中田秀夫:Jホラー監督が震災ドキュメンタリー 映画「3.11後を生きる」を語る

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 ホラー映画「女優霊」(96年)や「リング」(98年)で知られる中田秀夫監督による自主ドキュメンタリー映画「3.11後を生きる」が23日からオーディトリウム渋谷(東京都渋谷区)で上映される。東日本大震災から半年後、中田監督が岩手県や宮城県に赴いて被災した人々の「今」を取材したドキュメンタリーで、家族や大切な人が亡くなった悲しみや苦しみが癒えないまま一日一日を生きる人々にスポットを当てる。ジャパニーズホラーの先駆者としてヒット作を次々と世に送り出してきた一方で“ドキュメンタリスト”としての顔も併せ持つ中田監督に話を聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 中田監督は92年にテレビドラマ「本当にあった怖い話」で監督デビュー。現在ではジャパニーズホラーを代表する監督の一人として知られており、5月には前田敦子さんと成宮寛貴さんのダブル主演のホラー映画「クロユリ団地」の公開も控えている。ホラー映画監督としての側面が強調されることの多い中田監督だが、実はドキュメンタリー「ジョセフ・ロージー 四つの名を持つ男」(98年)や「サディスティック&マゾヒスティック」(00年)、「ハリウッド監督学入門」(09年)などドキュメンタリー監督としても活躍している。

 −−中田監督といえば「リング」などのホラー映画が真っ先に思い浮かぶのですが……。

 ホラー映画も一生懸命撮ってはいるけれど、ホラーマニアなわけではないんです。映画が好きなだけ。ホラー作品でデビューしたということもあってか、なぜかホラー映画を撮る巡り合わせがありまして。一時はホラー映画監督という評価から逃げようとした時期もありましたが、もうじたばたするのはやめようと。ドキュメンタリーを撮るのもお金がかかるので、劇映画とカップリングしなければいけないという懐事情もありまして……(笑い)。

 −−同作を撮ろうと思った経緯を教えてください。

 震災から2カ月後くらいにテレビ局の方から「震災を経験した日本から何か世界に発信しようと思っている」という話を持ちかけられたことがきっかけですね。結局方針違いでその話は頓挫してしまったんですが、完全に自分の自主映画になったので自由に撮ることができました。

 −−震災による福島第1原発事故を契機に世の中は反原発・脱原発の機運が高まりましたが、原発をテーマにしなかった理由は?

 原発をテーマにすることには違和感がありました。私自身、学生時代に反原発運動に関わったこともあったけれど、物理学者の高木仁三郎さん(故人)のように生涯をかけて脱原発を唱えてきた人の声を、(作品で)訴えてきたわけではないですし。事故が起こったからといって「じゃあ脱原発」というふうにはいかなかった。今まで社会派ドキュメンタリーを撮ってこなかったのも精魂込めて情熱を注げる何かが見つからなかったんです。

 −−今回、震災後に亡くなった人への思いを背負いながら生きる人々を題材にしたのは監督にとって「精魂込めて情熱を注げるもの」だったのでしょうか?

 個人的な思いもあって仏教の本や、映画にも出演していただいた(恐山菩提寺院代の)南直哉さんの本をむさぼるように読んでいたので、人の生き死にが切実な問題として自分自身にあったんです。このドキュメンタリーでも、震災で大切な人を亡くした人がぽっかり開いた傷口をどう縫合していくのかというところを見たかった。

 −−同作には家族全員を亡くしてしまった男性、自分の娘や孫を失った女性など十数人が登場しています。インタビューに応じてくれる人はどうやって探していったのですか?

 震災でご家族や大切な人を亡くした方、それでも働き続けている方などにインタビューをしようと思ってまずは新聞で取材に応じた人の記事の切り抜きを頼りに連絡を取りました。記事に載っていた人にインタビューをしてそこから派生して別の人を紹介してもらったり……最初から露骨に「取材お断り」という人はいなかったですね。撮影は無理という人も一人いましたが。あとは自分が話すのはつらいけれど、助けはするよという方もいらっしゃって、温かみを感じました。

 −−撮影は11年7月から10月までの間の30日程度だったと伺っていますが、公開がこの時期になった理由は?

 11年の暮れに完成して12年の夏か秋頃の公開も考えていたんですが、より多くのお客さんに関心を持って見てもらうために3・11の時期がいいだろうということになりまして。ご遺族にとっては三回忌にあたる時期でもあるのでこの時期の公開にしました。

 「3.11後を生きる」は23日からオーディトリウム渋谷ほか全国で順次公開。オーディトリウム渋谷では、23日と3月2日の上映後にトークショーを予定しており、23日は中田監督と同作に出演した恐山菩提寺院代の南さん、評論家の宮崎哲弥さん、3月2日は中田監督と俳優の永瀬正敏さん、同作に出演した岩手県山田町のタラ漁師・五十嵐康裕さんの参加が予定されている。また、24日から3月1日まで「ドキュメンタリスト/中田秀夫」と題した中田監督のドキュメンタリー特集も上映する。

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