TOKYO TRIBE:園子温監督と原作者・井上三太に聞く「面白いラップミュージカルになった」

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 井上三太さんの人気マンガ「TOKYO TRIBE2」を基に、鬼才・園子温監督が実写映画化した「TOKYO TRIBE」が30日に公開された。原作は、架空の街“トーキョー”を舞台に若者たちの日常を描いた青春マンガで、ストリートの日常を過激に描写し話題を集めた。コミックスは全12巻で累計250万部を突破。映画では、近未来の“トーキョー”を舞台に、「ブクロWU−RONZ」のトップに君臨するメラ(鈴木亮平さん)と「ムサシノSARU」の海(カイ、YOUNG DAISさん)を中心に、トーキョー中のトライブ(族)を巻き込んだ大抗争を描く。常にセンセーショナルな映画を作り続ける園監督と、原作者にしてレンコンシェフ役として今作にも出演している井上さんに、実写化についてや互いの印象などを聞いた。

ウナギノボリ

 ◇園子温ムービーになってほしい

 原作を実写化するにあたり、「ストーリーに忠実にというより、マンガの持っているタッチというか、フィーリングに忠実になろうと思った」と語る園監督。続けて、「日本のマンガの実写化は変なところに忠実すぎて、あらぬ方角に行って大変なことになっているものが多い」と自身の見解を述べ、「それよりかは何がこのマンガの中心にあるかということを自分なりに考えて出しているつもり」と仕上がりに自信をのぞかせる。

 園監督がいうには、そもそも「マンガは12巻もあって1時間半にまとめるのは難しい」とのことで、「マンガで十分に完結していたし、全12巻というなかなかの長編を今、どのように実写化すればいいのかとても悩んだ」と打ち明ける。以前、園監督が原作ものとして初めて撮った「ヒミズ」(2012年)の時も、「原作者が許しても原作ファンは許さない」とネガティブな思考に陥ったという。園監督の告白を聞き、井上さんは「本当に園さんでよかった。園さんの映画になった」と絶賛する。

 井上さんは映画製作に原作者として口は出さないというスタンスだった。「(園さんが)おっしゃったように原作をトレースしただけだとしょうがないですし、『ああ原作通りだね』となってもしょうがない」と持論を展開し、「スピリットとかソウルみたいなものを何か感じ取っていただきつつ、園さんが表現するものとして“園子温ムービー”になっていてほしいなというのがあった」と映画化への思いを語る。そして、「原作を生かしつつ園さんの中で熟考され、エンターテインメント作が出来上がった」と最大限の賛辞を贈る。

 ◇互いに感じていた変貌と不安

 園監督と井上さんは製作開始当時、クエンティン・タランティーノ監督の「パルプ・フィクション」(1994年)を一緒に見に行って以来の再会を果たした。園監督は以前の井上さんについて「すごくやせていて、何かこうセンチメンタルですぐ傷つきそうなナイーブなマンガ家という感じ」と振り返り、「マンガ家らしい感じでしたが、いつの間にこんなにワイルドなほうに変化したのか、その間の経緯はまったく知りません」と言って笑う。井上さんも「園さんも傷つきやすそうな感じ」と評し、「『愛のむきだし』(08年)あたりからぐいぐい名前が出てきて、僕はどこかしら似ているタイプのシャイすぎてやりすぎちゃうみたいな振れ幅があって、ちょっと照れ屋(笑い)」と共感を示す。

 そんな2人のコラボから生まれた今作は、世界初の“バトル・ラップミュージカル”と銘打たれ、せりふがほぼ全編ラップで語られる。園監督は「ヒップホップやストリートファッションとかを理解しているとは思えなかったので、『映像化はほかにストリートをちゃんと知っている人に任せたほうがいいのでは』というぐらい心配していた」というが、一念発起し、「本物のラッパーに出演してもらうのはどうだろう」と思いついた。そして、「本物のラッパーを大量に出して“ラップミュージカルにする”と決め、さらに本物の街は一切出さずに街は全部創作するとした時、もしかしたら自分でもいけるかなというのはあった」と手応えを感じた。「それが最初の一歩というか、見つからなかったら多分、迷っているだけだったと思う」と感慨にひたる。

 口を出さないと決めたとはいえ、井上さんは「ラップでいくと聞いた時には、口は出さないとは言ったけど、一抹の不安が……(笑い)」と感じたそうだが、「初号試写で見た時、不思議な映画だけど園さんにしかできないバランス感覚だ」と思ったという。「ヒップホップも入っているし、ラップミュージカルというのも聞いたことがなく、全部が危険だけど、面白いラップミュージカルだった」と驚き、多くの人に「映画館で体感してもらわないと」と願う。

