コンテイジョン:S・ソダーバーグ監督に聞く 「今以上のものが得られなければ」映画界引退も

映画「コンテイジョン」について語るスティーブン・ソダーバーグ監督
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映画「コンテイジョン」について語るスティーブン・ソダーバーグ監督

 感染すると数日以内に命を落とすという新種のウイルスが世界中に広がり、正しい情報が得られずパニックに陥る人々を描いた米映画「コンテイジョン」が全国で公開中だ。「オーシャンズ」シリーズや「トラフィック」で知られるスティーブン・ソダーバーグ監督が手がけ、監督とは6度目のコラボレーションとなるマット・デイモンさんを筆頭に、グウィネス・パルトロウさんやジュード・ロウさんといったビッグスターが出演するパニック映画だ。作品のPRのために来日したソダーバーグ監督に聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 来日会見で、今作は「(ウイルスという)目に見えず、人間のように説得できる相手ではないものを敵に回すことの恐怖についてを描いた」と話し、また麻薬ルートを巡る人々を描いた自身の作品「トラフィック」を引き合いに出し、「麻薬は個人の努力で避けられるが、ウイルスはそこらじゅうに存在し、誰でも感染する可能性がある。だからこそ、映画の主題としてはいいものだった」とかみしめるようにコメントしたソダーバーグ監督。その口調はインタビュー時でも変わることはなかった。

 まず今作で触れておきたいのは、出演陣の豪華さだ。脚本執筆中からすでに、ウイルスで家族を失う男性役のデイモンさんと、米国疾病対策センター(CDC)の副所長役のローレンス・フィッシュバーンさんは決まっており、そのほかの俳優も、脚本を書き終えた早い段階でイメージできたという。それぞれの俳優については、今作のリサーチで世界保健機関(WHO)所属の女性と会ったとき、彼女がマリオン・コティヤールさんと重なったこと、CDC所属の女医ケイト・ウィンスレットさんとは何年も前から仕事をしたかったが今作でそれがかなったこと、また、ウイルスに感染してしまうパルトロウさんについては「(彼女ほどの女優が)あんなふうになってしまうのかと観客が驚く完璧なキャスティングだ」と話した。

 さらに、インターネット上にあることないことを書きたてて人々のパニックをあおるフリージャーナリスト役のロウさんの起用については「救世主的な役が彼にはピッタリだと思った」という。ただ、ロウさんは当時、映画「シャーロック・ホームズ」の撮影中だったため、今作への参加には1カ月間待つ必要があった。その間、常に「ジュードなしのバージョンを撮影し、編集段階でそれを見ていたので、もしかしたら彼は必要ないのでは」と自問自答し続けたという。だが「最終的には彼は絶対必要と考えるに至った」。なぜなら「インターネットの普及によって情報がオープンになったことで生まれる功罪を、彼のキャラクターが体言していると思えたからだ」と語った。

 映画ではまた、人々の行動にちらほらと“国民性”を見ることができる。その一つが、第1感染者とされた米国人の名前が公表されたとき、その人物や家族がバッシングされなかったことだ。それについてソダーバーグ監督は「脚本を書いているときは、それ(バッシングされること)も考えた」と断った上で、「ウイルスは、まるで意思を持つ生き物のように広がっていく。しかし人間には感染を予知できず、誰が罹患(りかん)するかもわからない。次は自分の番かもしれないと考えるために、他人を責めることはあまりない」と米国人の“特性”を解説。また、今作を製作しながら興味深かったこととして「アジア人がマスクをするのは他人にウイルスをうつさないためだが、米国人の場合は、他人からうつされることを避けるためにマスクをする」ことを挙げていた。

 ところで、今作と同時に22作目となる監督作「THE LAST TIME I SAW MICHAEL GREGG」を手掛け、また、24作目の「HAYWIRE」を完成させたソダーバーグ監督だが、引退説がささやかれている。真偽のほどをたずねると、今後「休暇に入る」とのこと。その理由を「(デビューした)22年前と比較すると、映画製作の腕は上達したが、自分にとって何が重要かを考えると答えを出せない。だから、今以上のものが得られないのであれば、それ(引退)もありうる」と、あえてうわさを否定しようとはしなかった。

 映画作りにおいて譲れないことを「(作品を)コントロールできる力」と語り、「例えば最終的判断の権限を自分に与えられた作品で、愛すべき作品が10本あるとすると、そのうちの9本までがトップクラスに入っている」と自身の仕事にプライドを持っている。そして「もし、私の映画を勝手にいじったら、お前の家を燃やすぞ、ぐらいの意識を持っていることが大事だと思う」と冗談とも本気ともつかないが、映画作りへの矜持(きょうじ)を口にする。それだけ映画を愛しているということだが、撮影も編集も自分で行い、納得のいったものだけを世に送り出すという信念がある監督だからこそ、今以上のものが得られなければ監督業から足を洗うという厳しい決断もできるのだろう。ぜひとも“休暇”が短いことを祈りながら、「コンテイジョン」を見に映画館に足を運んでほしい。

 <プロフィル>

 1963年、米ジョージア州アトランタ生まれ。89年の劇場長編監督デビュー作「セックスと嘘とビデオテープ」でいきなりカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞し、その後、98年の「アウト・オブ・サイト」でメジャースタジオ作品を手がけるようになる。00年「エリン・ブロコビッチ」と「トラフィック」で米アカデミー賞監督賞にダブルノミネートという偉業を果たし、後者で受賞。ほかの監督作に「オーシャンズ」シリーズ(01、04、07年)、「ソラリス」(02年)、「さらば、ベルリン」(06年)、「チェ 28歳の革命」「チェ 39歳 別れの手紙」(ともに08年)、「インフォーマント!」(09年)などがある。

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