ロイヤル・シェークスピア・カンパニー(RSC)名誉アソシエイト・ディレクターも務めるジョン・ケアードさんが演出を手がけた舞台「十二夜」が8日から日生劇場(東京都千代田区)で上演される。今作は、シェークスピア喜劇の中でも最後のロマンティックコメディーといわれ、船の遭難で離れ離れとなった双子の兄妹を中心に、人々の間で巻き起きる“勘違い”と“片思い”の物語を描いている。元宝塚歌劇団男役トップスターの音月桂さんがヴァイオラとセバスチャンの2役を演じるほか、俳優の小西遼生さんや橋本さとしさん、女優の中嶋朋子さんらが出演。オーシーノ公爵役の小西さんに、シェークスピア作品や舞台の魅力、役どころなどについて聞いた。
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今作への出演が決まった時、小西さんは「シェークスピア(作品)というものをジョンの演出でできるということが、すごく幸せなこと」と感激したという。「やってみたいという興味はもともとあった」と話す小西さんだが、「それがどういう形であるかまでは想像していなかった」といい、「(シェークスピアに関しては)いわゆる世界の本物の方」とケアードさんの演出で演じられることを喜ぶ。
「レ・ミゼラブル」などの演出で日本でも人気のケアードさんについて、小西さんは「シェークスピアと友達だったのでは?と思うくらい(笑い)、持っている知識や情報量が多い」とジョークを交えてケアードさんの知識量をたたえる。知識を基にケアードさんは「ご自分でおそらく考えられたであろう作品に対しての解釈だったり、役柄の気持ち以上に言葉の意味や表現していることの意味、シーンの意味などを教えてくれる」といい、「この言葉はこういう意味だからこれを表現したいんだと」といった具体的な指示があるという。
稽古(けいこ)の序盤では今作の翻訳を担当する松岡和子さんも稽古場に来て、「日本語に訳したものをもう一度英語に訳して、これはいったい日本語ではどういう表現になっているかという確認作業を、僕らの理解のために僕らも交えて一つ一つ行った」と明かす。その理由を「日本語にすると本来英語が伝えたかった言葉の解釈とは変わってしまうこともあったりするので、直せるものは直し、直せないものはその意味を抱えて役者が演じるようにというのを一場一場ごとにやってくださいました」と説明する。普段はあまりやらない作業だそうだが、「だからこそ貴重」と力を込め、「そういうことを学べる、感じることができる人であり、作品。思っていた以上にすごく貴重で、得がたい経験をさせてもらっています」と笑顔を見せる。
役作りをする上で大切にしていることを「学ぶこと」という小西さん。「台本を読んで学ぶ、演出家の言葉を聞いて学ぶ、周りの芝居を見て学ぶ」と真摯(しんし)な態度でいつも臨むという。そして、「いい作品やいい演出家に恵まれていると僕は思っているので、学べば学ぶほど知ることがたくさんあると毎回思っている」と切り出し、「今回もお客さんの前に立つ前にどれだけ学べるかと。作者がシェークスピアだから大きすぎるけれど、シェークスピアが何を伝えたいのかということを知るという作業をしている」と完成度を高めるための過程を明かす。
今作について「きっと喜劇の原型なのでは」と表現し、「そこからいろんな方向に派生していっていろんなものが生まれているのではと思うぐらい、役柄すべてが生き生きしている」と語る。続けて、「現代でもよく分かる普遍的な言葉が出てくるけれど、失われたすごくシンプルで大切なものを今作には感じる」と作品の印象を語る。そのため「すごい共感はしやすい」と思っているものの、「ただ言葉が難しいので、(せりふを)入れるのは難しい(笑い)。言葉でどうやって話し、乗せて伝えるのかが難しい」と苦労をにじませる。
自身が演じるオーシーノについては「恋に浮かれているところから始まっているけれど、本当の愛なんて何一つ分かっていないし、女というものを分かっていない(笑い)」と表現する。ほかの人物も含め、「キャラクターたちは真面目にバカになっているというか、誰一人として真実のようなものが見えていない状態」だと説明し、「真実はお客さんと(物語に出てくる)道化だけは見えている中で、ほかの人たちは全員まだ本当のものが見えていないという状態というのは、お膳立てとしては完璧」と言い切る。そして「冒頭ではちゃんと試練が与えられてもいて、やっぱり優れたものは必ず目的があって、そこに向かう行動の意志があり、そこには障害があってというものが、作品として面白いものとなっていくと思う」と自信をのぞかせる。
