1巻が発売されたコミックスの中から、編集部と書店員のお薦めマンガを紹介する「はじめの1巻」。今回は「ジャンプSQ.(スクエア)」(集英社)で連載、さびれた温泉街を舞台に、心温かな物語が描かれる小田扉さんの「しょんぼり温泉」です。
ウナギノボリ
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ホテルがつぶれ、20年前に作られたガイドブックを使い回す諸掘(もろぼり)温泉。そんな温泉街を復興させようと、中1の少女まきが「観光協会長」に就任。仲間にはっぱをかけ、町おこしに乗り出そうとする。諸掘町にかかわる人たちが次々と登場し、さまざまなストーリーが紡がれる。平凡な日常を独自の視点で描くマンガ「団地ともお」の作者の作品だ。
本作を始めるにあたって、小田先生と2人でとある温泉街へ取材旅行に行きました。取材にあたっては先生から「できるだけさびれた温泉街に泊まりたいです」というリクエストがあったのですが、そんなことはガイドブックにも書いていないわけでして、探すのに苦労しました(笑い)。
最後は勘で決めた取材地でしたが、まさにビンゴでした(笑い)。その温泉街が(失礼ですが)またちょうど良い具合にうらぶれていたので、先生の構想も一気にふくらんでいったのを覚えております。地元の方がやっつけでこしらえたであろう手作りのマスコットキャラ(張りぼて)が出迎えてくれたり……。海沿いに貸しさお屋があったので、釣りをしようとさおを借りたのはいいのですが、我々がだいぶ久しぶりのお客だったらしく、エサは置いていないと言われて……。貸しさお屋さんに自転車を借りて近所(と言っても結構遠く)の釣具屋さんにエサを買いに行かされたりしました(笑い)。
そんな取材の成果(?)がたっぷり詰まったゆる~い世界に、まさに温泉のようにまったりとつかっていただければこれ幸いです。
地味な印象を受けるのはタイトルの「しょんぼり」という言葉のせいもあるかと思いますが、大きな事件が起きない物語だから。しかしその、他人から見たらささいな出来事に心を砕いている人々の姿に不思議なほど胸を打たれました。善意の空回り、小さな誤解、やきもちを隠すための強がり、大事な人を悲しませないためのウソなど、一見ネガティブなテーマが盛り込まれているようなのに読後に温かさが残るのは、物語の舞台が温泉地だからかもしれません。カバーを外してみると、(作品に登場する)諸掘温泉を訪れたような気持ちを味わえますよ。
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