「ONCE ダブリンの街角で」(2006年)で米アカデミー賞オリジナル歌曲賞を受賞した、アイルランド出身のジョン・カーニー監督が、再び音楽を“主役”に据えて撮り上げた作品「はじまりのうた」が7日から公開される。舞台を前作のダブリンから米ニューヨーク(NY)に移し、キャストにはキーラ・ナイトレイさんとマーク・ラファロさんというハリウッドで活躍する2人を起用。前作に比べ華やかさが漂う仕上がりとなった。
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NYにあるライブハウスで、ギター片手に曲を披露した無名のミュージシャン、グレタ(ナイトレイさん)。しかし客からの反応は芳しくなかった。ステージを降りた彼女に一人の男が声をかける。男の名はダン(ラファロさん)。売れっ子音楽プロデューサーだったが会社をクビになったばかりのダンは、グレタの素朴な歌声にプロデューサーとしての勘が働き、一緒にアルバムを作ろうと持ち掛ける。だが資金はない。そこで思いついたのは、NYの街角をスタジオ代わりにレコーディングすることだった……という展開。
華やかさが漂う仕上がりといっても、ぬくもりある作風は前作と変わらない。かつて、アイルランドのロックバンド「ザ・フレイムス」のメンバーだったカーニー監督。それだけに“音”への執着には並々ならぬものがあるようで、レコーディング場所としてスタッフが見つけてきた場所に、「目で見て選ぶな。耳で選べ」とダメ出しするなどのこだわりを見せたという。そうやって選び抜かれた路地裏をはじめとする地下鉄のホームやビルの屋上、セントラルパークといった場所での録音風景には、NYならではの息吹きが感じられ、ワクワクさせられる。そして、それを後押しするキャストの歌と演技。ナイトレイさんはギター片手に飾らない歌声を披露し、自身の傷心を修復すると同時に、周囲の人々にも自信と希望を与えていく、さながら“NYに舞い降りた天使”を好演。ラファロさんも、ちょっとだらしない音楽プロデューサーを持ち前のアンニュイさを生かしつつ表現し、また「ワン チャンス」(13年)でオペラ歌手に扮(ふん)したジェームズ・コーデンさんがグレタの友人役を愛嬌(あいきょう)たっぷりに演じている。彼らの味わいのある演技と、グレタの恋人役をノーギャラで務めたという米人気ロックバンド「マルーン5」のボーカリスト、アダム・レヴィーンさんの歌声が融合することで、心にしみる作品となった。7日からシネクイント(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開。(りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションをへてフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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