注目映画紹介:「ジョバンニの島」 色丹島を舞台に戦後の混乱を生きる兄弟を描いた美しいアニメ

「ジョバンニの島」の一場面 (C)JAME
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「ジョバンニの島」の一場面 (C)JAME

 第二次世界大戦後の北方四島の一つ、色丹島を舞台に、ソ連軍の進駐によって戦後の混乱を生きることになった幼い兄弟たちを描いた劇場版アニメ「ジョバンニの島」が22日に公開された。ドラマ「北の国から」シリーズの脚本家・杉田成道さんが、「攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX」を手がけた櫻井圭記さんを脚本に迎え入れ、「宮本武蔵 双剣に馳せる夢」などを手がけてきた西久保瑞穂さんが監督した。アニメーション制作はProduction I.Gで、市村正親さん、仲間由紀恵さん、北島三郎さんらが声を担当する。日本音楽事業者協会(音事協)創立50周年記念作品で音楽もふんだんに使われ、美しいアニメーションで描き出した。

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 10歳の純平(横山幸汰君)と7歳の寛太(谷合純矢君)の兄弟は、漁師の祖父(北島さん)と、防衛隊長の父・辰夫(市村さん)と色丹島に暮らしている。大自然に抱かれて、2人はのびのびと育った。兄弟の名前は亡き母が大好きだった「銀河鉄道の夜」のジョバンニとカンパネルラから名付けられ、2人はこの物語が大好きだった。1945年、夏。敗戦とともに、穏やかな日々は終わった。おじさんの英夫(ユースケ・サンタマリアさん)が帰ってきて、おみやげの汽車のおもちゃで喜んだのもつかの間、ソ連軍の兵士たちが島に上陸。住民は家や財産を奪われ、漁も禁止になった。純平たちが通う学校も、半分はソ連の子供たちが学ぶ教室となる。兄弟はターニャという美しい少女と親交を深め、純平はターニャに淡い恋心を抱き始めるが……という展開。

 物語構成、絵、音楽、どれをとっても秀逸だ。キャラクターは素朴な画風でありながら魅力的で、子どもたちだけでなく、優しい先生とおじさんも重要な脇役として描かれ、歪んだ遠近で描かれた背景も独特で印象深い。キラキラした島での楽しかった暮らしから一転、島を追われる兄弟たち。薄暗い色合いの中の猛吹雪などは、見ているだけで凍えそう。実話が基になっているが2人の運命は過酷の極み。そこに、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の引用が絶妙に加えられ、ファンタジーが力を発揮している。企画当初は実写映画で考案されたというが、アニメーションにして正解だった。ターニャに心を奪われる思春期手前の兄・純平。島を追われながらもターニャを思いやる優しい弟・寛太。子どもたちの心には国境はない。宮沢賢治の精神も貫かれ、平和への願いが伝わってくる。親子でぜひ見てほしい作品だ。22日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開中。(キョーコ/フリーライター)

 <プロフィル>

 キョーコ=出版社・新聞社勤務後、闘病をきっかけに、単館映画館通いの20代を思い出して、映画を見まくろうと決心。映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。

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