ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
少女マンガ界のカリスマ、いくえみ綾(りょう)さんの最高傑作といわれ、累計295万部を超えるベストセラーを実写映画化した「潔く柔く きよくやわく」(新城毅彦監督)が、26日から全国で公開された。13巻からなるオムニバス形式の原作を、映画では、主人公を瀬戸カンナと赤沢禄に絞り、2人を軸にしたラブストーリーに仕上げた。カンナと禄をそれぞれ演じるのは、長澤まさみさんと岡田将生さん。いくえみワールド初の映画化となり、プレッシャーも半端ではなかったであろう2人に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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「はじめは、私ではなく他の方が(カンナを)演じたほうがいいんじゃないかと思ったりもしました。でも、カンナという女の子の、どんなにつらいことがあっても生きるために前に向かって進んでいく、そういう前向きな性格がすごく好きだったことを思い出し、それにあと押しされてお引き受けすることにしました」。そう語るのは、ヒロイン、瀬戸カンナ役の長澤さんだ。カンナの時間は、高校1年のころから止まっている。幼なじみのハルタ(高良健吾さん)が突然、事故で死んでしまったからだ。以来、カンナは恋をすることができなくなっていた。
長澤さんはこれまで、「世界の中心で、愛をさけぶ」(2004年)や、「タッチ」(05年)、「岳−ガクー」(11年)など、小説やマンガが原作としてある映画に数多く出演してきた。その都度、原作ファンの大変な熱意を感じ、そのため今ではある程度のプレッシャーならはねのけられる“免疫”ができている。それでも今回の作品でプレッシャーはなかったといえばうそになる。長澤さんの背中を押したのは、原作に対する愛着だった。
役作りのために、以前読んだ原作を読み返した。それによって「カンナの優しさとか、ちょっとダメな部分とか、いい部分とかがいろいろ見えた気がした」という。原作を教科書代わりにもした。それは、長澤さんなりの「ファンとしての誠意」だった。
長澤さんは「いくえみ先生の作品って、カット割がすごくよくて、その場面がきちんと移り変わっていく過程が表現されていて、そこがとても好きなんです。それにあのせりふのよさ」と原作の魅力を語る。今作においても好きなせりふはあるが、物語の核心をつくため残念ながらここで明かすことは控える。ただ、それは映画の最後、カンナが坂の上で口にするもので、それによって長澤さんは「女性の強さ」を改めて実感したという。
印象に残る場面には、久しぶりに再会した高校時代の親友、川口朝美(波瑠さん)から「あんた、まだ15歳だね」と言われるシーンを挙げる。「親しい人にはたとえ何年会っていなくても(こちらの心が)分かってしまう」ような関係に憧れるのだという。
長澤さんといえば“笑顔”が魅力的だ。どんなに深刻な場面でも、あのはじけんばかりの笑顔がスクリーンに登場すると、その場の空気が一気に和む。しかし今回はその笑顔を封印した。笑っていても泣いているように見えることが「カンナの代名詞みたいになっている」からだ。そして、「丁寧に演じる」ことを心掛けた。「一つ一つの心の動きや、体の動き、目の動き、そういうものが全部伝わればいいなと思いながら演じていきました」と振り返った。
一方、オファーの際、プロデューサーから、原作が大人気の少女マンガという話を聞かされ、余計なプレッシャーを感じてしまったのは、赤沢禄役の岡田さんだ。禄は、大人になり映画宣伝会社で働くようになったカンナが出会う、出版社勤務の編集者。ストレートな物言いがカンナの神経を逆なでするが、実は禄もつらい過去を背負っているという役どころだ。
岡田さんは禄を演じるに当たり台本を読み込んだ。何度も繰り返し読むことで「心に変化が生まれ」、それが自分の中に蓄積されていくのだという。しかしだからといってプレッシャーが消えるわけではない。それに、原作ファンの原作に対する思いは強く、たとえ映画が成功しても否定的な声が聞こえてくることも承知している。「そこをきちんと受け止めないとだめですよね。見ていただけて、嫌いといわれたら仕方がないですけど、好きになってくれる人もいるわけですし……」と原作ものと向き合う覚悟を口にする。
実は、このインタビューの前日、岡田さんはある出来事に遭遇していた。友人と飲食店で食事をしていた際、見知らぬ女性からいきなり、「私は『潔く柔く』の原作が好きです。映画化してほしくなかった」と面と向かっていわれたのだという。そのとき岡田さんは「頑張ったんですよ」と答えたそうだが、原作ファンからの思わぬ言葉にちょっぴりへこんだようだった。
