人生の特等席:エイミー・アダムスとジャスティン・ティンバーレイクに聞く「クリントはよく笑う」

(C)2012 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.
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 82歳のクリント・イーストウッドさんが俳優引退宣言を撤回し、4年ぶりに出演した作品として昨年話題を呼んだ「人生の特等席」のブルーレイディスク(BD)とDVDが10日にリリースされた。今作でイーストウッドさんが演じる伝説のスカウトマン、ガスは視力の衰えを感じ、窮地に立たされるが、それをサポートするために一緒にスカウティングの旅に出る一人娘のミッキーを演じたのが「魔法にかけられて」(07年)などに出演したエイミー・アダムスさんだ。映画は、父と疎遠だった娘の絆を中心に描かれるが、ジャスティン・ティンバーレイクさんが演じるかつてガスにスカウトされた元選手のスカウトマン、ジョニーとミッキーとの恋の行方も気になるところだ。アダムスさんとティンバーレイクさんに撮影エピソードなどを聞いた。(毎日新聞デジタル)

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−−この映画は野球を背景として人と人の関係、家族のあり方を模索した素晴らしい作品です。お二人ともそこに引かれて、この作品に参加したのですか?

 アダムス:もちろん。今まで見た映画では取り上げられることのなかったものが、たくさんあると思いました。父と娘の絆、彼らのギクシャクした関係、そしてこの(ミッキーとジョニーの)芽生えつつある友情やロマンスの関係。それはこの映画の中心ではないけれど、私にとってはすごく新鮮に感じられたの。

 ティンバーレイク:エイミーに全部言われちゃったけど、何より決め手となったのは、あのクリント・イーストウッドと共演するってことだった。

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 −−イーストウッドさんと一緒に仕事をしてみていかがでしたか?

 ティンバーレイク:まさにナイスガイだね。ほとんどの人は想像もつかないだろうけど、実際のクリントはけっこうおちゃめなんだ。本当に面白いんだよ。爆笑させられたテークが何度もあった。

 アダムス:よく笑うのよ。彼がゲラゲラ笑い出すと、こっちまで楽しかったわ。

 −−エイミーさんは父親から完全に見捨てられたと思い込む娘という役どころに、やりづらさを感じることはありませんでしたか。

 アダムス:もちろんありました。そういった感情に自分を委ね、これほど生々しい役に肉付けしていくのは、正直しんどい作業だった。自分の過去の恐ろしい出来事の中でもとりわけ怖くて、いまだに克服できないものだもの。そのせいで30歳過ぎのいい大人になったって、相変わらず子供みたいに感じる。自分で自分がどうにもならないのは、すごくもどかしい。だからそういう役を演じて、心の中で12歳のまま悲しみに閉ざされた自分を見つけ出す必要があると思いました。決して楽しくはないけれど、終われば心が洗われたような気がします。

 −−父親と娘同士でありながら、2人には会話らしい会話がまるでなく、話は常に中断されます。

 アダムス:そうなのよ。2人とも自分たちの気持ちから逃げているの。その点はどっちもどっち。この役柄を見ていると、まるで父親が話を切り上げるから娘の方でも中断する、彼が話題を避けると彼女も話題を避けるという繰り返し。2人とも真実から逃げている。お互いに話し合うべき一つの話題を避けようとしている。私にとってミッキーが他人に思えないのは、自分でしておきながら、つい他人にその責任をなすりつけちゃうところね。そのくせ私も同じことをして、それで誰かが責めたら、「だから何? 私のことは関係ないでしょ」って言い返しちゃう。でも前よりは大人になったから、話せてちょうどよかった。

 −−そしてまたこの映画が素晴らしいのは、誰もが共感できる点です。お二人はセラピーを受けたことはおありですか。それとも演技自体がセラピーの役割を果たしているのでしょうか?

