マレフィセント:ヒットの裏にアンジー生き様 仕掛け人が語る戦略

演じるマレフィセントにダブるアンジーの生き様が魅力的(C)2014 Disney Enterprises,Inc.All rights reserved.
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演じるマレフィセントにダブるアンジーの生き様が魅力的(C)2014 Disney Enterprises,Inc.All rights reserved.

 社会現象にもなったディズニー映画「アナと雪の女王」の大ヒットが記憶に新しい中、米女優のアンジェリーナ・ジョリーさん主演のディズニー映画「マレフィセント」が公開(5日)され、興行収入が早くも30億円を突破し、週末興行収入で3週連続1位と大ヒットの兆しを見せている。愛に裏切られた邪悪な妖精マレフィセント(ジョリーさん)が復讐のために真実の愛でないと解けない呪いをかけ、最後は自分の愛で呪いを解くというストーリーが、愛に飢えた少女時代を過ごしたジョリーさんの生き様に共感する女性たちの強い支持を得ているという。同映画の宣伝プロデューサー、高橋良太さん(ウォルト・ディズニー・ジャパン)に戦略を聞いた。

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 ◇三つの課題

 高橋さんは同映画をプロモーションしていく上で、三つの課題があったという。一つは「おとぎ話や童話を実写化した作品は、その点を強調すると新鮮味に欠け、ヒットにはつながりにくい」、二つ目は主演の俳優や女優が目当てで映画に行く人は少なく「アンジェリーナ・ジョリー主演作だから当たる、というわけではない」、三つ目は「新作洋画が興行収入20億円を超えるのは難しい」ということだ。

 ◇ファンタジーでなく愛の物語

 映画は、1959年製作のディズニーアニメ「眠れる森の美女」を邪悪な妖精マレフィセント(ジョリーさん)の視点から実写で描き直した作品。元々の下敷きはヨーロッパの古い民話・童話として知られている「眠れる森の美女」だが、映画ではオーロラ姫にかけられた“永遠の眠り”の呪いにまつわる“究極の愛”が描かれており、「映画を見たときにファンタジーではないなと思った。究極の愛の物語だと思った」という高橋さんは「ファンタジー映画という言い方はしない」と決めたという。

 さらに高橋さんは「“ラブストーリー”と銘打ってしまうと映画のスケールが小さく見えてしまうのではないか」という懸念があったというが、「マレフィセントを中心とした愛の物語というのにブレはない」と確信し「小学生から大人までの女性をターゲットとした究極の愛の物語」をプロモーションの根幹に据えた。

 愛の物語を根幹に据えたことで、主題歌もオーロラ姫が王子を夢見て歌ったオリジナルの米国版から世界で唯一歌詞を変更。マレフィセントからオーロラ姫への母性愛をテーマにしたものに作り替えた。歌も「母性的な愛を感じさせる」と女優の大竹しのぶさんを起用。「音楽は力があるものなので、アニメ版を知っている人ならあの曲を聴いてピンとくるはず」とプロモーションに歌を積極的に活用した。

 ◇アンジーの生き様を紹介

 そして二つめの課題「アンジー主演だから当たるというわけではない」について、高橋さんは何人かの女性の話を聞いているうちに「アンジーの生き様にひかれている女性が多いことに気付いた」という。両親の離婚やいじめなど愛に飢えた少女時代を過ごしたジョリーさんが、カンボジアから養子を迎えて母親になったことやパートナーのブラッド・ピットさんと出会ったことで愛や自信を取り戻し、今や母として、女優や映画監督、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の親善大使としても活躍している姿は日本の女性たちから多くの支持を得ている。「最初はピンとこなかった」という高橋さんだが、ジョリーさんの人生を調べれば調べるほどマレフィセントと重なっていったという。ジョリーさんの中にマレフィセントを、マレフィセントの中にジョリーさんを“発見”したという。

 そこからアンジーの生き様に興味がある人に対して、アンジーの人生に興味があるのなら「マレフィセント」というものもあるから見てみたら?という切り口でアピールしていったらどうだろうという方向につながったという。劇場用パンフレットにもジョリーさんの半生を紹介するページを盛り込んだり、プレミアイベントにもジョリーさんを呼ぶなど、ジョリーさんの生き様を積極的に紹介した。

 また、三つ目の課題「新作洋画が大ヒットするというのが難しい」に対しては、高橋さんは「世の中にはいろいろなエンターテインメントがある。その中で映画を見てくださいっていうのは押しつけでしかない。興味を持ったものがたまたま映画だった。それがたまたま『マレフィセント』になればいい」と宣伝の根底にある思いを明かしている。

 ◇家族連れヒット確信 

 こうして戦略が功を奏している「マレフィセント」だが、高橋さんがヒットの手応えを感じ始めたのは試写が始まりだしてからという。「試写を見て泣いている人もいて、不安だった路線に確信が持ててきた」と振り返る。また、劇場から吹き替え版の注文が多かったことにも手応えを感じた。「通常は7対3か6対4くらいの割合で字幕版の注文が多いんですが、今回は、吹き替え版の注文が多く、最終的には5対5だった。ということは、劇場が子供の動員も予測したということ。小学生やそれ以下の年齢のお客さんが来てくれるだろうと思った」という。

 「吹き替え版のクオリティーの高さはディズニーの伝統。子供だけではなく大人も楽しめる。アンジーの声を聞いた後は吹き替え版もぜひ」とPRする高橋さん。夏休み映画が続々と封切られる中、「マレフィセント」は「アナと雪の女王」に続くのか。今後の動向に注目したい。

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