和田正人:「小林一茶みたいな生き方をしていきたい」 こまつ座公演「小林一茶」で主演

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 NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」でヒロインの幼なじみを演じた俳優集団「D−BOYS」の和田正人さんが主演を務める、こまつ座第108回公演「小林一茶」(紀伊國屋書店提携)が紀伊國屋ホール(東京都新宿区)で上演中だ。江戸時代の俳人・小林一茶を描いた井上ひさし作の評伝劇で、演出家の鵜山仁さんが演出を手がけ、10年ぶりに再演された。一茶を調べるうちに一茶の生き方を大きく変えたと井上さんが確信したという“ある事件”を劇中劇として取り入れ、一茶の半生をたどりながら観客を巻き込んだ推理劇が展開する。一茶を演じる和田さんに、目標だったという井上作品出演の感想や舞台の魅力、今作の見どころを聞いた。

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 ◇戯曲と向き合う日がいつか来ると思っていた

 上演期間中だが、「最初は覚えたものを放出する、形にするという感じでしたが、ようやくここにきて我が身に浸透してきた感じはあります」と和田さんは手応えを感じ、「座組としても日に日によくなっている感じはします」と充実感をにじませる。舞台は約1カ月の間、ほぼ毎日上演されているが、「こうしよう、ああしようとは特に思っていなくて、日々、その時のリアクションも生まれる感情も違うことを、ある種、楽しんでいます」と和田さん。さらに、「毎日これぐらいのテンションで頑張ろうというのではなく、低かったら低いなりにその日を楽しむというか。長い芝居になってくると、そういうことを逆にうまく使ったほうが面白いのではと思っています」と舞台に臨む際の心構えを語る。

 和田さんは、井上さんの戯曲を演じることが俳優としての一つの目標だったといい、「最初は“こまつ座=井上ひさし先生の戯曲をやる”ということなので、ついに来たかという印象でした」と出演決定時の心境を明かす。「文学というものに興味を持つというか、こういうものと向き合う時が、いつかは来るのではと思っていた」という和田さんは、「俳優として生きていく以上は必ずどこかで向き合わなければならないと思うし、それをしっかり自分のものにしなければ俳優としては長く生きていけないと思う」と持論を展開する。

 念願かなっての出演について、「ちょっと早いかなと思った」と意外な気持ちを打ち明け、「もうちょっと40歳近く(現在35歳)とかそれぐらいになったときに取り組ませていただけるものなのかなと思っていたので、意外と早いタイミングでという感じもしました」と説明。今回出演できたことを「言ってしまったら、今だからこそ怖いもの知らずな面もあると思う」と切り出し、「2、3回となるとある程度分かってくる部分もあるので、少し慎重になったりするかもしれないですけれど、今は知らないというものの強さで、ある種、勢いでガンとできてしまった部分もあるかなという気はします」と冷静に自己分析する。

 ◇五十嵐俊介と小林一茶が一つになる瞬間に注目

 役作りでは、「一つのシーンを深く突き詰めていくことがあまりできなかったのは、もしかしたら新しい取り組みかもしれない」と分析する。「瞬発的に、気持ちのままにやっていくのも、逆によかっただろうし、集中してやっていくしかないという中で見えてくる部分もある」といい、「そんなところもやらざるを得ないというのが新たな取り組みだったのかもしれない」と表現する。

 演技面での注目ポイントは、「それまで小林一茶をずっと演じてきた五十嵐俊介が一茶と同化する、一茶のいろんな気持ちを感じ取って一茶になる、背負う瞬間」と断言。「どこでそう見えたかは、見方や感じ方で違うとは思いますが、五十嵐俊介と小林一茶が一つになる瞬間が面白いので、注目して見てほしい」と意気込む。

 ◇役者の熱や魂を感じてほしい

 今作では小林一茶が巻き込まれた事件を中心に物語が進行する。「どこまでが史実に基づいているかはさておき、僕も含め、きっと皆さんも国語の授業で俳句とかが出てきたら脱落する人が多かったジャンルだと思う(笑い)」と切り出し、「もう一度改めて勉強し直せるではないですが、演劇を楽しみながらいろんなことを学べて、しかも容疑者なんてことになっていたという、二度三度おいしいという気持ちにはなる」と今作を評す。