 ティンバーレイク:あるよ。僕にとっては全部がセラピーさ。

 アダムス:ええ、私の場合はヨガ。瞑想するのよ。

 ティンバーレイク:ゴルフ、作曲、枕をなぐること。

 アダムス:枕ならいいわね。早く気づけばよかった。以前は壁にパンチしていたわ。

 −−ガスは自分を待ち受ける運命を受け入れようとしません。誰の助けも借りようとしませんが、それは自分が強い人間だと思っているからでしょうか。それとも逆に不安のせいでしょうか?

 ティンバーレイク:うーん、そう思っているかもね、でも結局は、不安とか自尊心の問題に行き着くんじゃないかな。主人公が常にハッピーな映画なんて見に行かないでしょう。パーフェクトな人間なんか誰も見たくない。映画館に行くのは現実を忘れられるからだと思いがちだけど、実際には映画の最初の1コマ目から僕たちが求めるのは、共感できる対象なんだよ。この映画がいいのはそこさ。見る者を知性とユーモアとハートを持った存在として扱ってくれる。

 −−ジョニーは未来を表しているのでしょうか。つまり過去を振り捨て、前へ進むことを?

 ティンバーレイク:ガスとジョニーの間のことが、過去・現在・未来みたいな、世代間の対立かどうかは僕には分からない。ただこの映画の登場人物の中で、ジョニーだけが自分を取り巻く状況に対して、率直に向き合える人間だと思えるんだ。

 アダムス:そう、そしてその率直さこそ、自分を隠している私たち2人に対する挑戦なのよ。

 ティンバーレイク:その通り。つまり彼はミッキーに対してもガスに対しても、彼らが抱える問題のことで相手を挑発しているんだ。そうすることで、2人を結ぶ糸になろうとするのさ。みずから一歩踏み出さなきゃならないのは分かっているけど踏み出せない彼らを、そっとひじでつついてやって、正しい方向へと導くんだよ。

 −−お二人の役柄上の関係はどのように築いたのですか? 当初は親しくなかった者同士が、やがて実に美しいラブストーリーをつむいでいきますが。

 ティンバーレイク:うん、確かに美しいラブストーリーだね。僕たち2人はこう考えたんだ。ミッキーとジョニーの関係は、まず友人関係を築くことから始まるんだけど、そこには静かに燃える何かがある。ジョニーが粘り強く接していくことで、2人の間に信頼関係が生まれていって、そのうちに……

 アダムス:悩みを聞いてあげたり。

 ティンバーレイク:そうそう。ジョニーのいいところは、明らかに居心地の悪い状況を笑い飛ばして、それをジョークにしてしまうところさ。父と娘の2人が立っているところへ僕が歩み寄るシーン、あれは本当におかしかった。大ゲンカをしたばかりで試合を観戦中の2人に、僕が近づいていって「やあ」って声をかける。それから、「おっと失礼」って感じで。人生にはそんな気まずい瞬間があるものさ。この映画がそういうものからできていてうれしいよ。だってそれは、リアルな瞬間だからね。

 −−ジャスティンさん、今後のキャリアやプロとしての活動について、どのような展望をお持ちですか。

 ティンバーレイク:それについては、すごくいい感触があるんだ。今は自分にとって刺激的な企画を絞り込んでみようと思っているところさ。もしこれを続けられれば、結果に関係なくうれしいだろうね。仕事にのめり込むばのめり込むほど、それまでの道のりや過程の部分は本当にずっと忘れられなくなる。映画はやってみると、こんなはずじゃなかったって思うこともある。この映画はダメだっていいながら、出演しようとするヤツなんかいない。常にベストを望みながら、最悪も覚悟して、その中間くらいで終わってくれれば上出来なんだ。

 アダムス:これだけは言わせてもらうけど、ジャスティンは素晴らしかった。彼には見事なプロ意識があります。本当に尊敬しているわ。

 *「人生の特等席」の初回限定生産BD&DVDセット(2枚組み)は3980円で10日に発売。レンタルとオンデマンド配信も同日開始した(発売・販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ)。

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