テレビ質問状:「綾戸智恵 その歌声が変わった日~父と母の痛みを抱いて~」 父を探す旅

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 WOWOWは、毎週金曜午後10時に「ノンフィクションW」枠を設け、オリジナルのドキュメンタリー番組を放送中だ。この枠では、見る人を新しい世界へと誘うフルハイビジョンの“ノンフィクションエンターテインメント”番組をWOWOWプライムで毎週、テーマを変えて放送している。5月30日に放送される「綾戸智恵 その歌声が変わった日~父と母の痛みを抱いて~」を担当したWOWOW制作部の太田慎也プロデューサーに、番組の魅力を聞いた。

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 −−番組の概要と魅力は?

 「あなたがお父ちゃんと思ってきた人とは別に、本当の父親がいる」……昨年デビュー15周年を迎えたジャズシンガーの綾戸智恵さんは、介護を続けるお母さまから突然、“家族の秘密”を告白されました。お母さまは認知症を患っておられるため、もはやその真偽は確認できず、綾戸さんは幼少期のわずかな記憶を元にご自身の足で本当のお父さまを探す旅に出られました。その過程で綾戸さんは、お父さまのこと、お母さまのこと、息子・イサさんのこと、ご自身のこと、そしてご自身の「歌」のこと、多くを気づかされることとなります。その過程に密着しました。

 そしてもう一つ大切な要素は、綾戸さんを取材・撮影し、番組を仕上げるディレクターを務めたのが、綾戸さんと20年来の親交があり、映画「かぞくのくに」「Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン」など“家族”をテーマにした作品によって世界で高い評価を受けるヤン・ヨンヒ監督であるということです。この番組は、アカデミー賞外国語映画賞日本代表作品にも選出された「かぞくのくに」に続くヤン監督の最新作となります。“家族”をテーマに、希代のジャズシンガーと映画監督がつながる、そこも番組の大きな魅力だと考えています。

 −−今回のテーマを取り上げたきっかけと理由は?

 以前「ノンフィクションW」でヤン・ヨンヒ監督を取材させていただいたこともあり、昨年秋にヤン監督から本企画のご相談をいただきました。その時点では私たちはもちろん、綾戸さんご本人も「本当の父が見つかるかどうか分からない」状態。番組として成立するのかという不安があったのは事実ですが、我々が一緒になってお父さまを探すというよりも、綾戸さんがご自身の足で旅をされ、いろんなことを感じられる様子を寄り添って見つめるというスタンスで臨めば、何かを伝えられるのではと考えました。

 −−制作中、一番に心がけたことは?

 取材開始直後から信じられないような出来事や奇跡のような出会いの数々が綾戸さんを待ち受けていました。我々としてはそれを過度に騒ぎ立てるのではなく、優しく見つめ続けるよう心がけました。これまで発表されてきた作品にも表れている通り、ヤン監督が取材対象を見つめる時の温かさや距離感は、説明のできない独特の雰囲気があると感じています。映画とテレビドキュメンタリーの違いがあるとはいえ、“ヤン監督らしさ”を大切にすることが、我々のスタンスをぶらさないことだと考え、制作を進めました。

 −−番組を作る上でうれしかったこと、逆に大変だったエピソードは?

 道行く人に声をかけられれば常に陽気に接し、「まいど!」とステージに上がればたちまち観客に笑いと感動を与えてくれる。そんな綾戸さんが半年にわたる旅で経験されたことは、数年、数十年、人によってはもしかしたら一生かかっても消化できないほどのことだと思います。だけど綾戸さんは、すべてをご自身の中で「前に進む力」に変え、シンガーとして「歌」という形で結実されました。その過程をつぶさに感じられたことは、うれしくもあり大変でもあり、まさにドキュメンタリー制作者冥利につきる生涯忘れられない経験となりました。

 −−番組の見どころを教えてください。

 綾戸智恵というあまりにも有名な方のお話でありながら、内容は“本人も知らなかった出生の秘密”という極めてプライベートなことに及んでいます。それでも綾戸さんは、「何も隠さず捨て身でやる」と、全身全霊で我々取材班と向き合ってくださいました。そして、綾戸さんが全力で我々に示してくれた「覚悟」や「度量の大きさ」、まっすぐな「意志」、そして真実を知った後の綾戸さんの「新たな歌声」を、ヤン・ヨンヒ監督が丁寧に映し撮っています。だから綾戸智恵はここにいる……、そんなことを感じていただける濃厚な43分に仕上がっています。

 −−視聴者へ一言お願いします。

 誰もが持つ「父」「母」「家族」。番組取材中、綾戸さんはご自身の家族のことを知るにつれ、たくさん涙されました。そして取材している我々もあまりの衝撃に何度も涙しました。そこで起こっていることが「自分のこと」として迫ってきたからだと思います。視聴者の皆さんにも、番組を見ながらご自身の「父」「母」「家族」と重ねて受け止めていただけたら幸いです。そして、“誰にもまねできない”綾戸智恵の歌声が、その「ルーツ」という強力な土台を得て、さらに新たな境地へと入る様子を感じ取っていただけたらと思います。

 WOWOW 制作局制作部 プロデューサー 太田慎也

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