作家・吉田修一の代表作を、「フラガール」の李相日監督が映画化した「悪人」が11日から全国で公開される。原作者の吉田さんが、李監督とともに共同で脚本を書き上げ、原作より骨太な作品に仕上がった。主演は自らこの殺人事件の犯人役を望んで演じたという妻夫木聡さん。また、モントリオール世界映画祭で最優秀女優賞に輝いたヒロイン役の深津絵里さんは、殺人事件の犯人を愛してしまった女の複雑な感情を見事に演じ切り、女優として次のステージへの扉を開いた。
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長崎に住む土木作業員の清水祐一(妻夫木さん)は、恋人も友人もほとんどおらず、祖父母の面倒を見ながら暮らしている。福岡で保険会社の会社員をしている石橋佳乃(満島ひかりさん)と会うはずだったが、佳乃は祐一との約束をすっぽかして、好意を寄せる大学生・増尾圭吾(岡田将生さん)の車に乗っていってしまう。その後、佳乃が県境の峠で遺体で発見される。増尾に容疑がかかるが真犯人ではなく、新たな容疑者として祐一が浮かび上がる。一方、祐一は出会い系サイトで佐賀で紳士服量販店の店員をする馬込光代(深津絵里)と知り合う。光代が祐一と交際を始めるようになってまもなく、警察が追ってくる……というストーリー。
被害者と加害者。そして、それぞれの家族。一つの事件にまつわる複数の人間ドラマが展開し、人間の多面性を描くことに成功している。殺人事件の犯人・祐一を妻夫木さんが金髪で熱演。李監督の作品に出演するのは「69 sixty nine」(04年)以来2作目だ。原作では祐一の人物像は他人の視点を借りて多角的に語られているが、映画ではせりふこそ少ないが、自身の視点で明確に提示される。だからこそ、容疑者と容疑者を愛した女の息の詰まるような逃亡劇に感情移入しやすく、ドラマチックに見える。妻夫木さんの甘い顔立ちは母性本能をくすぐるだろうが、それだけではなく、役柄になり切って閉塞(へいそく)感のある日常とふとしたきっかけで人を殺してしまった苦悩を演じてみせた。
そのほか、殺される佳乃役の満島さん、被害者の母親役の宮崎美子さんの存在感がいい。樹木希林さん、柄本明さんらベテラン俳優の力演も見どころだ。だんろの向こう側に立つ宮崎さん、雨の窓辺にいる深津さん、暗い道に立ち尽くす妻夫木さんの後ろ姿……など、顔がはっきり見えないからこそ、表情を想像させるシーンのさりげない演出が秀逸だ。音楽は久石譲さん。11日から全国東宝系で公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
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