ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
話題のマンガの魅力を担当編集が語る「マンガ質問状」。今回は、若者と3匹の飼い猫のシュールな日々を描いたカレー沢薫さんのギャグマンガ「クレムリン」です。「モーニング」編集部(講談社)の藤沢学さんと関根永渚至さんに作品の魅力を聞きました。
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−−この作品の魅力は?
全ての希望を喪失したかのような学生ニートの若者(男性)と3匹の飼い猫・ロシアンブルーの、心温まる共同生活を描いた作品。主人公・却津山春雄(きゃっつやま・はるお)は、ニートであることの引け目や反省などの気配は全く見せず、とにかくあるがままに日々を無為に過ごす……猫よりも猫らしい人間。かたや、3匹の猫・関羽(全員同じ名前です)は、却津山の先行きを心配し、何とか真人間になってほしいニャと粉骨砕身する人間よりも人間らしいヒューマンな猫ちゃん。
これまでのマンガにはない、シュールさとリアルさがないまぜになった世界観の構築に成功し、今年(11年)秋には「主人公が社会人になり猛烈に成功する」ことでアンケート人気が急上昇。モーニング本誌での連載延長が急きょ決定するなど、不安に満ちた現代を生きる現代人の心情をそのまま体現するかのようなライブ感も魅力です。
−−作品が生まれたきっかけは?
一昨年(09年)、小誌主催の新人賞、第26回MANGA OPENに「本名・無題」で応募。お世辞にも絵がうまいとはいえないけれど、独自の脱力感がある全くやる気のないニートと、3匹の猫たちがけっこうチャーミングで、なんだかんだとちゃんとオチてる、今回の応募作の中でも完成度はかなり高い、と、40代Aがポツリと支持したら、40代Bと、30代後半Cがオレもそう思うということになったのだが、若手編集者は全員シラケていた。若年層に支持されないギャグマンガはダメかもねと、担当付きで落選の憂き目に。
担当になった40代Aは、続編をたくさん描かせる→次回コンテストで捲土(けんど)重来→あわよくば大賞を取ってデビュー……程度の知恵しかなかったが、当時増刊モーニング・ツーの編集チーフだった40代Bは「大化けするに違いない」と強権発動。担当者の拙案に惑わされず、作者自ら「カレー沢薫『クレムリン』」と改め、月刊連載がスタート。部内の大勢が先行きを危ぶむ中、40代Bがやがて本誌編集長に昇進。同時に30代後半C(現在40代)がツーの編集チーフに昇格。週刊&月刊のダブル連載が実現して今日に至る……といった具合です。オッサンたちをたぶらかした……ことが、本作誕生と延命の秘訣(ひけつ)だったのかもしれません。本誌での延命は、途中から担当を志願した30代前半Dの驚異的なチャージによるものです。
−−編集者として作品を担当するうえでうれしいこと、逆に大変だったエピソードを教えてください?
読者の皆さんが「クレムリン」を楽しんでくれて、作者のカレー沢さんがその反応を喜んでくれる。双方向性みたいなものを感じられるのが何よりうれしいです。マンガは作者、読者、編集者、それぞれの感情が最も大切なメディアなので、もちろん単行本がたくさん売れてヒットしたらもっとうれしいですが、「目標70億部」への道のりはとりあえず遠いので、読者様の「面白かった!」「感動した!」という声がなによりもありがたく、カレー沢さんがとても元気づけられているのが分かるので、とにかくそれがうれしいです。毎回ネーム(=コンテ)が面白く、予想の範囲内に収まることが皆無なので、これまたとても楽しくうれしいひとときです。
残念なのは、作者が毎回頑張っていて、担当としても文句なく面白いと思えるものを掲載しているつもりなのに、読者アンケートで人気が取れなかったり、単行本の売り上げはけっこう健闘しているけれど、自分たちが思うような数字にはなかなか達しないことでしょうか。そのような状況の中で、アンケートの目標値をクリアすることで、本誌での連載終了はなんとか免れましたが、「こんな感じでやりましょう! 絶対ウケます!!」と意気込んでも、やってみなければわからない部分が当然あります。いろいろ考え出すと胃を悪くしそうなので、冷静と情熱のはざまで生きることが重要だと思いました。
−−今後の展開、読者へ一言お願いします。
「クレムリン」はシュールだけれど、個性的で愛らしいキャラクターの宝庫です。キャラクターグッズ展開など、どれだけやってもやりすぎということはないほど魅力的な素材がそろっているので、アニメ化実写化ゲーム化などを実現させ、国民的アイドルを生み出したいと真顔で願っています。
東京都写真美術館の広報誌別冊「ニァイズ」は「クレムリン」出張版なのですが、そのご縁により、単行本最新刊4発売記念イベント「関羽がやってくる ニャア! ニャア! ニャア!」が、24日まで同館で開催中です。モーニング・ツー最新号の表紙を飾った関羽のぬいぐるみも展示され、老若男女問わず大好評。将来的にはぬいぐるみの中にA.I.を実装し、「絶妙なツッコミしてくれる関羽ロボ」のロボットコンテストなどを開催したいと真顔で考えています。
モーニング本誌では「課長補佐 却津山春雄」編と銘打ち、学生ニートのはずの主人公がサラリーマンとなって、寒々しいまでの経済不況や実社会の厳しさと懸命に向き合っています。激動の時代を迎えている現代日本のあたかも写し絵のごとく、よりダイナミックな飛躍を遂げるはずです(予定)。「『クレムリン』を読むと癒やされる、明日を生きる勇気を与えてくれる」……、自称・社会派プロレタリアート猫ちゃんマンガとしては、読者の方々に幸福感を味わっていただけるよう、より一層がんばる所存です。
「私の半生は負けばかりです(苦笑)」と自ら語るカレー沢さんですが、「負けなければ人にあらず、人間いかに負けるべきか?」を論じたコラム「負ける技術」がモーニング公式サイト&モーニング・ツーにてスタートしました。こちらも抱腹絶倒昏倒(こんとう)必至の爆笑コンテンツですので、「クレムリン」と併せてよろしくお願い致します。
講談社モーニング編集部/藤沢学・関根永渚至
カレー沢薫「クレムリン」、週刊モーニング&月刊モーニング・ツーでW連載中 コミックス1~4巻発売中/カレー沢薫初のコラム連載「負ける技術」、モーニング公式サイトモーニング・ツーでW連載中
▽ツイッター:カレー沢薫 (http://twitter.com/rosia29)▽ツイッター:クレムリン(http://twitter.com/kuremurin)▽フェイスブック(http://www.facebook.com/kuremurin)
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