マダム・マーマレードの異常な謎:川口春奈と原案・加藤隆生に聞く「映画に自分が入り込む感じで」

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 映画「マダム・マーマレードの異常な謎~出題編~」が25日から公開中だ。今作は、遊園地やスタジアムを貸し切った「リアル脱出ゲーム」を映画化した観客参加型の作品で、制限時間以内に観客が謎を解明し、11月22日公開の「解答編」で答えが明かされるという映画初の試みが話題を集めている。また、「出題編」観賞後に謎の答えを記入して提出すれば、先着順で正解者の名前がエンドロールにクレジットされる。主役のマダム・マーマレードを演じた女優の川口春奈さんと、数々のリアル脱出ゲームを手がけ、今作では企画・原案を担当したSCRAP代表の加藤隆生さんに話を聞いた。(遠藤政樹/毎日新聞デジタル)

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 「テレビ東京の方と居酒屋で飲みながら話していたときに、今回の話が出ました」と、笑いながら今作の出発点を明かした加藤さん。話を聞き笑顔がこぼれた川口さんは「出題編と解答編が分かれているというパターンが初めてですし、“お客さん参加型”というのは(最初に聞いただけでは)よく分かりませんでした。謎解きというのもあって、最初は不安でしょうがなかったです」と出演が決まったときの心境を打ち明けた。

 観客が実際に謎を解くという参加型映画について、加藤さんは「参加型にしないと意味がないと思っていました。僕が得意なのがお客さん自身が物語の中に入り込んでしまったかのような体験を作ること。テレビや映画ではどうできるかを考えていたので、参加型がそもそもありきな話でした」と経緯を話し出す。「メモを取らないと解けないと思ったので、本編を楽しむのと同じぐらい大事なものとして、お客さんが考える時間、そして書く時間というのは必要」とメモを取る仕掛けを取り入れた理由を語った。

 不思議な雰囲気を持った女性のマダム・マーマレードを演じた川口さん。脚本を読んだ際の印象は「わーって思いました(笑い)。できるのかなみたいな。複雑なので読んでるだけでは意味が分からなくて大丈夫かなと思いましたけど、(映画が)出来上がって見てみると、すごく面白かったです」と感想を語る。役のイメージは「すごく不思議で変わっている子だと思いますが、ちゃんと芯があり、ぶれてなくて、それでいて人の痛みとかが分かるような心は持っている。今回の話でも、結構迷いや葛藤とかもマーマレード自身もすごくあったと思います」と評する川口さん。続けて「作品自体がファンタジーというか、最初に宇宙空間があったり、格好や車などもそうですが自分の身近にはない、現実的にはない環境やシチュエーションが多かったので、想像の世界でやっていました。説明的なせりふが多く、普段使わない言葉の連続でしたけど、なんとかやり切りました」と役作りの苦労などを明かした。

 加藤さんは、企画としてかかわった部分として「謎の構造ですね。3本の映画があって、1本目にこういう謎、2本目にこういう謎、3本目にこういう謎を入れてくださいとか、謎が解けたときにこういうカタルシスがある、こういう感動があるという構造は作りました。オチがこうで最後こういう感じで(謎が)分かりますというところまでは作ったけれど、映像にはほとんど何も(口を出さなかった)。脚本は毎週会って話し合いました」と謎の構築のみにタッチしたことを話した。「(マダム・)バルサミコの設定がぶれまくっていて、最初は瞬間移動できるという設定でしたけど、それは僕の力で止めました(笑い)」と冗談交じりに加藤さんが話すと、「いろいろあったんですね」と川口さんは笑った。

 さらに加藤さんは「人の心が分かる優しさみたいな部分はすごく議論して、多分、元から持っていたというよりは事件を通して生まれた感情だったり、成長だったりだと思います。実は“マダム・マーマレードの成長物語”でもあるという製作者側の思い入れもあり、見ていて画面からも伝わってきたので、出来上がってよかったなと思います」とこだわりを語った。「出題編」と「解答編」に分かれたことについては「インタラクティブな映画を作ろう、映画館をイベントスペースとして使ってしまおう、映画を見るだけではなくお客さんが行って遊ぶ、自分が映画の中に参加したような体験ができる構造にしようと考えました。そのために必要なのは『出題編』と『解答編』の2本立てというところまでは、渋谷の居酒屋で出た話です」と加藤さんはユーモアを交えて話す。

