名探偵コナン:劇場版「絶海の探偵」脚本・櫻井武晴さんに聞く「青山先生が“もう一山作ろう”と」

「名探偵コナン 絶海の探偵」の一場面 (C)2013 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
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「名探偵コナン 絶海の探偵」の一場面 (C)2013 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 人気テレビアニメ劇場版第17弾「名探偵コナン 絶海の探偵(プライベート・アイ)」(静野孔文監督)が20日に公開された。青山剛昌さんが「週刊少年サンデー」(小学館)で連載中のマンガが原作で、今回は海上自衛隊のイージス艦に乗り込んだコナンたちが、艦内で発生した自衛隊員殺害事件を皮きりに潜入スパイと国家機密を巡る攻防を繰り広げる。海上自衛隊の全面協力で描かれた今作の脚本はテレビドラマ「相棒」や「ATARU」の脚本家・櫻井武晴さんが手掛けた。櫻井さんに今作に懸ける思いを聞いた。(毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−今作を引き受けることになった経緯は? オファーが来たときにどう思いましたか。

 ある日突然プロデューサーから連絡をもらいました。アニメーションは初めてだったので、引き受けることに「大きな不安」がありました。しかし、これまでさまざまな捜査物を書いてきて、実写では実現困難なネタが頭にたまっていたので、「チャンスかも」という思いが勝り、お引き受けしました。

 −−脚本を執筆するにあたって、今回アピールしたい最大のテーマ、一番大切にしたかったものはなんですか。

 「不安を恐れない勇気」です。不安から逃げ続けていると、それはクセになり、抱える不安の数は増えつづけるだけです。不安を解消するには、その不安に飛び込み、自分なりの答えを出すしかありません。この作品に「勇気」という名の少年を登場させました。彼が、少年が抱えるには大きすぎる不安に自ら飛び込み、闘おうと決意したとき、事件解決と人命救助の糸口になるようにしました。このテーマをにおわせたかったからです。

 −−原者の青山剛昌先生が今回、イージス艦を舞台にすると発案されたそうですが、イージス艦を舞台にするにあたって苦労したこと、逆に楽しかったことを教えてください。

 苦労が思い出せないほど、楽しさが上回った仕事でした。青山先生に初めてお会いしたときから、うれしい衝撃は始まっていました。オファーをいただいたときすでに、劇場版「名探偵コナン」で書きたいネタはいくつもありました。しかし、その中で絶対無理だろうと勝手にあきらめていたのがこの「イージス艦ネタ」です。とても“子供向き”にする自信がなかったからです。「それをやろう!」とおっしゃってくれたのが青山先生でした。初対面にして意外。そんな出会いです。楽しい仕事にならないはずがありません。

 −−青山先生とは今回の脚本を書くにあたってどんな話をされましたか。またどんなアドバイスやオファーがあったのでしょうか。

 「アドバイス」や「オファー」という上からの指示をする人ではなかった、それが青山先生と何度も打ち合わせした印象です。「不審船」「体の一部がない自衛隊員の遺体」「某国のスパイ」など、「名探偵コナン」ではかなり異質であろう要素を拒否されなかったことはうれしい驚きでした。

 一方、レギュラーキャラクターの描写についてはアドバイスをもらったどころではなく、「このキャラはこうじゃない!と遠慮なく言ってください!」くらいの要求をした気がします。執筆前に各キャラクターが表現されているエピソードをたくさん見せてもらい、自分なりに消化したつもりでした。それでも「これはちゃんと『名探偵コナン』になっているのか?」という不安はいつもありました。よって、レギュラーキャラについては青山先生をはじめ、スタッフの皆さんに、怒られこそしなかったけど、助けに助けてもらいました。その助けてもらった中に「コナンと蘭の恋愛線」も入っています。その延長線上で、青山先生から「事件解決後にもう一山作ろうか」の発案がありました。

 当初の僕の「イージス艦ネタ」は「事件解決」のサスペンスまでで、この「もう一山」のサスペンスは全くありませんでした。この先生の発案によってサスペンスがダブルになりました。同時に、イージス艦のような題材を子供たちに楽しませるには何が必要かも学んだ気がします。

 −−これまで「相棒」や「科捜研の女」など大人向けの作品を多く手掛けてらっしゃいますが、今回子供向けの作品を担当するに当たって気をつけたことは?

 ありません。同じです。「『名探偵コナン』を書く際、子供向けにしようと思わないでください」とプロデューサー陣にも言われました。「分かりやすくする」と「簡単にする」は違う、「子供向け」と「子供だまし」は違う。「子供向けの作品」から学ぶことは多かったです。そして、「子供向けの作品」には、まじめに“ドラマ”を作ろうとする大人がたくさんいました。

 −−櫻井さんが考える「名探偵コナン」の魅力とは?

 「キャラクター」と「事件」。この二つの要素が、たとえ一つでも作品が成立するくらい、しっかりしていること。オファーをもらう前も「名探偵コナン」は見ていました。しかし最初から見ていたわけではないので、「キャラクター」については無知でした。それでも楽しめていました。つまり、そういうことだと思います。だから、子供から大人まで愛されているのでしょう。

 −−「名探偵コナン」の中で一番好きなキャラクターは? またその理由を教えてください。

 劇場版とテレビを1本ずつ書いだけなので、今はまだ「コナン君をはじめみんな好きです」としか言えません。だから執筆にあたって僕を一番助けてくれたキャラクターについて話します。

 イージス艦のような題材を扱う場合、大事な“伏線”も、解決の“糸口”も、「大人の世界」の情報になります。もちろん、その手の“伏線”や“糸口”は必要です。しかし、「名探偵コナン」は「子供の世界」がにおわなければダメだと僕は思っています。ところが、コナンや灰原にその役割を振っても「大人の世界」がにおいます。歩美や元太に振ると、「子供の世界」が強くなって“伏線”や“糸口”が成立しにくい題材です。そんな中、“円谷光彦”だけが「大人の世界」と「子供の世界」を両立させてくれました。光彦君がいなかったら僕の筆は止まっていたかもしれません。

 −−見るのを楽しみにしているファンにアピールをお願いします。

 これまでにない「名探偵コナン」を見られるはずです。お父さんやお母さんと見た後に話をすれば、これまで知らなかったお父さんやお母さんも見られるはずです。

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