無縁社会をテーマに一つの家族の姿を見つめた映画「日本の悲劇」(小林政広監督)が公開中だ。「春との旅」(2010年)で主演した仲代達矢さんが、再び小林監督とタッグを組んだ。息子役の北村一輝さんとの芝居のぶつかり合いが熱い。そのほか、大森暁美さん、寺島しのぶさんら芸達者の役者が顔をそろえた。
ウナギノボリ
10年前の朝ドラ「花子とアン」 当時の吉高由里子インタビュー
11年10月、息子の義男(北村さん)に付き添われて、不二男(仲代さん)が家に帰って来た。肺がんの手術をした不二男だったが、医師の制止にもかかわらず退院してきたのだった。再び手術しなければ余命3カ月だという。この日は妻・良子(大森さん)の命日だった。義男が病院に戻るように言っても、不二男は聞く耳を持たない。妻と離婚した義男は、今は無職で不二男の年金を頼りに生活している。やがて不二男はドアにくぎを打ちつけて、自室にこもってしまう……というストーリー。
この映画は家の中だけで展開する。定点カメラで観察したように、一家の歴史をさかのぼっていくとき、幸せだった時間もたっぷりあって、そこには平均的な日本人の一家の姿が見えてくる。現在の一家の姿は、誰もが陥る状況なのだ。全体的に“音”の扱い方が素晴らしい。近所から聞こえてくる声もなく、義男の足音、そして洗濯機が終了を告げる音から始まる冒頭のシーンから、それ以降も家族が立てる音しか響かず、唯一、外界とつなぐ電話が鳴り響く切りだ。外界から孤立した様子が強調され、後半の義男の慟哭(どうこく)がより胸に刺さる。中年で家族も職もなく、たった一人きりになった義男は、果たして次のステップを踏めるのか……。厳しい現実をテーマに、息つくひまもない緊張感が広がっていく。8月31日からユーロスペース(東京都渋谷区)、新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国で順次公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、闘病をきっかけに、単館映画館通いの20代を思い出して、映画を見まくろうと決心。映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。
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