 ストーリーと同時に謎解きも楽しめるのがこの映画の醍醐味(だいごみ)だが、観客として見た場合に謎が解けるかを聞くと「絶対分からない……」と川口さん。そして「試写を見て、強調されている部分は何回か映っているので(ヒントは)ここなんだろうなと思いますが、何をしていいのか分からないし、短編映画に感情移入してしまったので、あまり謎を解くという感覚では見られませんでした」と謎解きには苦労した様子。加藤さんも「(劇中短編映画の一つの)『やまわろわ』の女の子の演技は“敵”ですね。謎解きどころではなくなってしまう。泣きそうになりました」と謎解きよりストーリーに引き込まれたことを語った。

 リアルなイベントと映画の違いについて加藤さんは「イベントは物語がそこまでなくても自分で謎を解くことだけで盛り上がれるし、物語のどんでん返しがなくても謎の中にパズルのどんでん返しがある。終わったと思っていたパズルの中に重要な情報が隠されているようなことで間が持ち、イベントの山場を持ってこられる。映画の場合は謎がどんなによくできていても、付随する物語がよくないと多分間が持たない」と両者の違いについて語った。続けて、「一番しんどかったのは監督の秘密で、1~2カ月ぐらいずっと考えていました。3本の映画の中に秘密があるというのは早い段階で決めましたが、何が暴露されるのかが重要だったし、ずいぶん手間取りましたが、いいオチになったと思います」と出来には満足げだ。

 印象に残っているシーンを聞くと、川口さんは「最後の謎を解き終えて(マダム・バルサミコ役の)高畑(淳子)さんと帰る車につながるシーンが、マーマレードの人間くさい部分が垣間見えたり、2人の関係性がほほ笑ましくもあり何か温かいなという感じで好き」と話した。さらに「(撮影は)5日間しかなかったんです。だから本当に必死でしたし、大変だったなという記憶が残っています」とエピソードを明かし、「高畑さんにすごくリードされたというか、存在感に助けてもらった感じはあります」と笑顔を見せた。

 見どころについて、加藤さんは「映画は見て、終わったら外で感想をいうというツールで、映画と自分との対話が生まれたことはなかったと思う。ささやかではあるけど(今作は)映画から問いかけがあり答えると、映画側からまたリアクションがあるという2往復している。そういう映画はなかったと思うし、映画の中の世界に自分が入り込める、映画がどこか遠くで作られスクリーンの向こうで演じられているものではなく、自分のいる世界にもにじんできているような、そういう感じで見てもらえるとすごくうれしいです。完成作を見てそれができていると感じたので、楽しんでもらいたいですね」と自信をのぞかせる。一方、川口さんは「映画は見るだけと思ってきましたが、自分が参加できる、物語の中に入れるような気持ちで一緒に謎を考えられ、結果として名前が載るかもしれないとなるのがすごくうれしいことだと思います。なかなかない貴重な作品だと思うので、たくさんの人に考えてもらいたいですし、一緒に謎を解いていく気持ちになれるので、ぜひ見てほしいと思います」と話した。映画はTOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都港区)ほかで公開中。「解答編」は11月22日から公開。

 <川口春奈さんのプロフィル>

 1995年2月10日生まれ、長崎県出身。2007年、雑誌「ニコラ」のモデルオーディションでグランプリを受賞しデビュー。「三井のリハウス」や「ポカリスエット」のCMでも注目される。09年「東京DOGS」(フジテレビ系)でドラマデビューし、以降、ドラマや映画、CMなどで幅広く活躍。主な出演作は、ドラマが「GTO」(12年)、「金田一少年の事件簿」(13年)などがある。映画は「僕たちの交換日記」(13年)、「絶叫学級」(13年)など。10月スタートのドラマ「夫のカノジョ」(TBS系)では主演を務める。

 <加藤隆生さんのプロフィル>

 1974年生まれ、岐阜県出身の京都府育ち。同志社大学心理学部卒業。株式会社SCRAP代表。

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