 物語の構成も劇中劇を取り入れたり、迷句・珍句の言葉遊びにどんでん返しと凝った作りが興味深い。和田さんは「はっきり照明が変わったりとかしない限り、見ている側が『ここは劇中劇なのかな? どちらなのかな?』と混乱するだろうとは思ったけれど、実際に見ている人たちが迷って戸惑っていいのかなと」と感じたという。続けて、「一茶のなりゆきをずっと見ていて、あるとき『これって劇中劇だったんだ』とあとで思ってくれるのでいいのかなと」と自身の考えを語る。「必死で演じている役者の生の熱だったり、魂だったりをいっぱい感じていただける方がいいと僕は思います」と力説する。

 今作ではコミカルな演技も多く見られるが、和田さんは「コメディーもシリアスもどちらも取り組まないと、どちらもよくならない」と持論を展開。「シリアスな演技をできるようにならないと、コミカルなほうが立たなくなってくるし、シリアスなほうが際立ってくるからこそ三枚目のほうがまた面白く見えてくる」と演技への取り組みを語る。

 子どもの頃、「天空の城ラピュタ」を映画館に見に行ったことを強烈に覚えているという和田さん。「映画はよく見に行ったのですが、ドラマとかはあまり見ないし、テレビっ子ではなかったから、なぜテレビの世界に来たのだろうかと(笑い)」と話しつつも、「自分の中で、死ぬまで自分を磨き続けられる仕事、人生観として俳優をチョイスした節はある」とこの仕事を選んだ経緯を告白する。

 ◇年代ごとにいろいろ感じられる作品

 今作について、「若い人が見に来て感じてもらうことと、年配の人が見に来て感じることはやっぱり全然違うと思う」と切り出し、「僕ぐらいの年の人からすると、自分の野心であり欲であり夢でありということに、選択がたくさんあった中で常にその選択肢を選んできた一茶と、野心とかもあるけれど人の心が分かってしまって心を鬼にできず夢なかばになっている竹里という二つの大きな生き様があったとき、志すものがありますし、僕は一茶みたいな生き方をやっていきたいと思う」と一茶の生き方に共感を示す「でもそれはなかなかできないこと。簡単にはできないことだから、うらやましいし憧れる」と心情を説明する。

 さらに、「若い人たちは、その選択肢の中で『一茶は悪いやつで、竹里はいいうやつ』と単純なものにしか映らなかったり、年配の人は生き方のチョイスの深さや、『自分もあの時こういう選択肢を迫られたことがあった、あの時に違う方を選んでいたらどうなっていたかな』と振り返ることができたりもする」と魅力を語り、「誰にも共通する生きざまの代表的な二つというか、そんなことを考える作品」と今作を評する。そして、「これからの人生やこれまで生きてきた人生など、そういうものを照らし合わせて2人の男を自分の生きざまと置き換えて見ていただくと、井上先生のメッセージとか裏側に隠されている真意が響いたりはするのかなと思います」とメッセージを送った。舞台は新宿東口・紀伊國屋ホール(東京都新宿区)で29日まで上演中。当日券は毎公演販売され、開演時間の1時間前から劇場で販売している。問い合わせはこまつ座(03・3862・5941、http://www.komatsuza.co.jp/)まで。

 <プロフィル>

 1979年8月25日生まれ、高知県出身。2004年に「第1回D−BOYSオーディション」に出場し、特別賞を受賞してD−BOYSに加入。映画、舞台、ドラマと幅広く活動している。NNK朝の連続テレビ小説「ごちそうさん」にや連続ドラマ「ルーズヴェルト・ゲーム」(TBS系)に出演し注目を集める。第69回文化庁芸術祭賞演劇部門で新人賞に輝いた。

 (インタビュー・文:遠藤政樹)

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