オーシーノという人物に共感できるかと聞くと、「多分、ほとんどの人が共感できるのでは」といい、「恋の苦しみというのもみんなが知っている感情でしょう」としみじみと語る。「初恋などなかなかうまくいかない中で、成長していくにつれ、結ばれない人に恋することは誰にだってあるかもしれない」といい、続けて「まだ恋というものを知らない状態でそういうことに遭遇すると、すごく苦しみを味わう。だけどその苦しみを実はみんな好きだったりするし(笑い)、すごく複雑な感情だけれど、誰もが知っている気持ちなんだろうなと」と今作の題材にもなっている“恋”について語る。
小西さんは「ただ、この作品は恋を表現している言葉が美しくも難解」と今作の特徴を表現し、「特に日本語というものの壁は確かにあるので、そこをどういうふうにお客さんに伝えられるかという試練はある」と真剣な表情で語る。ちなみに、オーシーノは人から思われていることに気付かないようなタイプだが、小西さん自身は「気付く気付かないというよりは、(恋に)盲目になる」と言って笑う。続けて、「何事にもですが、夢中になってしまう。なかなか手に入らなかったり、追い求めている状態の時に、すごく盲目になるほど苦しむというのは共感できる」と自身の役に思いをはせる。
ここで、初めてはまったポップカルチャーを聞くと、「小さい頃を振り返ると、ある気はしますが、どちらかというと大人になるまであまりいろんなことにはまらずにきてしまった」と小西さん。むしろ「良くも悪くもですけど、今はまっている状態がずっと続いている。実は大きなことでいうと今」と芝居に熱中していることを明かした。
子供の頃、「自分がはまったつもりはないのに、親が宝塚(歌劇)が好きで小学校1年生ぐらいの時から宝塚劇場に毎月のように行っていた」と振り返り、「宝塚とは違いますが舞台に立つ仕事をするようになるとは思わなかった」と驚いている。さらに「学芸会が好きだった」と切り出し、「保育園の時、天使はそれまで女の子がやっていたのですが、初めて男の子で天使の役になった。学芸会の歌とかを今でも覚えてるぐらい好きだった」と笑い、「だから今やっていることが好きなのでは」と自己分析する。
シェークスピア作品に出演できることを喜ぶ一方で、「日本でシェークスピアをやるというのは結構ハードルが高い」と小西さんはいう。今作に関しては「英語が日本語になっていることを察知していてハードルが高いのだと思う」と推論し、この舞台について「すごく完成度が高くてシンプルで、多分日本で見ているどの舞台よりもシンプル」と評する。
さらに、「多分悲劇のほうが日本人は好きかもしれないし、喜劇は文化としてよりハードルが高そうに思われるかもしれないけれど、悲劇よりも喜劇の方がより日常に近いと思う」と今作を評価。「悲劇は業が深すぎる話が多いけれど、この話はすごく日常。どの役も本質が見えていない状態で、お客さんだけが見えている。だけどその状態というのは、往々にして僕たちも日常的にそうであって、人のを見るのは面白いじゃないですか」とちゃめっ気たっぷりに語る。「お客さんとして見るにはすごくシェークスピア作品の中でも分かりやすい、はまりやすい作品ではあると思う。そうなれるように稽古もいい方向に進んだので、一見の価値ありです」と力を込めてメッセージを送った。舞台は8日から日生劇場(東京都千代田区)、4月7日にiichiko総合文化センター iichikoグランシアタ(大分県立総合文化センター、大分市)、4月10~12日に梅田芸術劇場メインホール(大阪市北区)で上演予定。
<プロフィル>
こにし・りょうせい 1982年2月20日生まれ、東京都出身。2005年に特撮ドラマ「牙狼<GARO>」に主人公・冴島鋼牙役で出演し、体当たりのアクションが話題に。07年にはミュージカル「レ・ミゼラブル」でマリウスを演じ注目を集める。ドラマや映画、舞台など幅広く活躍し、特にミュージカルでの評価が高い。主な出演作品に「ピアフ」、「戯伝写楽」、ミュージカル「ジェーン・エア」、「ガラスの仮面」、「スリル・ミー」、「ブラック メリー ポピンズ」などがある。4月から舞台「シャーロックホームズ2~ブラッディ・ゲーム~」への出演が決まっている。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)