座(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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