注目映画紹介:「ちびねこトムの大冒険 地球を救え!なかまたち」 鬼才・中村隆太郎の幻の初監督作

提供:SU企画
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 1992年に製作されたが、これまで劇場公開されてこなかった劇場版アニメ「ちびねこトムの大冒険 地球を救え!なかまたち」(中村隆太郎監督)が20日に公開される。今作は、「キノの旅 the Beautiful World」などで知られ、2013年に亡くなった中村監督が初めて監督を務めた長編作品で、人間のような動物が暮らす地球を舞台に、ちびねこ・トムと仲間たちの冒険を描いている。当時、5年の歳月をかけて制作されるも諸事情で劇場公開されず、一部のテレビ放送や地方での上映会など限定的な公開にとどまっていた作品で、現在も一線で活躍するスタッフ陣と、藤田淑子さん、野沢雅子さん、高山みなみさん、大塚明夫さんら豪華声優陣が顔をそろえていることからも隠れた大作といえそうだ。

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 夏休みのよく晴れた日、ヤポーニャ国のトム(声・藤田さん)と兄のマーク(声・野沢さん)、トムのガールフレンドのエイミー(声・佐野量子さん)とその兄・アレックス(声・高山さん)らは、ピント山の謎を探るため冒険に出発。ピント山の頂上にたどり着くと、不思議な形に組み合わされた大きな岩を見つける。そして、地球の一部である謎の生き物・チキ(声・坂本千夏さん)と出会うも、五つの「地球のかけら」に分裂してしまっていた。地球のかけらをある方法で一つにつなげられると、地球が壊れるのを防げるのだが、兄たちが方法も聞かずに無理やりつなげようとしたため、かけらが離れようとし、トムらは地球のあちこちに飛ばされてしまう……というストーリー。

 日本アニメ界の鬼才・中村監督が構成や絵コンテから脚本までを手がけた初監督作品でありながら、諸般の事情でこれまで大々的に公開されることがなかった。まさに“幻”と呼ぶにふさわしい作品だが、20年以上の年月がたった今見ても、時間を掛けて丁寧に描き上げられた手描きのセルアニメから温かみを感じ、さらに総数6万枚にもおよぶ動画枚数には単純に驚かされる。名前こそ挙げないものの名だたる製作陣が携わり、背景美術に至るまで豊かさと美しさにはアニメファンならずともうっとり。絵のタッチからは子供向けを想定しているようだが、環境問題や人間同士のつながりなどをテーマにした物語は、現代社会が抱える問題にも通じるところがあり大人でも引き込まれる。もちろん深く考えず、ファンタジー作品としても楽しめる。素晴らしい作品は時代を超えることを再確認した。ミニシアター・トリウッド(東京都世田谷区)で20日から2015年1月18日まで公開。(遠藤政樹/フリーライター)

 <プロフィル>

 えんどう・まさき=アニメやマンガ、音楽にゲームなど、ジャンルを問わず活動するフリーの編集者・ライター。イラストレーターやフォトショップはもちろん、インタビュー、撮影オーケーと、どこへでも行き、なんでもこなす、吉川晃司さんをこよなく愛する自称“業界の便利屋”。

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