佐野史郎:「役柄と堤監督と元春さんが化学反応を起こした」 WOWOW「コヨーテ、海へ」出演

出演したWOWOWのスペシャルドラマ「コヨーテ、海へ」について語る佐野史郎さん
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出演したWOWOWのスペシャルドラマ「コヨーテ、海へ」について語る佐野史郎さん

 シンガー・ソングライターの佐野元春さんとその音楽に影響を受けてきたという映画「20世紀少年」「BECK」で知られる堤幸彦監督がコラボしたスペシャルドラマ「コヨーテ、海へ」がWOWOWで11年1月3日午後8時に放送される。この作品で突然失踪し、ある目的のためにブラジルに向かった主人公ハルの父親役を演じた俳優の佐野史郎さんに撮影エピソードなどを聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 「コヨーテ、海へ」は、元春さんが影響を受けたジャック・ケルアックの「路上」に代表される「ビート・ジェネレーション」(55~64年にアメリカ文学界で起こった新たな活動を行うグループ、またはその活動の総称)にオマージュをささげ、堤監督のオリジナル脚本で、全編に元春さんの楽曲を使用し、世代を超えた解放と融和をテーマしたロードムービー。ブラジルのポルトアレグレの空港に降り立つ中年男、北村(佐野史郎さん)。声をかけてきたガイドと観光地でも何でもない大西洋に突き出す突堤へと向かう。一方、謎の失踪をした父、北村の秘密を探るためニューヨークに降り立つ青年ハル(林遣都さん)。最初に訪れた教会で出会った魅力的なダンサー、デイジー(長渕文音さん)とマンハッタンを巡る旅が始まる……というストーリー。

 −−ブラジルロケ、楽しかったそうですね。周りに映っている方の表情も自然な笑顔でした。

 楽しかったですねえ。自然に見えたのは、一つは今回、一眼レフカメラの(動画機能を使った)HD撮影という機材で、まあ実際にはそれにホルダーとか付けたりして、ものすごくコンパクトというほどではないんですけれど、それでも通常のHDカメラの大きいのに比べたら、小さいし、照明もないし、20人弱の少人数のクルーでの撮影ですから機動性があった。また、NGが存在しないというか、映像的にも技術的にもうまくいかないことがあったら、もう一回やればいいし、という芝居の途中でも佐野さんこうやってという指示が声を出して飛んでくるような。「もうちょっと前見ていてもらえますか?」とか回しながらやっていくんで、いい意味で緊張や構えがないし、確かに良くも悪くも、自然な演技に映ってしまったんだと思います。加えて相手役のガイドのカルロス役の人は本物の通訳さんで俳優じゃないので、当然、こっちが一人でお芝居してたら成立しない。彼はもちろんせりふがあるから苦労はしているんですけど、全部こっちが受け止めればいいので。カルロスの日本語は下手ですよね(笑い)。(彼のカタコトの日本語に)本当に笑っちゃって、大変といえば大変なんですけど、それも楽しい作業でした。

 −−カルロスさんは普段からああいうふうに話す方なんですか。

 ポルトガル語なので(日本語は)普段は使わないので、それは仕方ないですよね。日本語はひらがながちょっとくらいしか書けないし、単語もそんなに知らない。でも僕の故郷の島根の出雲地方に1年間研修で住んでいたりして、出雲弁とかよく知ってるんですよ。出てくるだけで面白いし、実際に魅力的な人ですから。優しくてね。

 −−史郎さんご自身と雰囲気も似ている。

 同じ出雲人の血が入っていて、それは偶然だったんですけど、ただ監督がそのことはブラジルにロケハンに行って分かったという。たまたま行ったらガイドさんがそういう人物だったんです。せりふに細かい地名とか出てくるでしょ。そういう土地のことは、監督も知らなかった。

 −−堤防のシーンの波が荒々しかったんですが、怖くはなかったんですか。

 あの突堤はいつも工事してるんですよ。それで普段は工事で人がいっぱいいるんですよ。そこで撮影したら、ほかに人が映り込むはずだし、止められたりするかもしれないのに、(撮影した)その日は波が荒かったので、工事がお休みで人がいなかった。だからあのシーンが撮れたんですよ。それは天気が悪くてラッキーだったんですけど、でも工事が中止になるくらい波が荒いということで、そこに1人で行くと危ない(笑い)。危ないけれどもいかなきゃいけない、そのギリギリのところで実際は撮影部の方が危なかったから撮影をやめたんですけど、僕はそのまま行っちゃったんです。やっぱり俳優としてはやめられないですね、性(さが)として。一瞬、「べつに俺死んでもいいか」と思っちゃうんですよ。俳優の仕事って危ない仕事ですよね。本当にさらわれちゃったらいろんなところに迷惑を掛けちゃうんで、どこかで判断はしているんですけど。もうカットが掛かったら、猛ダッシュで戻って(笑い)。すごく怖かったですね。

 −−昔からブラジルはお好きだそうで。

 そうなんです。音楽でいったらニール・ヤング、大滝詠一さんなどの洗礼を受け、そういうロックの影響を受けているのは堤監督や元春さんと共通ですが、僕の場合、映画も好きだったし。映画音楽がヒットチャートに載っていて、エンリオ・モリコーネとかフランシス・レイだとかそういうものを聴いて育っている。そしてもう一つはボサノバなんですよ。「ゲッツ/ジルベルト」(スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトらのボサノバの名盤)が大ヒットしていたのもありますけど。ボサノバを中学生のころよく聴いていて、ブラジルに対する思いが非常に強かったんです。いつか行ってみたいって。また個人的には、もう亡くなってしまったんですけど、サンパウロに知り合いの画家がいたりして、アメリカとブラジルとの関係への思いとか、自身の歴史にも重なって、フィクションで演じるという感じでは全くなかった。自分にとってアメリカもブラジルも日本の五島列島(長崎県)も結局、神話のルーツですから、邪馬台国の神話も含めて自分の中でつながっているんですね。それが結びついたっていうのは映像の神様に導かれた感じがしていて。

