小野憲史のゲーム時評:“ガラゲー”からネイティブアプリへ 求められる人材の急速な変化

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、ゲーム業界に求められる人材の急速な変化、その理由について語ります。

ウナギノボリ

 新社会人の姿を街で見かける季節になった。一方、中途採用も通期で行われているゲーム業界では、中でもソーシャルゲーム大手の求人活動が活発だ。もっとも、数年前とは求められる人材が変わってきている。背景にあるのは「ガラケー」と呼ばれるフィーチャーフォンから、スマートフォンへの市場のシフトだ。

 ガラケーでは「怪盗ロワイヤル」や「探検ドリランド」のように、ウェブサイト上で運営され、ボタンを押すと画面が切り替わってゲームが進む単純な作りの「ウェブアプリ」と呼ばれるタイプが主流だった。一方スマホでは、端末上でプログラムが動作するため、より家庭用ゲームに近い本格的な作りの「ネイティブアプリ」が人気を集めている。「ネイティブアプリ」の代表例が社会現象にもなった「パズル&ドラゴンズ」で、2年以上もヒットを続けている。

 ウェブアプリはホームページ技術の応用で作成でき、IT・ウェブ企業だった「グリー」や「モバゲー」も強みを生かせた。しかしネイティブアプリの開発技術は家庭用ゲームに近く、開発規模も大型化している。ウェブアプリが完全に廃れたわけではないが、ネイティブアプリのヒット作の有無で業績が左右されるため、各社が目の色を変えている。社内の人材教育だけでは追いつかず、家庭用ゲーム企業からの転職組を募集中というわけだ。

 一方で家庭用ゲーム企業の方でも、新しい人材を求める動きが強まっている。ソーシャルゲームで定着したF2P(基本プレー無料・アイテム課金型)のゲームは、新たなビジネスモデルとしてプレイステーション4などの新型ゲーム機向けのタイトルで導入が進みつつある。パッケージゲームとF2Pのゲームでは収益構造が異なり、高度なサーバー技術も求められる。そこで、こちらもソーシャルゲーム企業からの転職組を募集しているのだ。もっとも、本当に優秀な人材は一握りという状況はいつの時代も変わらず、業界では慢性的な人材不足が続いている。

 ポイントは人気ゲームの移り変わりが激しく、数年で企業が求める人材のスキルセットが変化することだ。背景にあるのが絶え間ない技術進化で、半導体の進化や通信インフラの普及が、スマホの低価格化やゲーム機のネットワーク化を促進した。これらを背景にF2Pゲームが普及し、求められる開発者像も変化してきたのだ。これは業務用ゲームから家庭用ゲーム、スマホゲームと続いてきたのと同じで、ますます変化の速度が増すだろう。

 ただし、企業や人間はそこまで急速に変化できない。特に企業にとって、新卒採用は1年半先の業績を見越して人材を「先物買い」する側面が強く、市場の激しい変化にそぐわなくなりつつある。これがアメリカなら古い人材をリストラし、新しい技術をもった社員を雇うところだが、人材が流動しづらい日本では困難だ。社内でじっくり人材を育成できる強みもあるが、どのように育てたら良いか、企業も手探りというのが実情だろう。

 例えば今、業界ではバーチャルリアリティー技術に注目が集まっている。数年後にはスマホを装着して遊ぶようなデバイスも技術的には可能だろうし、そこで求められるゲームや開発技術も、今の人気アプリとは異なっていることは容易に想像ができる。しかし、この分野における数年後の市場規模は誰も予想できない。一方で火が付いてから人材を集めては、他社との競争に敗れてしまう。経営者にはジレンマだ。

 面白いゲームはいつの時代もヒットする。しかし、「面白さ」は時代や技術で変化していく。そして、そのトレンドを企業は容易に予測できない。だから優秀な人材を求めて右往左往することになる。つまり、求められるのはクリエーターが自ら状況を先読みして、自分の技術を磨き、キャリアに生かす姿勢だ。幸い近年ではゲーム業界でも、さまざまな社外勉強会が開催されていて、一歩踏み出すことが、将来に役立つということだろう。昔は企業が人材と技術を囲い込む傾向にあったが、優れた人材を業界全体で育てる……ゲーム業界もそんな時代に足を踏み入れている。

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