岡田さんが禄を演じる際、心掛けたのは禄が抱えるつらさを「映画の前半ではあまり出さないように意識」し、カンナと出会うことで「自分の過去が少しずつ思い出され、悲しみが見えてくる」ようにしたこと。そして、好きなせりふに挙げたのは、「罪悪感」についてカンナに語る言葉だ。「罪悪感というのは、自分の中にもあるし、多分どの人も抱えているもの。それをストレートにいう禄は、やっぱりいい。僕もあんなふうにいえたらいいのにと思った」という。そして印象に残るシーンには、4歳の少女・睦実が出てくる後半の場面を挙げる。「あそこはやっぱり感動しました。(命の)つながりがすごく感じられて、当時の感動は今でも覚えています」と話した。
ところで、いくえみさんのファンの間でしばしばいわれる「いくえみ男子」という言葉。長澤さんによると、「王子様っぽくなくて、人間らしくて、ちょっとダメなところもあって、きちんと自分というものを持っている人」がそれに当たるというが、長澤さんは今回共演した岡田さんは「見るからにいくえみ男子」だという。すると隣で聞いていた岡田さんは神妙な顔つきが突然変わり、「マジで? そんなこと1回もいわれたことないよ」とびっくりしつつもうれしそうな様子。すると長澤さんは「岡田さんは素直だから、いわなくてもいいことをいっちゃって、たぶんドツボにはまるタイプ。そこが人間らしくて、いくえみ男子っぽい」と必ずしも褒め言葉とはとれないコメントをし、岡田さんを苦笑いさせていた。
撮影中の互いの印象を聞くと、岡田さんは二つ年上の長澤さんについて「集中しているとき以外は常に笑顔で、たまに毒舌をはく。でも、そこが意外でまたすてき」とコメント。長澤さんは岡田さんについて「本当に愛されキャラで、どこに行ってもいじられる」と微妙な表現をした。しかし2人のやりとりからは、互いが気の置けない関係であることが伝わってくる。このインタビュー中も長澤さんの「岡田さんは内面をあまり見せない人」という言葉に反応した岡田さんが、「それってミステリアスってこと?」と聞き返すと、長澤さんが、「う~ん、ミステリアス……そういうことにしておこう」といなしたり、そうかと思うと岡田さんが長澤さんのことを「一つのことをいい出すとそればっかりいう。しつこいんですよ」と“クレーム”をつけたり。それには長澤さんが「(岡田さんと)2人でいるとつい楽しくなっちゃって、そればっかりいっちゃうんですよね」と弁解していた。
ところで、手をつなぐ、または腕を組むという行為は、男女間に限らず親しい間柄の人間であれば自然と出てくる愛情表現だ。それは今作にも出てくる。そこで最後に2人に、手をつなぐのと腕を組むのとではどちらが好きかを聞いた。すると長澤さんは「手がいいなあ」と即答。岡田さんも「僕も手ですね」といったあとで、「でも、僕が腕を組むと答えて、自分から腕をからませたらおかしいですよね」と話し、長澤さんと2人で笑い合っていた。映画は10月26日から全国で公開中。
<長澤まさみさんのプロフィル>
1987年生まれ。静岡県出身。2000年に第5回「東宝シンデレラ」グランプリを受賞し、「クロスファイア」(00年)で映画デビュー。初主演作「ロボコン」(03年)で日本アカデミー賞新人俳優賞、「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)で同最優秀助演女優賞を受賞。おもな映画作品に「涙そうそう」(06年)、「モテキ」(11年)など多数。主演ドラマ「都市伝説の女」(テレビ朝日系)が放送中。出演する舞台「ライクドロシー」が11月8日かた東京・下北沢の本多劇場で上演。また、14年公開予定の映画に「WOOD JOB! 神去なあなあ日常」がある。また、ジョン・ウー監督最新作「太平輪」への出演も決定している。
<岡田将生さんプロフィル>
1989年生まれ。東京都出身。「天然コケッコー」、ドラマ「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~」(ともに07年)で注目を集め、「ホノカアボーイ」(09年)で映画初主演。おもな出演作に「僕の初恋をキミに捧ぐ」(09年)、「告白」「悪人」「雷桜」(いずれも10年)、「アントキノイノチ」(11年)、「宇宙兄弟」「映画 ひみつのアッコちゃん」(ともに12年)、「謝罪の王様」(13年)、「四十九日のレシピ」(11月9日公開)など。「偉大なる、しゅららぼん」と「オー!ファーザー」が14年に公開予定。
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