3DS値下げ：販売不振で普及へ捨て身の戦略転換　ポケモン、マリオで起死回生を

　価格の40％にも及ぶ1万円の大幅値下げ（8月11日から）を発表した任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」。背景には深刻な販売不振がある。岩田聡社長は「今思い切った手を打たなければ、多くのお客様にニンテンドー3DSを楽しんでいただく未来がつくりだせない可能性が高まった」と危機感をあらわにしており、2月の発売からわずか半年足らずで利益よりも普及を優先せざるえない戦略転換に追い込まれた形だ。

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　ニンテンドー3DSは、2月26日の発売から2日間で約37万台を販売するなど好調だったものの、発売直後の3月11日に東日本大震災が起きた影響もあり、スタートダッシュにつまずき、その後も売れ行きが鈍化。国内では発売から13週目で累計100万台の大台を突破したものの、発売4週目に大台を突破した初代「ニンテンドーDS」、8週目に突破した2代目「DS Lite」、同じく8週目の3代目「DSi」には売り上げのスピードで及ばなかった。

　売り上げ不振に陥った主な原因にはタイトル不足がある。3DS用のソフトとしては、ニンテンドウ64向けゲームを移植した「ゼルダの伝説　時のオカリナ3D」が6月に発売され、月内だけで22万本以上と好調で、ゲーム機本体の売り上げもけん引した。しかし、後に続くタイトルがなかったことから、中古ゲーム販売店では、「ゼルダ」をクリアした後はソフトと3DS本体を同時に売りに来るユーザーが相次いだといい、3DSのタイトル不足を示す象徴的な光景となった。また、これまでは任天堂の新型ゲーム機の登場とともに同時発売されてきたヒット作「マリオ」シリーズもいまだに発売されず、8月発売予定の新作ソフトは4タイトル、9月は3タイトルと、毎月20本近い新作が発売されるライバル機のPSPと比べ5分の1以下とラインアップの乏しさが目立ち、本体の売り上げに大きく影響した。

　こうした逆境を覆す“最後の手段”が、これまでに例を見ない半年足らずでの1万円という大幅値下げだった。1万5000円という価格は、現行機種としては、前世代機にあたるDSiと同額、DSiLLよりも3000円安く、ライバル機のPSPと比べても1800円安い戦略的なもの。しかし、この価格設定では利益は出ず、売れば売るほど赤字が膨らむが、岩田社長がいう「お客様にニンテンドー3DSを楽しんでいただく未来」、いわば携帯ゲーム機市場での占有率を得るため普及を優先させた捨て身の戦略だ。

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　利益より普及を優先した事例としてはソニーのPS3の事例が象徴的だ。06年11月に発売され、高い価格が普及を阻害していたPS3だが、09年9月に1万円安い2万9980円の新型モデルを投入して、それまでのPS3の最高記録（当時）となる約15万台の週間販売台数を記録した。同年末には人気ソフトの新作「ファイナルファンタジー13」（スクウェア・エニックス）も投入され、売り上げに拍車をかけた。

　しかし、今回の3DSは半年もたたないうちの異例の大幅値下げ。発売直後に購入したファンを裏切る結果になりかねない。今回の値下げに関して、岩田社長は「ニンテンドー3DSを価格改定前に購入されたみなさまへ」と題したメッセージを発表。「スーパーマリオブラザーズ」「マリオカートアドバンス」など3DSで遊べるファミコン、ゲームボーイアドバンスの人気タイトルを各10作品ずつ無料配信することを明かし、1万円高い現行の値段で購入したユーザーへの一定の配慮をみせたが、今月14日に新色「フレアレッド」の3DS本体を発売しており、わずか2週間での値下げ発表は朝令暮改との批判を免れないだろう。

　そうした批判と赤字を覚悟で実施する今回の値下げ。起死回生の戦略は既に描かれている。まず値下げの8月11日には3DS用ソフト「スーパーポケモンスクランブル」（ポケモン）を同時発売する。そもそもこのソフトは今月28日発売予定だったが、発売直前の25日になって急きょ8月11日への延期が発表された。公開中の劇場版アニメとの相乗効果も期待されていただけに、当初は関係者に動揺が広がったが、今回、同日に本体の大幅値下げが行われることが明らかになったため、普及への有力な援護射撃として期待されている。さらに、“キラータイトル”として期待されている「マリオ」シリーズの新作「スーパーマリオ3Dランド」（任天堂）を11月に、「マリオカート7」（同）を12月にそれぞれ発売。どちらも数百万本以上を販売している人気タイトルの2カ月連続投入によって、普及への戦略転換に弾みをつけようという考えだ。（売上台数はいずれもエンターブレイン調べ、毎日新聞デジタル）