広瀬アリス:「銀の匙 Silver Spoon」で好演 乗馬は5カ月練習「馬が懐いてデレデレに…」

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 「鋼の錬金術師」などで知られる荒川弘さんの人気マンガを映画化した「銀の匙 Silver Spoon」が全国で公開中だ。北海道の大自然に囲まれた農業高校を舞台に、酪農を通して、恋や友情、進路など若者たちの成長を描いた青春物語。主人公の八軒勇吾をアイドルグループ「Sexy Zone」の中島健人さん、ヒロインを女優の広瀬アリスさんが演じている。馬が大好きで実家が酪農家という設定のヒロイン、御影アキを演じた広瀬さんに話を聞いた。

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 広瀬さんは「合宿期間中は休みがないぐらい毎日、いろいろ経験させていただいたので、どっぷり“御影アキ”という酪農女子になれたかなと思います」と撮影を振り返る。酪農がテーマの作品ということもあり、撮影はオール北海道・帯広ロケで、酪農や乗馬のシーンでは実際に現地の動物を使用された。映画の撮影に向けて広瀬さんは「ドラマを撮りながら、(東京)都内で週1~2回ぐらい乗馬を練習して、クランクインする1カ月前に実際に帯広へ行き、搾乳や本番で乗るサラブレッドと“ばんえい競馬”という帯広にしかない競技の馬で練習したり、酪農関係の仕事をたくさん体験させていただきました」と語る。

 乗馬練習や酪農実習などを行うため、撮影前に1週間ほど合宿が行われた。初めて搾乳を目の当たりにした広瀬さんは「搾乳といわれて手で搾るイメージしかなかったんでが、実際には500~700頭ぐらいの牛がいて、機械で吸引するんです」と笑顔で語る。搾乳を見た印象を「すべてが何だこれは?みたいな、八軒くんと同じ気持ちでした。毎日、午前3時~3時半起きして搾乳をしたり、馬の手入れをして乗馬やばんえいの練習。続けていくうちに生活リズムにも慣れて、役作りなのか本当に生活しているのかよく分からなくなっちゃいました(笑い)。すごくいい経験でした」と率直な感想を語る。

 全編ロケで動物も使って行われた撮影について「今思うとそのときは普通でしたが、都内に戻ってきてドラマの撮影などをしていると、“動物待ち”とかすごく特殊な撮影だったなと思います……」としみじみ。続けて「せりふを言っているときに馬が私の前を通りそうになるのを止めたり、せりふ以外でも気を使わないといけなかったのですごく大変でした。何気ないシーンでも時間がかかることも多くて、ニワトリが八軒くんの前を2メートルほど通るシーンだけでも3日かかるなど、本当に時間と動物との戦いでした」と苦労を明かす。

 広瀬さんが演じたアキは馬術部という設定だ。「乗馬が一番大変だった。最初はすごく苦戦して……」という。馬は「言うことを聞いてくれない、懐いてくれない、乗っているときに大暴走しちゃう(笑い)」と言い、全然なついてくれない馬に「時間をかけてしっかり手入れしたりコミュニケーションを取って……。そういうのを続けていたらだんだん馬も(こちらに)来てくれるようになりました。懐いている人にしかしないという仕草があって、(練習などでお世話になった)畜産大学の馬術部の人が『あれは私には絶対やらない。懐いている人にしかやらない仕草だ』と言っているのを聞いたときにはすごくうれしかったです」としみじみ語る。そして、「そこからはもう(馬と)ベタベタ(笑い)。ファンデーションがとれるんじゃないかくらい肌にこすりつけたり、写真もどれだけ撮ったか分からないぐらい撮って、デレデレしていました」とすっかり馬の魅力にとりつかれた。

