クレオパトラな女たち:美容整形、同性愛……タブーに切り込み「リアルさ」追求

「クレオパトラな女たち」第3話の一場面=日本テレビ提供
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「クレオパトラな女たち」第3話の一場面=日本テレビ提供

 美容外科クリニックを舞台にしたドラマ「クレオパトラな女たち」(日本テレビ系)が話題を集めている。美容整形に否定的な主人公が「美」を求める女性たちの姿を目の当たりにしながら、美について悩み、考え、成長していくという物語だ。「美容整形」という今まであまり触れられてこなかった領域を真正面から扱った話題作について山本由緒プロデューサーに話を聞いた。(堀池沙知子/毎日新聞デジタル)

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 ドラマは、スタッフのほとんどが顔を“直して”いるという美女ばかりの美容外科クリニックを舞台に、無口で武骨な若手医師・岸峯太郎(佐藤隆太さん)が「美」を通じて女性の本音に迫っていくヒューマンドラマ。脚本は、「セカンドバージン」「蜜の味」など、不倫や泥沼の三角関係といった“タブー”を描くことで人間の本質を暴き出していく脚本で定評がある大石静さんが手がける。

 美容整形という「関心はあるけれど、手術をしたとしたらなかなか公言することは難しい」ある種“タブー”の世界を描こうと思ったきっかけは、山本プロデューサーと大石さんが「恋愛と美容の話」で盛り上がったことだったという。山本Pは「私も大石さんも自分の顔に不満があって(笑い)。(美容整形手術を)やるかやらないかは置いておいて、女性って美容整形に興味を持っているものだと思う。それについて単純に知りたかった。好奇心ですね」と話す。そして「女性は『可愛くなければならない』という価値観を(世間から)押しつけられていますよね」と付け加えた。

 「美容整形」というと、「美容整形は善か悪か」といった是非論になりがちだが、山本プロデューサーは「整形がどうのとわめき立てるような方向にはしたくなかった」と力を込める。「何よりリアルさを大事にしたかった。医者も1人の人間だし、患者も1人の人間。そんな人間同士が美容についてどう考えるかということ」がテーマと強調する。

 当然登場人物についても「リアルさ」にこだわった。佐藤さん演じる峯太郎は腕のいい形成外科医という設定だが、形成外科医として一人前になるとされる30代前半で、「医者として説得力がある」人物像を追求していったところ佐藤さんが浮かび上がったという。山本プロデューサーは「佐藤さんが元々持っているまっすぐさを(熱血系のキャラクターで)ストレートに出すのではなく、いい形で生かしたかった。思い悩む姿という今までとは違うギャップを見せることで、大人の男性にしたかった」と話す。脚本を手がける大石さんも「主人公は子供ではない。大人が主人公のドラマ。自分が満足いかない環境に置かれたとしてもそこで生きていかなくてはならない。その状況を受け入れて乗り越えていく姿を描きたかった」といい、リアルな「大人の男性」を演じるのにふさわしかったのが佐藤さんだった。

 そんな佐藤さん演じる峯太郎は、父親の借金返済のため物語の舞台である「ビューティー・サージャリー・クリニック」に務めることになる。峯太郎は、患者に対して「顔にメスを入れるなんて最低だ」という思いを持ち、それで金を稼ぐ美容外科医に対しても軽蔑の念を持っていた。しかし「美しくなりたい」という欲望に翻弄(ほんろう)される女性たちを目の当たりにして「美」への考えが変わっていく。主人公は峯太郎という男性であるものの、「全世代の女性たちに向けての応援歌」というコンセプトの“日本テレビ水曜10時枠”にふさわしく、描かれるのは峯太郎の目を通して浮かび上がる「強くたくましく生きる」女性たちの姿であり、女性たちに元気になってもらいたいというメッセージが込められている。

 “思い悩む”峯太郎に対して、クリニックの女性陣はみな“芯を持った”個性的な女性ばかりだ。クリニックのナンバー2で、すご腕の美容外科医・市井睦を稲森いずみさん、一番若く元気で明るいナース・岸谷葵を北乃きいさん、クリニックの院長・湯川マリを余貴美子さんが演じるほか、毎回クリニックには「美」を求めて多種多様な女性たちが訪れる。山本プロデューサーはドラマに登場する女性たちは「各世代の代表ということを意識している」といい、回を重ねるごとに、そんな“裏の主人公”である女性たちの本質が明らかになっていく。山本プロデューサーは「タブーにつっこむことで人間の本質が見えてくるのがこのドラマの面白いところ。欲望そのものに振りまわされている人たちを描くことで人間の本質が見えてくる。良い、悪いではなく、生き方の多様性を訴えたかった」と力を込めた。

 「生き方の多様性」という意味で、もう一つの見どころが綾野剛さん演じる裕と峯太郎の関係だ。女性ばかりに囲まれている峯太郎にとって「息抜きの場所」であるという親友の黒崎裕は、金に困った峯太郎を自宅に住まわせる心優しい男性だが、実はずっと峯太郎のことが好きだったという同性愛者だ。峯太郎と裕を“普通の”男同士の友情という設定にしなかったのは、「友達だけれど、実は……ってことっていうのはあると思うし、それが人間だなと思う。一応友達だけれど、裏で何を考えているか分からないことも大人の人間関係でもよくあること」と山本プロデューサーは説明する。そして「私の周りでもゲイのカップルは増えているという実感がある。特別なことじゃない」と話した。ここにも「リアルさ」を追求するドラマの神髄が現れている。

 山本プロデューサーは「裕と峯太郎の関係は理想のカップル」と話す。「お互い尊重し合って、コミュニケーションをきちんと取っている。下手に男女のカップルの話をするよりも、今を大切に生きているカップルの有り様を描きたかった。裕は“今”をとても大切にしている人。対して主人公の峯太郎だけが今よりも、過去のトラウマを引きずったり、(借金を返す)3年間は魂を捨てて、“今”を生きないで借金を返し終わった後の未来にかけている。そこの対比も見どころ」と語る。

 「今回のドラマで、大げさな話を書かなくても生きることのすてきさって書けるんだと再確認した」という山本プロデューサー。「いろんな人のいろんな生き方がおかしかったり切なかったりするんだけれど、それが見ている人にとって希望になれば。ドラマに出てくる女性はたくましい人ばかり。だから女性は元気になるんじゃないかな。男性にもぜひ女心を理解するために見てほしいドラマですね」と呼びかけた。

 ドラマ「クレオパトラな女たち」は毎週水曜午後10時放送。

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