クリント・イーストウッドさんが主演する映画「人生の特等席」が23日から全国で公開された。今作は、前作「グラン・トリノ」(08年)の主演をもって“俳優引退宣言”をしたイーストウッドさんが「今回は面白い役が回ってきたからやってみた」と、4年ぶりに銀幕復帰した作品。メガホンをとったのは、これが監督デビュー作となるロバート・ロレンツさん。東京国際映画祭での上映に合わせて来日したロレンツ監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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映画は、ガタがきた肉体にむち打って、キャリア最後のスカウトの旅に出た大リーグの名スカウトマン、ガス・ロベルと、その娘ミッキーの物語。といっても、野球ものとしての側面も持ちながら、一方で、老いについて、キャリアについて、愛についても描き、誰の心にも届くヒューマンドラマになっている。ガスを演じたのがイーストウッドさんだ。娘ミッキー役で「魔法にかけられて」(07年)のエイミー・アダムスさん、ほかに「ステイ・フレンズ」(11年)のジャスティン・ティンバーレイクさんが出演している。
イーストウッドさんとは、95年の監督・主演作「マディソン群の橋」で、ロレンツ監督が助監督を務めて以来の付き合いだ。以降、「トゥルー・クライム」(99年)や、アカデミー賞受賞作「ミリオンダラー・ベイビー」(04年)、最近の作品では「ヒア アフター」(10年)や「J.エドガー」(11年)に至るまでプロデューサーとして仕事をし、イーストウッド監督の傍らで、その演出を見てきた。
今回の自身の演出について「基本的には、クリントのやりたいように演じてもらいました。その邪魔をしないようにしていたので、厳密にはディレクト(演出)したとはいえません」と謙遜(けんそん)する。むしろロレンツ監督が力を注いだのは編集作業だという。「クリントはとても謙虚な人で、自分の監督作に出演するときは、自分の演技を目立たせるようなことはしません。ですから僕としては、彼を輝かせられるような編集を心掛けました」と話す。
イーストウッドさんからは、さまざまなアドバイスをもらったそうだ。その中には「自分のスタイルを変更しなければならないようなものもあった」と漏らす。そんなときは、「自分なりの声、スタイルを意識しつつ、さすがだというアドバイスは取り入れていった」という。
例えば編集について、「どちらかというとペースがゆっくりめで伝統を踏襲したスタイル」のイーストウッドさんの作品に対して、ロレンツ監督は「シーンとシーンの合間に細かい映像をはさみ」、それによって観客が想像をふくらませる方を好む。そうした仕事ぶりを見ていたイーストウッドさんから、「その映像は外したほうがいいんじゃないかといわれたこともあった」と笑顔で振り返る。
また、キャスティングでも同様のことがあった。「ここで名前を出すことはできませんが」と断った上で、「この役にはこの役者がいいと、たぶんクリントが思っていたケースもあったはず」と打ち明ける。しかし、イーストウッドさんの監督作でもそうであるように、キャスティングの決定権は「最終的には監督が持っている」。そのため、「これは僕の作品だし、自分の作風を大事にしたかった。もちろん、クリントのことは大好きだし尊敬しているけれど、今回は自分が思っている俳優を起用した」ことを明かした。
ところで、この映画のガスとミッキーに、師匠と弟子の関係を見いだし、そこに、イーストウッドさんとロレンツ監督を重ねる人がいるかもしれない。そう指摘すると「それはよく聞かれることですが、僕自身は全く意識していませんでした」と軽く否定した。だが、その直後、「ただ、唯一いえるのは……」と口にしたのは、次のような言葉だった。
「クリントは、経験からくる聡明さを持っています。まさにこの映画のガスも、新しいテクノロジーの波に追いやられ、球団からは退任させられそうになっていますが、経験があるからこそ、価値がある存在なのです。これは、古いやり方と新しいやり方のバランスをどう取っていくかという物語でもある。その意味では、クリントの昔ながらのやり方と僕のやり方のバランスを取る必要がありました。だからその点では、クリントと僕の関係は重なるのかもしれませんね」。映画は23日から全国で公開。
<プロフィル>
1966年生まれ、米シカゴ出身。89年、映画業界に入り、95年、クリント・イースドウッド監督作「マディソン郡の橋」で助監督を務め、以来、多くのイーストウッド監督の作品にかかわる。「ミスティック・リバー」(03年)、「ミリオンダラー・ベイビー」(04年)、「グラン・トリノ」(08年)、最近では「J.エドガー」などでプロデューサーを務めた。今作で念願の映画監督デビューを果たした。
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