 ◇現場のよさとキャストの熱意を実感

 今作に出演している俳優たちと対面した時、撮影現場の雰囲気のよさをみんなが語っているのを聞いた井上さん。撮影後にメラ役の鈴木さん、海役のYOUNG DAISさん、ハシーム役の石井勇気さんらと飲む機会があり、「1~2時間飲んで仕事があるからと外に出た時に、ハシーム(石井さん)と海(YOUNG DAISさん)がお見送りしてくれた。海はハシームをちょっと野次ったりもして、映画がまだずっと続いている気がする」と語り、「自分がクリエートしたキャラとしゃべっているような気になった」と笑顔を見せ、キャストのチームワークのよさを明かす。

 さらに井上さんは「役者も楽しんでいるし、スタッフも楽しんでいるし、これはぜひとも『2』を(作ってほしい)」と続編を望み、「毎回(園さんが)12巻とおっしゃるたびに、(今作には)全12巻は入っていないので小出しに……とか、映画の中で(レンコン)シェフも死んでいないのでとか……(原作者としての)自分のことばかり考えていますね(笑い)」と豪快に笑う。

 見事にメラを演じ切った鈴木さんについて、井上さんは「めちゃめちゃカッコよくて好青年だけど、ちゃんと悲哀も持っていて、それがメラに出ているような気がする」と評する。園監督は「本当にうらやましいのは、亮平はすごい体をしてるじゃないですか。あれを持っていたらもう勝ち」と言い切り、「何かの拍子にあの体に乗り移ったら、(自分が)何をしでかすか分からない(笑い)。無敵じゃないですか」とちゃめっ気たっぷりに話す。

 ◇世界の人がどう評価するかに期待

 派手なアクションも見どころの一つだが、アクションについては「アジアの人たちに見せても恥ずかしくないものを作りたい」と妥協を許さなかった園監督。「カット割りとかでごまかしたりはせず、スタントも使わずに全部役者が自分の役の時に自分でアクションをした」と舞台裏を明かす。井上さんも「清野菜名というモデル出身で出てきた女の子をキレのあるアクションで、YOUNG DAISというラッパーを役者として遜色ない演技で、これはずっと園さんがやってきたいろんな俳優を一流のスターにしていったまさに“スターメーキング”という技に磨きがかかっている気がした」と園監督の手腕をべた褒めする。

 今作の感想を「監督の映画はやっぱりすごい面白い」と語る井上さんは、「“喜楽”だけじゃなく、哀しみも感じるし、『バカ野郎』という常識やシステムに対する怒りを面白さでブレークスルーしていっているので、すごく面白い映画になった」と力を込める。園監督は、登場キャラクターを「みんな好き」といい、「面白くてすてきなキャラクターがわんさか出てきてみんなが大騒ぎするという、いえば現代版“ウエスト・サイド・ストーリー”的なものになっているのでは」と分析し、「世界中で公開されるので、世界の人がどう言うかに期待しています」と語った。新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開中。

 <園子温監督のプロフィル>

 愛知県出身。1987年「男の花道」でPFFグランプリを受賞。PFFスカラシップ作品「自転車吐息」(90年)はベルリン国際映画祭正式招待のほか、30を超える映画祭に出品された。それ以降も各国で多数の賞を受賞し、2013年にはカナダのトロント映画祭で「地獄でなぜ悪い」がミッドナイト・マッドネス部門で観客賞に輝く。「TOKYO TRIBE」も同映画祭のミッドナイト・マッドネス部門に出品。主な代表作に「愛のむきだし」(08年)、「冷たい熱帯魚」(11年)、「恋の罪」(11年)など。

 <井上三太さんプロフィル>

 1989年に「まぁだぁ」でヤングサンデー新人賞を受賞しデビュー。93年に出版された「TOKYO TRIBE」(JICC出版局)から始まる「TT」シリーズは自身のライフワークとなった。「TOKYO TRIBE2」は香港、台湾、米国、フランス、スペイン、イタリアでも出版されている。94年から「コミックスコラ」(スコラ)で連載されたサイコホラー「隣人13号」は、休刊のため連載は一時中断されるが、自身のサイトで続編を発表し、99年には幻冬舎から単行本化。2005年には小栗旬さんと中村獅童さんのダブル主演で実写映画化もされた。02年からは自身のフラッグシップストア「SANTASTIC!」を渋谷にオープンしている。

(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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