 ちなみに乗馬シーンは吹き替えなしで撮影したといい、「ばんえいのレースも含めてすべて自分。乗馬は都内も含めて約5カ月練習して、ばんえいも2カ月間練習させていただいたので、(南九条あやめ役の)黒木華ちゃんも一緒に全部自分たちでやりました」と胸を張る。熱心に練習に取り組んだこともあり、乗馬のシーンが一番のお気に入りだといい、「障害を跳ぶシーンは、本編の中ではそんなにフィーチャーされる大事なシーンではなく、馬術部の部活内という何気ない場面ですが、5カ月間の成果が出て、練習のときには一切出なかった100点を(乗馬の)先生からいただいたので、そこを見てほしい。終わったあとに拍手が起きたときには、泣きそうになりました。あんなに緊張したシーンはいろんな作品に出てきた中で初めてかもしれない」と語る。

 劇中、アキがニワトリを見て「おいしそう」と発言するなど動物たちの“経済動物”としての一面も描かれている。「酪農関係の方たちと話をしていて、牛肉は普通に食べるとかジョッキーの方は馬刺しが大好きだという話を聞くと、やっぱり食は全然違うんだなと」と認識したという。とくに印象に残った出来事として牧場にいた病気の牛の話を切り出し、「見ていてかわいそうと思ったのですが、牧場の方はすごくドライに対応されていたのが印象的で、やっぱり経済動物として見ているというのは私たちと全然違うなと思いました」と語る。続けて、「アキもきっと同じ感覚なんだろうなと思うと、クランクイン前に経験できてよかったなと思います。経済動物という現実を体験して、そのあとに『おいしそう』と食肉としてしか見ていないアキをしっかりと演じることができたというか、現実を受け止められたかな、と思います」と役作りに生かせたと明かす。

 八軒役を演じた中島さんについて「中島くんとは3年前に一度、連ドラで共演させていただいますが、中島くんが八軒くんとは、最初はイメージできませんでした」と当初の印象を話す。その後、「合宿中に八軒くんだと思うようになりました。リハーサルの時などは不安ばかりでしたが、みんなと一緒に毎日わいわいとしているとだんだん雰囲気ができ上がっていって、それが本編でもしっかりと流れていて、帯広の中島くんはずっと八軒くんでした!」と印象が変わっていった。そして「監督には『ファンを減らすのを覚悟で(アイドルとしての)キラキラをなくしてくれ』と言われていました」と暴露し笑顔を見せる。

 家畜を殺すシーンはキャストの中でもダウンしてしまう子も出たという。「30~40分ぐらい長回しで見ている間、命をいただくということをすごく考えさせられた」という広瀬さん。「今までは食べものを残してもいいと思いましたが、(この作品に出て)本当に申し訳なくなりました。自分たちもリアルに実感できましたが、映画でもしっかりと決して大げさではなくリアルに撮っているので、見ている方も食に対する考え方、すごく勉強になるシーンもたくさんあると思います」と力を込める。

 広瀬さんは今作を「酪農と無縁の方に特に見ていただきたい」といい、「もし私がアキという役を演じず映画を見たら、八軒くんと共感できる部分がすごくいっぱいあると思う。青春映画という部類ではありますが、食に対する考え方だったり勉強にもなる作品なので、学生の方でも大人の方でも楽しめる映画だと思います」とアピールする。そして「原作の世界観やキャラクターの個性もマンガから出てきたんじゃないかというぐらい、マンガのファンの方も楽しめるような映画になった」とも語り、「御影家がかなり濃い(笑い)。(父親役の)竹内(力)さんと(おじさん役の)哀川(翔)さんが並んだ姿と、おじいちゃん役が石橋蓮司さんということもあり、すごくインパクトのある濃い一家になりました。そこも見どころの一つだと思います」と笑う。自身のアキ役については「等身大の明るくて雰囲気のいい女の子なので、明るく元気なのはそういうことしか取りえがない私に任せてくださいという感じでした」と手ごたえを感じているようだ。映画はTOHOシネマズ 六本木ヒルズ(東京都港区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 1994年12月11日生まれ、静岡県出身。2009年に「ミスセブンティーン2009」に選ばれ、雑誌「Seventeen」(集英社)の専属モデルを務める。映画「すべては海になる」(10年)や日本テレビ系「35歳の高校生」に出演するなど女優としても活躍。10年にはフジテレビ系「明日の光をつかめ」で、同系昼ドラ史上最年少で主演を務める。今年は今作のほか、映画「FLARE~フレア~」の公開などを控える。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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