「武士の家計簿」と「わたし出すわ」の前2作でお金について扱った森田芳光監督が今回スポットを当てたのは“鉄道”だった。松山ケンイチさんと瑛太さんの2人が鉄道オタクにふんし、鉄道の魅力をほのぼのと伝えながら、それぞれの生活の悲喜こもごもを、森田監督ならではのユーモアでつづった映画「僕達急行 A列車で行こう」が公開中だ。森田監督が十数年前から温め続けたオリジナル企画だという。
ウナギノボリ
10年前の朝ドラ「花子とアン」 当時の吉高由里子インタビュー
大手企業に勤める小町圭(松山さん)と小さな町工場の2代目の小玉健太(瑛太さん)は、ふとしたきっかけで出会い、意気投合。ところが、ほどなくして小町が九州支社に転勤し、ちょうど落ち込んでいた小玉は、九州に気晴らし旅行に出かける。そして、九州で再会した2人に、新たな出会いが待っていた……という展開。
せりふとせりふの間の取り方、ギャグまでいかないお行儀のよい笑いなど、森田監督ならではの作風が存分に味わえる。当然ながらこれは、鉄道オタクについての映画であり、彼らの特性が見られるのが面白く、小町と小玉が鉄道について語るうんちくには、なるほどとうなずいたり、そのオタクぶりに苦笑したり。半面、資金難に陥った町工場の悲哀や労働移民の問題などを提示し、さらに中小企業の底力や地場産業の活性化など、いまの日本に必要なことや考え方を盛り込んでいる。といっても肩ひじ張って見る必要はない。そこは森田監督。シリアスとユーモアのさじ加減は絶妙だ。
このほかに、貫地谷しほりさん、ピエール瀧さん、松坂慶子さん、笹野高史さん、西岡徳馬さん、伊武雅刀さんらが出演。また、伊東ゆかりさんや星野知子さんといった懐かしい顔にも会うことができる。劇中に登場する電車の数は合計20路線80モデルに及び、登場人物の名前は列車名からとられている。そんな細部まで行き届いた森田監督による今作は、鉄道ファンのみならず映画ファンの心もつかむはずだ。昨年暮れの森田監督の急逝が、つくづく悔やまれる。丸の内TOEI(東京都中央区)ほか全国で公開中。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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