歌手で俳優の中村中さんが出演する舞台「ベター・ハーフ」が、4月3日から東京・下北沢の本多劇場で上演される。「ベター・ハーフ」とは、天国で一つだった魂が、現世で男性と女性に別れて生まれきたというギリシャ時代からの思想に由来し、自分が巡り会うべき、相性がピタリと合う“もう一人の存在”という意味。そんな「ベター・ハーフ」をテーマにした恋愛物語で、キャストは風間俊介さん、真野恵里菜さん、片桐仁さんという個性あふれる顔ぶれがそろう。中村さんは、体は男性で心は女性のトランスジェンダー、小早川汀を演じる。自身もMTF(Male to Female、体は男性だが心は女性)である中村さんに、今作での役作り、音楽と芝居の両立などについて聞いた。
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−−中村さんは歌手デビュー当初からお芝居の仕事もされているんですよね。
最初の5、6年は、歌手なので歌を歌う役が多かったんですけど、歌がないお芝居もやりたいなと思ったんです。それができないと、まだ役者をやってるって言ってはいけないような気もしてましたし、プロフィルにも特別「役者」と書くこともせず……。でも、2013年に「エドワード二世」というストレートプレイ(歌がないお芝居だけの舞台)に参加させていただいて、得意なもの(歌)を持たないで舞台に立ったということが、終わってから少しずつ自信にもなりましたし、それからはプロフィルにも「役者」と書くようにしたんです。
−−役者をやることで、音楽活動への影響はありましたか?
基本、1曲を書くというよりは、アルバムを作るという想定で大きなテーマや設計図があって、そこにどういう物語が必要なのかっていうことで曲を書いていく作り方が多いんですけど、デビュー当時は、それがなんとなく向いているのかなと思ってやっていたんですね。でも、その「なんとなく」がなくなりました。演劇では、物語で私は何の役割をしてるのか、周りの人は何を言ってるのかっていうのを分析しますし、物語を俯瞰(ふかん)で見る感覚があるんですけど、その全体を見る感覚っていうのが、そういう曲の書き方を顕著にしたんだと思います。やっていて影響は絶対あるんですよ。でもそれがいいか悪いかは、もうちょっと年を取ってから判断します(笑い)。
−−それでは、今回の舞台についてお聞きしたいのですが、中村さんはご自身と同じトランスジェンダーの小早川という役を演じるわけですが、役作りへの取り組みはどのように?
私の役作りってちょっと変で、「この人が恥ずかしいと思うところはどこかな」っていうところから始めるんです。私、コンプレックスフェチで、仲良くなりたい人の恥ずかしいところを早く知って、わざと「ちょっと背が低いよね」とかって突っついてみるんです。役もそこから入っていったほうが(人物像が)分かるんですよね。
−−では、小早川の“恥ずかしいところ”とは?
やっぱり、男として生まれてるってことが恥ずかしいと思うんですけど、男性のままでは愛されないと思ってるから、恋愛に対して臆病なんだろうなって。そのコンプレックスが自分のコンプレックスと似てるから、「共通点とかあるのかな」とかって難しく考えるとできないと思うんですね。その人になれないというか。だから、自分の実体験はオフにするというか、自分を殺すことだなって思います。そういう意味で、男性の役はやったことないんですけど、男性や女性の役をやるよりも難しいのかなって。
−−ところで中村さんは、今作の劇中にあるように、ネットで知り合った人と実際に会った経験はありますか?
はい。出会い系サイトでお友だちができたりはしました。デビュー前、友だちがいない時に友だちが欲しくて。その人と今も連絡を取り合ったりしてます。ホントに寂しかったんだなってその時を思い出すと、思います。
−−小早川が、風間俊介さん演じる諏訪の映像を見てキュンキュンする、という場面があるそうですが、中村さんが最近、男性にキュンキュンすることは?
日常茶飯事です(笑い)。料理研究家の土井善晴先生のファンなんですけど、テレビ番組での料理の教え方が関西の方の優しい感じで、かき混ぜるとか衣をつけるとかでも「ムラが味わいになるから」っておっしゃるんですね。その余裕のある感じとほほ笑みにいつもキュンキュンします(笑い)。
−−なるほど。ちなみにベター・ハーフという存在について、ご自身ではどう考えていらっしゃいますか?
私、天国でホントは一つの形だったのに二つになってしまって、ピタリと合う人がベター・ハーフだっていうことをまだ経験してないので、その定義をそんなに信じてないんですね。自分が「この人は合わない」って判断するのもおこがましいし、どんな人ともベター・ハーフになり得ると思うんです。それに必要なものが持てた時に巡り会えるんじゃないかと思います。
−−今回の4人のキャストの雰囲気や関係性に関しては?
真野(恵里菜)さんが人見知りだっておっしゃってたんですけど、私もそうで、でも大人の4人が集まったっていう感じ。人見知りしてる人たちのコミュニケーションのとり方、いい距離感っていうことなんですかね。バッと懐に入ってみたり、でも入りっぱなしじゃなくてもう1回戻して、みたいな感覚で。「ベター・ハーフと出会うには意気込まないことだ」と私は思っていたんですけど、4人でやりとりをしてると、見事に意気込んでいないというか、人を愛する準備ができてる皆さんだなって思うんですよ。何をしても受け入れてくれるような状態が出来上がってるっていうことは、ベター・ハーフというテーマに取り組むのに最適な状態だと思います。
<プロフィル>
1985年6月28日生まれ、東京都出身。2006年6月にシングル「汚れた下着」で歌手デビュー。同年8月には朗読劇「Radiogenic リーディング・スペクタクル 優雅な秘密」で役者としても初舞台を踏む。また、同年9月には2枚目のシングル「友達の詩」をリリース。舞台「ベター・ハーフ」は、15年4月3~20日に東京・下北沢の本多劇場で上演されるほか、4月25、26日に大阪・サンケイホールブリーゼ(大阪市北区)、5月3~5日に東京凱旋公演としてよみうり大手町ホール(東京都千代田区)で上演予定。
(インタビュー・文・撮影:水白京)
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