踊る大捜査線:本広克行監督に聞く「このシリーズは学びやだった」 「THE FINAL」DVD発売

「踊る大捜査線」シリーズについて語る本広克行監督
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「踊る大捜査線」シリーズについて語る本広克行監督

 人気刑事ドラマ「踊る大捜査線」シリーズは、97年にテレビシリーズが始まり、昨年公開の「THE FINAL 新たなる希望」(以下、「THE FINAL」)で15年にわたる歴史についに終止符が打たれた。東京・台場にある湾岸警察署に勤務する青島俊作刑事とその仲間たちの日常と、警視庁や警察庁という上層部との対立を描き、これまでスペシャルドラマや劇場映画、スピンオフドラマやスピンオフ映画などでファンを楽しませてきた。その締めくくりとして、昨年9月に公開された「THE FINAL」は、興行収入59億7000万円を記録した。今作のブルーレイディスク(BD)とDVDが4月26日にリリースされるにあたり、メガホンをとった本広克行監督が今作やシリーズについて、思いを語った。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 最初に断っておくが、この記事は物語の核心に触れている部分もあるため、「THE FINAL」を未見の方は見てから読むことをおすすめする。さて、何をもってファイナルとするか。それが、本広監督が頭を最も悩ませた事柄だった。最初は、織田裕二さん演じる青島刑事を殉職させることも考えたという。しかし、たまたま山田洋次監督に会う機会があり、アドバイスをあおいだところ、かつて、テレビシリーズで「寅さん」を死なせた経験がある山田監督に「主人公は絶対死なせないほうがいい」といわれ、その考えを振り払った。

 その代わりに意識したのは、青島の先輩であり同志でもある、深津絵里さんふんする恩田すみれ刑事が乗ったバスが、倉庫に突っ込んで来るシーンだった。そこで、青島はすみれと抱き合い、2人はこれまでにないほどの親密さを見せる。それは本広監督にとって、「とんでもない実験だった」と打ち明ける。実は、本広監督はそこで「すみれさんが死んでいたらという気持ちで演出をしていた」という。「僕の中ではすごい実験。でも、めちゃくちゃ危ない実験でした。プロデューサーの亀山(千広)さんにも、脚本の君塚(良一)さんにもいわないで、深津さんにだけ話して演出した場面だったのです」と驚きの事実を明かした。

 シリーズを通して印象に残るシーンに「歳末特別警戒スペシャル」(97年12月放送)でのSAT(特殊急襲部隊)が湾岸署に突入するシーンを挙げる。「ヘリコプターがアニメーションみたいにおなかを見せて、ダイブするというんですが、それを僕が、日本の実写作品で初めてじゃないかというぐらいカッコよく撮って、ベートーベンの『交響曲第九番』を(BGMに)かけた大好きなシーン」と熱く語るが、「踊る」シリーズのスタッフとキャストを集めた謝恩会で「印象に残ったシーン」としてそれを話したら、「役者全員から『芝居の方じゃないんですか?』と総すかんを食った」と笑う。

 小道具や脇役の俳優にシリーズでつながりを持たせているのも「踊る」シリーズの特徴であり、それを見つけるのがファンにとっては楽しみでもある。97年公開の劇場版第1作「踊る大捜査線 THE MOVIE」(以下「OD1」)で北山雅康さんが演じた主犯格の青年・坂下始は、本広監督いわく「事件後、少年院に入るもすぐに出てきて今は改心し、車の営業マンをやっているという設定」で、今回の「THE FINAL」の序盤に出てくる。また、「OD1」では警視庁公安部長だった横山邦一役の大杉漣さんは「依然として公安にいてもおかしくない」と、今回は警察行政人事院情報技術執行官として姿を見せている。

 「THE FINAL」を撮り終えた今、改めて「踊る」シリーズは本広監督にとってどのような存在かとたずねると、「いろんなことを試させてもらった学びや」と例えた。「自主映画ではいろんなことはできますが、お金がないから表現が追いつかない。だけど『踊る大捜査線』はテレビドラマから始まっていて、人材も機材も豊富だったから、僕が思いついたアイデアをどういうふうにしたらいいのだろうとみんなが考え、それを映像にしてくれた。そういう意味で、すごく勉強になりました」と学びやからの“巣立ち”の心境を述べる。

 これからは「自分が総監督や総監修に立つことで若い人たちにお金が出て、彼らの好きなものが撮れるんだったら僕はなんでもやります」と、若い人を育てていくことに意欲を見せる。また、今年2月に、故郷の香川県で開催された「さぬき映画祭」のディレクター経験を生かし、「地域に根ざした映画を作りたい」と抱負を語る。そんな本広監督が、15年間の思いのたけを込めて作り上げた「THE FINAL」は「これで完全にファイナルです」と言い切った。その言葉に、「踊る」のファンとしては一抹の寂しさを禁じえないが、ともかく今は、その「THE FINAL」のBD、DVDのリリースを待つとしよう。

 なお、「THE FINAL」発売に先駆け、今作と連動した14年ぶりのスペシャルドラマ「踊る大捜査線 THE LAST TV サラリーマン刑事と最後の難事件」、スマートホン向け放送局NOTTVで放送された「係長 青島俊作2 事件はまたまた取調室で起きている!」、深夜にテレビ放送された、SIT(警視庁刑事部捜査一課特殊犯捜査一係)・木島丈一郎(寺島進さん)、爆発物処理班班長・眉田克重(松重豊さん)、SAT・草壁中(高杉亘さん)の3人が活躍するドラマ「深夜も踊る大捜査線 THE FINAL」、さらに「逃亡者 木島丈一郎」、八嶋智人さん、高橋克実さんがそれぞれタイトルロールを演じた「弁護士 灰島秀樹」「警護官 内田晋三」のレジェンドドラマ3作品をパッケージ化した「踊る大捜査線 スピンオフドラマBlu-ray BOX」がリリース中だ。

 *……「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」(4月26日発売)▽プレミアムエディションBD3枚組み8085円、DVD3枚組み7140円、BD・DVDともに特典映像にはキャストインタビュー集、メーキングなど。▽スタンダードエディションBD4935円、DVD3990円。▽ファイナルセットBD7枚組み1万9950円、DVD7枚組み1万8060円、セット内容は「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」プレミアムエディション(本編のBDまたはDVDと特典DVD2枚)+ファイナルセット専用特典DVD+「踊る大捜査線 THE LAST TVサラリーマン刑事と最後の難事件」(BDまたはDVD)+「係長 青島俊作2 事件はまたまた取調室で起きている!」(DVD)+「深夜も踊る大捜査線 THE FILAL」(DVD)▽発売:フジテレビジョン アイ・エヌ・ピー/販売:ポニーキャニオン

 「踊る大捜査線 THE LAST TVサラリーマン刑事と最後の難事件」BD4935円、DVD3990円▽「係長 青島俊作2 事件はまたまた取調室で起きている!」DVD3465円▽「深夜も踊る大捜査線 THE FINAL」DVD2940円▽「踊る大捜査線 スピンオフドラマBlu-ray BOX」BD2枚組み7,980円(「逃亡者 木島丈一郎」「弁護士 灰島秀樹」「警護官 内田晋三」のレジェンドドラマ3作品収蔵)▽発売:フジテレビジョン/販売:ポニーキャニオン

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