 また写真を撮る役でもあったし。実際に僕も写真展をやったり、写真が好きなので、ブラジルで撮った写真も夏に開いた写真展で発表したりもしたんですね。だからフィクション「コヨーテ、海へ」の物語と自分自身が分けられないような、そのあと(役柄と同じように)写真展をやるなんで台本には書いてないですからね。全部(虚実が)重なってしまったんですよね。この役柄と堤監督と佐野元春さんが化学反応を起こしたとしか思えないんですよ。

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 −−父と子についても描かれています。

 うちは娘なので、息子を持ったことはないので分からないんですけど、自分が父に対して抱いていた葛藤みたいなことは逆に入れたいというのがあったので、父親としてというよりは、合わせ鏡みたいなもので、20年前の写真の中に写っている自分が、自分でありながら自分の息子のような気持ちでやりました。息子との関係は、本物の息子と、息子と同じ時期の数十年前の自分もまた、もう1人の息子なんじゃないかという構造ですね。自分と他人との境目がないというか、自分と他人とが入れ子になってしまうような感覚で、実際に(演じている)自分もフィクションと現実が分けられないような状態でカメラの前にいたので、役を演じているのか、役を借りて生身の僕が写真の中にいるのかを行ったり来たりする作業は面白かった。

 −−そういう役をされることはあまりないですか。

 でも僕は俳優を続けてて普段からそういう意識でいることは確かですね。これは役である、これは現実の自分であるということの線引きはなくて、どうやったって演じている僕が映っているわけであって、役ではない。ただ見ている人は明らかに堤監督は(いつもと)違うというまなざしで見ているとドラマとはフィクションという名を借りたドキュメンタリーだというふうに思って撮っていると分かるでしょうね。優れた監督はやっぱり、フィクションは全くの夢、現実とは別物とはとらえない。そういうまなざしを持っている監督はフィクションであっても事実に近いことなんだっていう説得力を引き出してくださるような気がしますね。

 −−作品を通して見て、ニューヨークとブラジルのシーンのバランスがいいなと感じましたが。

 ニューヨークであれだけ雪が降るのはあの時期はめずらしいことだったですし、それと同じく2~3月ぐらいに南米では季節反対ですから、空気も正反対で、全然違いますし、(この対比には)奇跡がありましたよね。僕が行ったブラジルは(台本に)天気がよかったのがだんだん悪くなって雨が降ってくるってなってたら、だんだん雲行きが怪しくなってきて、本当に降ってくるんですよ。ドキュメンタリーでそういう天気だったから、あとで上映台本を起こしたわけじゃなくて、書いてある通りになっていくんですよ(笑い)。まあニューヨークの雪は書いてなかったかもしれないけど、ブラジル編はその通りになっていくんですよね。偶然というか奇跡というか。映画をずっとやっているとたまにありますけどね、でもそうそうあることじゃないです。

 −−佐野元春さんに対して、今回の作品に参加される前に接点はあったんですか。

 お会いするのは初めてでした。でも同年代ですし、気にはしていました。大滝詠一ファミリーというか、「ナイアガラ」の出であるという、「はっぴいえんど」の流れでずっと好きでしたし、(はっぴいえんどとは)個人的にもお付き合いがありますので。そういう音楽シーンの大きな川の流れの中で、同じ川を生きているのかなというシンパシーはもちろんあります。熱心なリスナーというわけでは正直いうとなかったですけど音楽も聴いてきましたしね。堤監督だって「20世紀少年」までは仕事を一回もしたことなかった。でも、一緒に音楽をしたりということはあったんです。だから現場で会ってもどうしても音楽の方がお互い先に立っちゃいますよね。だから(今回の仕事も)最初から俳優の仕事を求められた感じはどうもしないですね。

 −−50代の同世代はもちろん、若い世代も楽しめる作品になっています。どういうところを見てほしい、感じてほしいですか。

 こういうふうにというのは全然ないです。見た人が見えたように見ればいいと思いますけど。全部の作品に対してそうですけど、僕は届けばいいなとは思います。作っている一人としては、最終的に伝えたいのは「人が生きている。それ以上でも以下でもない」ということ。無垢(むく)に意味を見つけ出さずに瞬間、瞬間を生きている、その無常感を分かち合えればなと思います。

 −−1月3日に放送ですけれど、11年はどういう年にしたいですか。

 正月そうそう「無常感」っていわれても(笑い)。なんとなく前半は仕事がいくつかあってそのことですでに頭がいっぱいなんです。この作品からずっと連鎖していっている感じですね。

 <プロフィル>

 1955年3月4日生まれ、松江市出身。75年、劇団「シェイクスピア・シアター」に創設メンバーとして参加。80年、唐十郎主宰の「状況劇場」に移り、84年まで在籍。86年、「夢みるように眠りたい」(林海象監督)で映画に初主演した。92年のテレビドラマ「ずっとあなたが好きだった」の冬彦役の怪演で広く名が知られるようになる。堤監督の作品は「20世紀少年」3部作に出演。

 *……スペシャルドラマ「堤 幸彦×佐野元春 『コヨーテ、海へ』」は11年1月3日午後8時▽「佐野元春30周年アニバーサリースペシャル ALL FLOWERS IN TIME」11年1月3日午後10時▽「『コヨーテ、海へ』特番 BEAT GOES ON~ビートを探す旅~」11年1月3日午後2時

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