松山ケンイチさんが主演、菊地凛子さんがヒロイン役を務め、話題を集めている映画「ノルウェイの森」(トラン・アン・ユン監督)は誰もが困難だと思っていた村上春樹さんの同名ベストセラー小説を映画化した作品。これまでにも「風の歌を聴け」(大森一樹監督)や「トニー滝谷」(市川準監督)など村上さんの小説が映画化されたことはあるが、日本一の発行総累計部数1095万部という記録を保持する「ノルウェイの森」は別格。プロデューサーを務めたアスミック・エースの小川真司さんに、映画ができるまでの道のりを聞いた。(新谷里映/毎日新聞デジタル)
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小川さんと「ノルウェイの森」の映画化の原点は、10年前にさかのぼる。トラン監督の作品「夏至」(00年)をアスミック・エースが配給したことがきっかけだった。「その当時、トランが『ノルウェイの森』に興味があるという話を担当者から聞いていたんですが、僕は『ピンポン』や『ジョゼと虎と魚たち』を抱えていて、すぐに行動に移すことはなかったんです。『ジョゼ』が落ちついて、さて次の作品をどうしようかと考えていたときに、ふとトランのことを思い出して。連絡を取ってみるとまだ『やってみたい』という。基本的に村上春樹さんの作品は許可がなかなか下りないこと、ビートルズの許諾もたぶん取れないだろうということを伝えて、まずは村上さんに会ってみようということになったんです」と、越えなくてはいけないハードルがいくつもある難スタートだったと話す。
トラン監督とともに村上さんを訪ねた04年5月のことを「そのときが一番テンション高かったです」と興奮気味に振り返る小川さん。面会は村上さんの事務所で行われ、2人が訪れたときは村上さんは習慣にしているジョギングから戻った直後で、玄関口にいた2人に「汗をふくのでちょっと待ってくれませんか」と声を掛けたという。小川さんは「村上さんはとても慎重に物事を考える方。訪ねたときも、『すぐに返事はできないけれど、トラン監督の作品をすべて見ていたので会ってみようと思った』と言っていました。トランは小説への思いを熱弁した。すると、脚本を読んで(気にいれば)映画化の許諾をするかもしれないと言ってくれた。脚本を書いていいと了承を得たことは、一歩前進でしたね」と当時のことを振り返る。その後、トラン監督は脚本の執筆に入るわけだが、小川さんは「大変なことになりそうだな……」と重圧をひしひしと感じたという。
3年後、村上さんから最終的に脚本のOKが出て、本格的な製作準備が始まった。トラン監督が映画化にあたって大切にしたのは「映画は原作に似ていなくてはならない」ということだった。「似る」とはどういうことなのか? 小川さんいわく「小説と映画は全く違うメディア。別物なんです。でも、原作のDNAは継承していなければならないと僕は思っていて。見た目は違っているけれど、並べてみると血がつながっていることが分かるということかな」と説明。原作とトラン監督との相性も、「トランは村上さんの体質に近かったんでしょうね。海外の人だけれど、オリジナルを深く理解し、リスペクトし、村上さんの作品の底にあるものに共鳴している」と感心していた。プロデューサーとして「トラン監督と『ノルウェイの森』の組み合わせが面白いと思った」という小川さんの直感は見事に的中したわけだ。しかも撮影のスケジュールが予定よりも先送りになったことで、希望していた松山さんの主演がかない、菊地さん、水原希子さん、玉山鉄二さんといったベストキャストが顔をそろえた。
製作が順調に進む一方で「プロデューサーとしてのプレッシャーは過去最大でしたね」と胸の内を明かす。「大きい作品になればなるほど、いろいろな人が協力してくれないと映画はできない。お金もかかるし、バジェット(予算)も大きいし。そういう意味では、エグゼクティブプロデューサーであるフジテレビの亀山(千広)さんの存在は大きかった。亀山さんも村上春樹の原作だからやるって言ってくれたと思うんです。かかわっている多くの人たちの期待を裏切ってはいけない、何よりも一番は村上さんに対して信用を裏切ってはいけない、それが一番のプレッシャーでした」と話す小川さん。だが、仕上がりについてはとても満足げだった。
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