超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、ゲーム展示会「チャイナジョイ2013」で見た日本ゲームの中国進出について語ります。
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世界の工場から一大市場へと姿を変えつつある中国。ゲーム業界でも中国への市場参入に向けて挑戦が続いてきたが、そのたびに撤退する企業が続出してきた。しかし「チャイナジョイ2013」では、ようやくその気配が変わりつつある兆しが見られた。
中国では家庭用ゲーム機の販売が法律で禁じられており、PCオンラインゲームやスマートフォンアプリについても、さまざまな障壁が存在する。そのため市場参入には現地企業との提携が必須となるが、日本の大手企業にすれば旨味(うまみ)が少なくなる。また文化やビジネス習慣の違い、政治的な問題などもあり、最近では中国市場の参入リスクが高いという認識が広がっているのが実情だ。そのためシンガポールやインドネシアといった、東南アジア市場に軸足を移す企業も増加している。「チャイナジョイ2013」でも商談エリアにはDeNAやサイバーエージェントなどの日本企業が見られたが、一般エリアでのブース出展は見られなかった。その一方で提携先企業のブースで日本産タイトルやコンテンツが登場し、高い注目を集めていた。
直近での成功事例となったのがスクウェア・エニックスのソーシャルゲーム「拡散性ミリオンアーサー」だ。盛大ネットワークが販売を担当し、中国向けのApp Storeでランキング2位を記録した。両社は人気オンラインゲーム「ファイナルファンタジー14:新生エオルゼア」でも販売提携を続ける見込みで、ブースにはゲームのキャラクター作製が体験できるコーナーが設けられた。
またカプコンは「モンスターハンターオンライン」、バンダイナムコゲームスは「ナルトオンライン」が、それぞれ中国のテンセントと共同開発を進行中だ。ともに中国側が開発し、日本側が監修するスキームで、ブースではデモプレーが用意され、多くの来場者でにぎわった。日本の大手が海外展開において自社タイトルの新規開発を現地に任せる例は珍しく、それだけ中国側の意見を尊重していることがうかがえる。
モバイルゲームでも、コナミデジタルエンタテインメントが中国のChukong社からアイフォーンで「魂斗羅(コントラ)」シリーズを中国向けに配信し、ヒットしている。ブースでは開発を主導した中里伸也さんが登壇してファンと交流。過去の人気タイトルのリメーク作による、さらなる中国展開にも意欲を見せた。
基本プレー無料、アイテム課金の「フリー・トゥー・プレー(F2P)」スタイルのゲーム市場拡大とともに、日本企業にとっても中国市場は改めて重要な存在となっている。日中双方の企業が互いの思惑をおさえて、対外に相手をリスペクト(尊敬)し合い、長期的な協力関係を築いていけるか。これからがまさに正念場だ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長をへて2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。11年から国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表に就任、12年にNPO(特定非営利活動)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。
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