超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、ゲーム開発者向けの国際会議「ゲームディベロッパーズカンファレンス(GDC)」で注目を集めた機器について語ります。
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米サンフランシスコで3月35日(現地時間)から5日間開催されたGDC。任天堂、ソニー・コンピュータエンタテインメント、マイクロソフトといったゲーム機メーカーは技術情報を開示して、ゲーム開発者に向けたアピールを繰り返した。しかし、最も注目を集めたのは周辺機器の「Oculus Rift(オクルス・リフト)」だった。
オクルス・リフトは、米ベンチャー企業のオクルスVR社が開発するPC向けのヘッドマウントディスプレー(HMD)だ。プレーヤーの視界を覆う広い視野角を確保したことが特徴で、立体視による表示ができ、頭の動きに合わせてゲームの画像も変化する。HMDの多くは映画視聴など汎用(はんよう)性を備えるが、本製品はゲームの中でも一人称視点シューティング(FPS)のような、没入感の高いジャンルに特化して差別化を図っている。
12年夏にはインターネットで広く投資を募るクラウドファンディングサービスで240万ドル(約2億3000万円)を調達して業界を驚かせた。人気ゲーム「ハーフライフ」シリーズで人気のバルブ社など、FPSの大手も同社を支援した。オクルスVR社の創始者であるパーマー・ラッキーさんの講演には開発者が行列を作り、デモブースでは最大2時間程度の行列ができるなど、その注目ぶりを見せつけた。
オクルス・リフトのようなバーチャルリアリティー体験は、1990年代のマルチメディアブームでマスコミをにぎわしたが、一過性のブームに終わった。高価なわりに性能が乏しく、一部のアミューズメント施設向けにとどまったからだ。それが技術進化でようやく一般ユーザーの手に届く物になりつつある。同社は開発者向けキットの予約を300ドル(約2万8000円)で受け付けており、5月に出荷予定。来年には一般販売も予定している。
ポイントは新型ゲーム機をよそに、ベンチャー企業が開発した周辺器機が会場の注目を集めたことだ。このことは市場が超大作とカジュアルゲームに二極化し、中間層がやせ細っていること。これに対して、任天堂、ソニー・コンピュータエンタテインメント、マイクロソフトのゲーム機大手3社が魅力あるビジョンを打ち出せていないこと。そしてベンチャー企業でも企画力と開発力さえあれば、高価な生産設備を持たなくても、ハードウエア事業に進出できる時代になったことが背景にある。
かつてWiiはWiiリモコンの「振る」操作で、コントローラーがゲーム体験の主役であることをアピールした。同様にオクルス・リフトはディスプレーの進化によって次世代のゲーム体験を提供しようとしている。本製品がコアゲーマー向けのニッチ製品にとどまるか否か。結論を出すには早すぎるが、会場のゲーム開発者にとっては、現状の閉塞(へいそく)感を払拭(ふっしょく)する清涼剤に映ったようだ。
◇プロフィル
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に「ジョブチェンジ」。11年から国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表に就任、12年にNPO(特定非営利活動)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。
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