味園ユニバース:山下敦弘監督に聞く「歌で語る映画を五感で楽しんで」

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 「リンダ リンダ リンダ」(2005年)、「苦役列車」(12年)などで知られる山下敦弘監督の最新作「味園ユニバース」が、14日に公開された。大阪を舞台にした音楽映画だ。歌以外の記憶を失った男が、バンドマネジャーをするヒロインと出会って、ともに過ごす日々が描かれる。人気グループ「関ジャニ∞」の渋谷すばるさんと「ヒミズ」(11年)などの演技で評判の二階堂ふみさんを主演に迎えた。山下監督は「五感で楽しんで」と語る。

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 ◇バンド「赤犬」を入れたことでほどよい脱力感

 大森茂雄(渋谷さん)はあることがきっかけで記憶を失くし、公園で行われていたロックバンド「赤犬」のライブ会場にフラフラと現れる。圧巻の歌唱に魅せられた「赤犬」のマネジャー・カスミ(二階堂さん)は、彼に興味を持ち、祖父と暮らす小さなスタジオを経営する家に招き入れる。茂雄は赤犬と出会って歌うことで、才能を開花させていく……というストーリー。

 山下監督が「関ジャニ∞の中でもずば抜けて歌唱力がある」と感じる渋谷さんに、出身大学の先輩でもあり、大阪を拠点に活動するバンド「赤犬」を組み合わせた。

 「大阪で音楽映画をと思ったときに、大阪の面白さであるゴチャゴチャ感を出したいと思いました。茂雄とカスミだけのドラマだとシリアス過ぎるけど、背景に赤犬がいることで、脱力感というかユルさが生まれた。渋谷さんのボーカルは赤犬のボーカルとは真逆のタイプなので、お互い刺激になったのでは」

 「この映画は歌で語られていく」と山下監督。音楽のシーンでは渋谷さんと話し合い、演技については相談に乗りながら、記憶を失くした茂雄という男を作っていった。茂雄の記憶の重要な鍵となる曲に、和田アキ子さんの「古い日記」を選んだ。

 山下監督は「歌い出しのインパクトということで選びましたね。この曲は、茂雄と父親の思い出の曲。あまり大阪ならではの曲に傾き過ぎることなく、パーソナルな意味合いを出したかったんです」と語る。

 歌に茂雄のキャラクターを乗せながら、「ココロオドレバ」という曲も生み出された。アップテンポの曲で「歌詞は後ろ向きなのに、開き直って歌います。茂雄そのもの」と説明する。

 「渋谷さんがライブで歌っているときとは、違った感じになっているところも楽しめるのでは。歌一つ一つに意味を持たせたので、そこも楽しんでほしいです」をメッセージを送る。

 ◇茂雄とカスミの絶妙な距離感

 二階堂さんは、記憶のない茂雄に次第に引かれていくカスミを演じる。「演技力も抜群で、頭がいい二階堂さんが、カスミの弱さも出しながら演じてくれました」と山下監督は満足そうに語る。

 「2人を恋愛関係に見せたくなかった」という、その微妙な関係も映画の見どころだ。「茂雄には過去がなく、カスミには両親がいない。似た者同士だからカスミは茂雄を放っておけないんでしょうね。前半、カスミのあとをついて回る茂雄の様子は、まるでカルガモの親子のようです。カスミの魅力は母性です。2人の関係の絶妙な距離感も見てほしい」と見どころを語る。

 山下監督は、大学時代を含めて8年間過ごした大阪の街を今作で初めて映画の舞台に選んだ。離れてから10年がたち、客観的に描ける気持ちも生まれたという。通天閣などの分かりやすい大阪の風景を避け、町工場があるなじみの場所を選んでロケ−ションを行い、大阪のさりげない風景を描き込んだ。タイトルにある「味園」は、大阪市の千日前に建つビルの名前だ。古き良き昭和の建物として、地元の人たちから親しまれている。実際に赤犬がライブに立つ場所でもある。

 山下監督はその味園でのライブシーンを仕上げていたとき、思わず泣きそうになったという。「家族に迷惑をかけて、問題だらけの茂雄。クズだなと思ってたんだけど……(笑い)。卑屈になっていた茂雄が純粋さを取り戻したのが見えてきて、泣けてきました」と明かす。

 先月、今作はオランダのロッテルダム国際映画祭スぺクトラム部門に正式出品されて好評を得たばかり。「とにかくこの映画の核は歌です。五感で感じてほしい。映画ですけど、ぜひ聴きに来てください」とアピールする。

 出演は、二階堂さん、渋谷さん、鈴木紗理奈さん、野口貴史さん、康すおんさんら。14日からTOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都港区)ほかで公開中。

 <プロフィル> 

 やました・のぶひろ 1976年生まれ。愛知県出身。大阪芸術大学の卒業制作作品「どんてん生活」(99年)で注目を浴び、「ばかのハコ船」(2003年)、「リアリズムの宿」(04年)で通称“ダメ男三部作”を完成させる。「リンダ リンダ リンダ」(05年)、「松ケ根乱射事件」(07年)、「天然コケッコー」(07年)、「マイ・バック・ページ」(11年)、「苦役列車」(12年)、「もらとりあむタマ子」(13年)などがある。

 (インタビュー・文・撮影:キョーコ)

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