鍵泥棒のメソッド:堺・香川・広末に聞く 「初顔合わせではないのに化学反応が起こった」

出演した「鍵泥棒のメソッド」について語った(左から)香川照之さん、堺雅人さん、広末涼子さん
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出演した「鍵泥棒のメソッド」について語った(左から)香川照之さん、堺雅人さん、広末涼子さん

 堺雅人さん、香川照之さん、広末涼子さん共演の映画「鍵泥棒のメソッド」が15日に公開される。「運命じゃない人」(04年)や「アフタースクール」(08年)の内田けんじ監督の最新作。銭湯で転んで頭を強打し記憶を失ったコンドウ(香川さん)。そこに居合わせた売れない貧乏役者・桜井武史(堺さん)は、コンドウが伝説の殺し屋とは知らず、ロッカーの鍵を自分のものとすり替えてコンドウになりすました。一方、婚活中の女性編集長・水嶋香苗(広末さん)は、自分を桜井だと思い込んでいるコンドウと偶然知り合い、彼に好意を持つようになる。そのころ桜井は、コンドウのところに来た危ない仕事を引き受けてしまう……というストーリーが展開する。内田監督の現場や共演者とのエピソードなどを堺さん、香川さん、広末さんの3人に聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 −−内田監督と仕事をした感想を教えてください。

 堺さん ちょっとおかしな言い方ですが、内田監督の現場って本当に楽なんです。監督の頭の中に完成された間とお芝居がある。本当に的確に指示をしてくださるし、その指示に精いっぱい応えていけば内面もそこに近づいていける。本当に楽だな~と毎シーンつぶやきながら演じてましたし、そういえば3年前もそうだったな~というのをだんだん思い出しました。ただ前作の「アフタースクール」は作品の性質上、すごくたくさんルールがありましたけど、今回はそのルールが少し減って、香川さん、広末さんをはじめとする共演者の方々との芝居のハーモニーとか、その場でしか起きないブレが生かされている、そういう性質の作品じゃないかと思います。

 香川さん 脚本を読みこめてなかった。もっと細かくひだを読み取らなくてはいけないのに、気分で押し切って、読めているつもりでも読めてなかったと思い知りました。内田監督から形を与えてもらうことで、自分では感情で、右脳で演技しているつもりだったのに、実は形でやっていることに気づかされた。形を与えられているのに、それによって感情を作ってもらえる。形によって、形から脱せられるというんですかね。不思議な二重構造、三重構造というのが毎日起こっていました。僕みたいに右脳と左脳が離れて旅をしているタイプの俳優にとっては非常に面白い、初めての体験でした。あの脚本でこの演出、内田さんにしかできないだろうなと思いました。若いころのキャリアに戻ったような新鮮さがありましたし、久しぶりに離れがたい作品になりました。

 広末さん ドキドキしました(笑い)。香川さんもおっしゃっていましたが、最近は年齢もキャリアも重ねてきたからか、「お任せします」と渡されて、役者陣で練ってこねて熱くして、お芝居を作っていくような現場が多かったんです。今回は自分の意思や思いに勝る、熱い監督の完全なお芝居の構成があったので、そこにどう近づくかという芝居作りがすごく新鮮でした。毎回OKをもらえるかドキドキしながら本番を重ねて。OK!って言われたときにすごくうれしくてほっとする。こういう緊張感って大切だなと改めて感じました。

 −−共演した方々の印象は?

 堺さん 広末さんは、今までご一緒した作品で見てきた、どれでもないお顔をされていました。ぜひ映画館でちゃんと見てみたいです。香川さんについては……僕は香川さんが何をしてもびっくりしないので(笑い)、あれだけのポテンシャルと引き出しを持っていらっしゃる方だから。ご一緒できたってだけで非常にうれしかったですね。香川さん、僕、広末さんという3人の和音は、相当バラバラだと思うんです。こんなに違うのにそれでも響き合うというのが逆に面白いなと。似通った音の和音じゃなくて、ちょっと複雑な和音、時には不協和音で。不協和音が面白いというのは内田監督もおっしゃってましたね。3人が均一になるのではなく、しらけた人が1人いたり。その空気がなんだか心地よかったですね。

 香川さん 堺さんとは共演する機会がとても多くて、脚本を読んだら「堺さん、こんな感じだろうな」と、堺さんは「香川さん、こういう感じだろうな」とある程度予想はできるんです。もちろん作品によって役が違うわけだから、常に演技のニュアンスは変わるんですけど、お互いその違いを微妙に感じながら演技するタイプなので。でも今回、その予想以上の不思議な違いがありました。予想通りでも演じた体感が違うというか。理由は分からないけれど。化学反応が起こるような、初顔合わせではないのに、起きていたんですね。それは広末さんにしても同じことで。何度も共演して演技を見てきているのに、やっぱり違う、新しい広末さんが目の前にいる。最初の3日間くらいはずっと感じていたんですが、途中から皆が思っている、僕が知っている広末さんを全部忘れて、香苗にしか見えなくなっていました。この不思議な化学反応は、内田監督のマジックなのかもしれませんね。

 広末さん 堺さんは、面白かったですね(笑い)。役者の役は初めてとおっしゃっていましたけど、お芝居がへたな役者のお芝居なのか、堺さんのお芝居がへたなのか分からなくなるくらいおかしくって(笑い)、それはつまりうまいってことなんですけど。それくらいこれまで見たことない、堺さんのお芝居でした。香川さんは、記憶を失っているとき、つまり桜井であるコンドウのおぼつかなさと、記憶を取り戻したコンドウの怖さが本当に対称的で、見せつけられました。さすがだなって。

 −−作品の見どころをお願いします。

 堺さん 最後まで目が離せないハラハラドキドキの展開になっています。それでいて見終わった後には、恋をしたくなるようなラブストーリーにもなっており、いろんなエンターテインメント要素が詰まった作品です。

 香川さん 内田監督作品というと、ストーリーが入り組んでいて、その入り組んでいるのがほぐれていくところに快感があるというのが今までの持ち味だと思いますが、今回のストーリーは一本の道をただ走ります。ただその中に登場する人物が複雑な人生を背負っていて、その関係性が非常に入り組んでいるという、これまでとはアングルを変えた作品になっています。いずれにしても大変上質な喜劇に仕上がっている作品です。

 広末さん 本当に楽しい大人のシュールなラブコメディーだと思います。お芝居をこんなに楽しませていただいた映画は初めてかもしれません。私自身、演じるのを忘れて、お客さんとしてその場で見たくなってしまうくらい堺さんや香川さん、他のキャストの皆さんのすてきなお芝居がたくさん見られる映画です。

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