今春はショパン、マーラーと、クラシック音楽家の映画が相次いでいる。中でもこの作品「ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路」(ルネ・フェレ監督)は抜群に面白い。モーツァルト自身ではなく、その姉にスポットを当て、旅芸人一家の一員としてのモーツァルトを描く。実際にベルサイユ宮殿でロケを行い、見応えたっぷりの映像に仕上がっている。
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18世紀半ば、神童と絶賛され欧州中に知られる存在だった11歳のモーツァルト。四つ年上の姉ナンネルは伴奏をしながら、本当は作曲家になりたいと思っていた。だが、「女に作曲は不要」と父親の許しが得られない。演奏旅行の途中、パリのベルサイユ宮殿へ向かっていた一家だったが、馬車が雪にはまって立ち往生し、村の女子修道院に身を寄せることになる。そこには軟禁されているルイ15世の娘たちがいた。ナンネルは末娘のルイーズと仲よくなる。やがて宮殿に到着した一家。王太子ルイ・フェルディナンに会う機会が訪れるが、男装していたナンネルを王太子は本当の少年だと思い込み作曲を依頼する。ナンネルは王太子に好意を抱き始める……というストーリー。
女性の地位が低かった時代の背景と、王太子との淡い恋物語というファンタジー、歴史的事実とフィクションが見事に融合している。映画に出てくるナンネルが作曲した曲は想像上の産物らしいが、彼女の若さと情熱がうまく表現されている。演じるマリー・フェレさん(フェレ監督の娘)の黙ったときのちょっと考えているような表情がキュートだ。音楽一家に生まれ、才能に恵まれながら、好きなように生きられない歯がゆさのようなものがにじみ出ている。もしモーツァルトの姉も自由に作曲できる時代に生まれていたら……父モーツァルトの栄光を求める欲望はもっと増していたかも! そんな想像をすると、ちょっと恐ろしい。Bunkamuraル・シネマ(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
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