ジミー、野を駆ける伝説:主演のバリー・ウォードに聞く「自由を愛した民衆の姿から感じ取って」

主演映画「ジミー、野を駆ける伝説」について語ったバリー・ウォードさん
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主演映画「ジミー、野を駆ける伝説」について語ったバリー・ウォードさん

 カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作「麦の穂をゆらす風」(2006年)などで知られるイギリスの名匠ケン・ローチ監督の最新作「ジミー、野を駆ける伝説」が17日に公開された。激動のアイルランド近代史を背景に、歴史に埋もれた活動家と人々が自由を追い求める姿を、すがすがしく描き出す。主人公ジミー・グラルトンを演じたのは、おもに英国やアイルランドの舞台で活躍してきたバリー・ウォードさん。ローチ監督に見いだされ、初めての映画主演作となった。このほど初来日したウォードさんは「権力に屈せずに自由を愛した民衆の姿を見てほしい」と語った。

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 ◇人々の輪の中で共に生きたジミー

 「もともとローチ監督の作品の大ファンだったんです。監督の作品は、映画がフィクションであることを忘れさせてくれる。ここまで満足した仕事はありません」と初の映画主演で名匠ローチ監督に抜てきされた喜びを、温かい笑顔と穏やかな口調で語るウォードさん。実在した名もなき活動家の資料はあまりなく、ジミー・グラルトンさんの親戚に話を聞くなどして準備したという。

 「役作りは伝説に肉付けしていくような作業でした。彼が本当はどんな人物だったのかは、当時の人々の記憶の中にしかありません。そのため、自由に考えて演じていきました。ジミーは人々の輪の中にいて、ともに生きた人。そこを大切に演じました」と語る。

 1932年、内戦後のアイルランド。映画は、活動家のジミー(ウォードさん)が10年ぶりに米国から帰国したところから始まる。年老いた母親と平穏に暮らすはずだったジミーが、希望を失った若者たちの訴えに心を動かされ、人々が芸術やスポーツ、歌やダンスを楽しめるホール(集会所)を再建する。リベラルな思想を持つ彼の元に人々が集まる。ウォードさんは「埋もれ過ぎても目立ちすぎてもダメ」と考えて微妙なバランスを保ちながら、民衆のリーダーを演じていった。

 ほかのキャストと同じホテルに泊まり、主役として特別扱いされることは一切なかったという。「それがローチ監督の作品のあり方だと思った」とウォードさん。ローチ監督からは「指にタコがあるような労働者で、いかにも農作業をしてきた男を演じてほしい」と言われ、ロケ先で実際に農作業をしながら役作りをした。

 ◇自然光のホールのシーンは芸術的

 映画には、庶民が集って音楽やダンスを楽しむ姿がリアルに描かれる。ホールがあったとされるアイルランド西部のリートリム州に、実際にホールが建てられ、その中で撮影が行われた。ウォードさんおすすめのシーンは「ジミーが元恋人とダンスを踊るところ」だという。

 「自然光を生かした月夜の下で、スタッフみんなで芸術的で見事なものを作ることができたと思っています。僕も楽しんで踊ることができました」と語る。猛特訓の末、演じたダンスシーンは、ほかにもたくさんあって、大勢の前で踊るときはとても緊張したのだとか。

 そして物語は、ジミーら庶民と権威的な教会や強欲な地主との対立になっていく。

 「厳しい状況下で庶民が楽しいことを見つけて(活動を)やり続けます。そこを見てほしい」とウォードさん。映画を見た人から絶賛の声も多く寄せられた国外追放のシーンは「細かい設定を知らされずに撮りました。ジミーとしての気持ちが、自然に湧き出てきました。権力に弾圧されて、裁判も開かれず国外追放になってしまう話は、悲劇ですが、ジミーは若い人たちにエネルギーをもらったり、与えたりしながら、一つのことをやり遂げた。すがすがしさもあったのではないかと想像しました」と語る。

 ウォードさんは、特に若い世代に見てほしいという。「日本の政治はよく分からないけど、アイルランドでは、年寄りが政治ゲームをしていて、若い人がないがしろにされ、そのせいで若い人が政治に無関心になるという悪循環が生まれています。自分の好きなことを自由にやり続けるために社会を変えていこうとする民衆の姿を、映画から感じ取っていただけたらと思います」と日本人に向けてメッセージを送った。

 出演はウォードさん、フランシス・マギーさん、アイリーン・ヘンリーさん、シモーヌ・カービーさん、ジム・ノートンさん、アシュリン・フランシオーシさん、アンドリュー・スコットさんほか。17日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 1979年10月10日生まれ。アイルランドのダブリン郊外ブランチャーズタウン出身、ロンドン在住。映画「めぐり逢う大地」(2000年)やドラマ「法医学捜査班 Silent Witness」(96年~)の07年シーズンにゲスト出演するなど活躍。英国、アイルランドで舞台俳優としても活動し、主役も含めて約20本に出演。今作で初めてカンヌ国際映画祭のレッドカーペットを歩き、世界的な注目を集めて、すでに5本以上の映画に出演。尊敬する映画人は、ローチ監督を筆頭に、ジャック・ニコルソンさん、ウィレム・デフォーさん、ロマン・デュリスさんら。日本では北野武さんがお気に入りだという。

 (インタビュー・文・撮影:キョーコ)

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