山田孝之:「ミロクローゼ」主演 1人3役を演じ「自分では全く思いつかない役に挑戦できた」

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 俳優の山田孝之さんが1人3役を演じた映画「ミロクローゼ」(石橋義正監督)が24日から東京・渋谷のシネクイントほかで公開された。山田さんが演じるのは、愛に突き動かされる3人の男たち。恋愛指南に応じるテンションの高い青春相談員・熊谷ベッソン、恋人ユリの行方をどこまでも捜す浪人・多聞(タモン)、“偉大なミロクローゼ”に失恋して心に穴が開いた少年のような容姿の「オブレネリ ブレネリギャー」だ。個性的な衣装に身を包んで、キレのいいダンスから流麗な殺陣までこなし、恋愛に奮闘する3人の男性を体当たりで演じている。そんな山田さんに今作への思いを聞いた。(上村恭子/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−1人3役。役柄にどうアプローチしていきましたか?

 まず、多聞はシンプルです。自分の好きな女性を強制的に奪われて執着してしまい、怒りや悲しみがあります。オブレネリは特殊でした。まず見た目が(オレンジ色の髪でマッシュルームカットで)変わっている。絵本から出て来たような人物を目指しました。ベッソンは見ている人に不快感を与えるように、口調、姿勢も考えて演じていきました。

 −−中でも一番演じるのに苦労した人物は?

 一番戸惑ったのはベッソンです。石橋監督に「カッコよく」といわれて、この人の言葉や行動をどうカッコよく見せたらいいのだろうと悩んでいたら、監督がこうしゃべってといって「ウー!」ってつぶれた声を出して見本を見せてくれた。「あ、あの人の声」だと思い、それをより強調して某政治家の声をまねています。 3人を1人の人間が演じるので、それぞれ別の人間に見えるよう違いを意識しながら見せるように心がけました。

 −−多聞は女性を捜しながら、先にお墓まで建ててしまいます。3人の男性は個性が違いますが、1人の女性を追い求める男の情念という共通した部分があって、1人の男性のいろんな面を描いているという見方もできます。

 “情念”、共通のものがあるとしたらそこですよね。海外での上映のとき、「ザ・ラブストーリー」と紹介されました。これは愛の話ですよ。男の恋愛観の映画だと思います。

 −−その恋愛観に共感できましたか。

 共感できます。なんかやっぱり、男は別れた後もダラダラ引きずって考えてしまう。恋愛が終わったら女は曲がり角を歩いていくから、後ろを振り返っても過去の彼氏はいないけど、男はまっすぐ歩いていって後ろを振り返っちゃうのだと聞いたことがあります……。よく分かります。

 −−ベッソンでのシーンでは、狭い通路やスーパーの店内で華麗なダンスを繰り広げています。ダンスは初挑戦でしたが、いかがでしたか?

 初挑戦、そうですね。ダンスは相当練習しました。監督がダンスのうまい人なので、求めてくるものが高かった。しなやかさや滑らかさを求めてきました。ゼロから練習して、10センチものブーツを履いて踊ることになって、またゼロに戻り……ずーっと苦労しましたね。でも、練習はなんだってつらい。それも、現場を楽しむため。先に苦労してつらい思いをしているだけです。ブーツが高くてうまくできない部分もありましたが、僕なりにキレを出すことを意識して、できるだけ素早く動きました。

 −−多聞の殺陣シーンでは、山田さんの運動神経のよさが発揮されて、美しい大立ち回りを見せていただきました。赤と黒を強調する映像もスタイリッシュで見どころの一つですね。

 あのシーンはハイスピードカメラで撮影していて、普通よりももっと速く動かなければなりませんでした。とにかく出ている人も多いし、動きも多い。大変だった。でも、出来上がりを見て「すごい!」と思いました。監督は頭の中でこんなことをイメージしていたんだと驚いて……。これまで僕自身も見たことのない映像になったと思いました。

 −−ユーモラスな場面も多く、入れ墨師役の鈴木清順さんの頭をペシッとたたくシーンもありました。思いっきりたたいているように見えましたが……。

 あくまでも芝居なので、アクションと同じように、本気でたたいていないのに、そう見えるようにしなくてはならない。でも、タモンのときは片目にコンタクトを入れての芝居だったので、遠近がつかめなくて……。本気のふりが本気でたたいてしまいました。清順さんはリアクションに困っていたかもしれません。

 −−現在、たくさんの出演作が公開されて、どの役も印象深いです。そんなに多くの役をこなせる情熱はどこからくるのですか。

 情熱……。自分では情熱があるかどうかは分かりません。でも、今いろいろな役に挑戦させてもらって、どんどん面白い役を振ってもらえているので、次はどんな役が来るか、待っていて楽しみです。

 −−どの役も山田さんでなくては演じられないものばかりです。

 昔、プロデューサーの方にいわれてうれしかった言葉を思い出しました。「なぜ僕にこの役を?」と聞いたら、「普通、この人がこの役を演じたらこうなるというイメージがあるけど、この役を山田孝之にやらせたらどんなふうになるんだろう?と思った」とおっしゃってくれたんです。今、話しながら、思い出してもうれしくなってくる言葉です。

 −−これから挑戦したい役柄を教えてください。

 自分で想像できるストーリーや役柄は限られているけど、監督やプロデューサーの方々が考えるものは、僕の想像をはるかに超えていますよ。この映画も「実は3役あるんです」なんてなかなか思いつかない。だからお話をいただいたとき、「うわー、うれしい!」と思いました。自分では全く思いつかない役に挑戦できました。

 −−映画のどんなところを見てほしいですか。

 いろいろ意味を考えないで見てほしいと思います。もちろん、せりふや行動に意味もあるし、恋愛の話なので自分に置き換えられる部分もあるんだけど、1本の映画でこれだけの出来事が起こって……という作品はあまりない。監督の頭の中を1度でパッと理解できる人はなかなかいないと思うので、目の前で起きていることをただただ楽しんでほしい。2回、3回と見ると、いろいろな発見があると思います。

 <プロフィル>

 1983年10月20日生まれ。これまでに映画は「電車男」(05年)、「手紙」(06年)、「クローズ ZERO」(07年)、「鴨川ホルモー」(09年)、「十三人の刺客」(10年)、「荒川アンダーザブリッジ THE MOVIE」(12年)、「闇金ウシジマくん」(12年)、「のぼうの城」(12年)、「その夜の侍」(12年)などに出演。初めてハマったポップカルチャーは「もう、たくさんあり過ぎて……。そうですね、僕の原点は、やっぱり小学生のときにハマッた『ドラゴンボール』です。大人になっても大好き。今でもベジータになりたいです」と語った。

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